5月27日(水)特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例6:故郷に戻れず逝った父 ③

取材報道<NHK特設サイト 新型コロナウイルス>から学ぶ11症例の研究

 

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。

 

以下は、取材記事を下敷きとし、加筆や編集部分は緑文字として区別しました。

 

症例6:故郷に戻れず逝った父(その3)

第3節:思いがけない事態に ~息子の話~

 

入院4日目、肺炎が進行したため男性はICU(註1)に移された。翌日には気管挿管(註2)したが、さらに症状は悪化した。

 

息子が主治医から受けた説明はー

 

ICU(註1)

Intensive Care Unitの略

日本集中治療医学会で「集中治療のために濃密な診療体制とモニタリング用機器、ならびに生命維持装置などの高度の診療機器を整備した診療単位」と定義されています。

病院内の施設の一種。呼吸、循環、代謝その他の重篤な急性機能不全の患者を24時間体制で管理し、より効果的な治療を施すことを目的とします。

集中治療室では一般には「病棟で重篤な症状を表した患者」「救急患者のうち継続的な状態管理が必要な患者」「手術後に高度な状態管理が必要な患者」など急性期の重症患者を受け入れます。

このケースでは、「病棟で重篤な症状を表した患者」に相当します。しかし、今日の一般病棟では、血圧、呼吸、酸素飽和度などの24時間モニタリングを実施することは可能なので、集中治療室がすでに使用されている場合は、やむをえず一般病室で24時間モニタリングを受けてしまう可能性が高く、医療従事者をはじめ院内感染やクラスター発生の原因にもなっている可能性があります。

 

気管挿管(註2)

人工エアウェイ(息の通り道)を必要とする患者の多くは,気管挿管によって管理可能です。経口気管挿管は,一般的には経鼻気管挿管よりも通常手早く施行できるため無呼吸および重篤(critically ill)の患者で選択されます。

経鼻気管挿管は意識があり自発呼吸を行っている患者または経口挿管を避けるべき場合にのみ用いられます。

このケースでは、この段階で意識レベルがかなり低下していたことが想定されます。

また、以前から、気管挿管は特にエアロゾル発生のリスクが高い手技だと言われていました。

呼吸困難で搬送される人の多くがCOVID-19という状況下では、気管挿管を陰圧個室で、かつガウンやキャップも付けるフルの個人防護具で行うべきでしょう。

米国の救急室では気管挿管チームを作って待機させておき、必要最小限の人数で気管挿管を行って、感染リスクを下げているところもあるようです。ただ、日本の施設でそれが可能なところはかなり限られているようです。

 

 

酸素濃度の状態が悪くなってきたということで、人工呼吸器のサポートでもすでに限界であろうと。そのときに「人工心肺、ECMO(註3)というものがありますから、それを使った治療に切り替える必要があります。最大限効果を引き出すためには、専門の先生がいらっしゃる病院に転院する必要があります。転院する形になってもよろしいですか」と。


ECMO(註3):
人の肺の代わりに人工的に作られた人工肺によって酸素と二酸化炭素の交換(ガス交換)を行うのがエクモです。エクモはガス交換をする人工肺(膜型人工肺)と、体内から血液を取り出し人工肺に 血液を送り体内に送り戻す血液ポンプによって構成されます。人の肺の代わりに人工的に作られた人工肺によって酸素と二酸化炭素の交換(ガ ス交換)を行うのがエクモです。エクモはガス交換をする人工肺(膜型人工肺)と、体内から血液を取り出し人工肺に 血液を送り体内に送り戻す血液ポンプによって構成されます。老廃物を含んだ血液を老廃物の少ない血液に換えるのが腎透析(人工腎臓)だとすると、ECMOは血液に溶けている二酸化炭素が多い血液を酸素が多い血液と交換する肺透析(人工肺)をイメージしてみるとわかりやすいかもしれません。

 


最初は三重県と言われたんですけども三重は病床の空きがなくて、しばらくは名古屋の今の病院でっていうこともご検討いただいたみたいなんですが、東京のほうで病床に1つ空きがあるから、そちらのほうへと言われました。最初に聞いたときは、父はずっと愛知県で生まれて育ってるもんですから、東京というところに1人で行かせるのがかわいそうだなっていうのは感じたんですね。でも、主治医の先生がご苦労されて見つけてくださった結果だと思ってましたので、そうやって提示していただけるだけでもありがたいことだなと思って。


ECMOの詳しい説明(註4)もありました。当然、高齢ですから、「ひょっとしたら救命できない可能性もあります」と。それから、つけてる間に感染症にかかったり、血栓ができてしまって脳梗塞であるとか、呼吸がなくなってしまうリスクとか、どこからか出血をして重大な状態になるかもしれないってことも説明を受けて。

 

ECMOの詳しい説明(註4)
ECMO装着で起こりうるトラブルとしては、 人工肺異常(酸素化不良)32% 、 回路からの出血・回路損傷 15% 、回路内血栓 9% 、ポンプ異常5% 、カニューレトラブル・抜去 5% 、回路内への空気混入3%、その他12%があります。トラブルの3分の1が人工肺異常(酸素化不良)であるということは、装着のタイミングを逃してしまうケースが少なくないことを示唆するものと考えます。

ただ、今、コロナウイルスの治療に関しては、大きなネットワークができていて、その中で病院の垣根を越えて治療が行われている。そういうところで万全の態勢で治療をするということと、今後出てくる患者さんの治療にすごく役に立つからということも言われたんですね。
ひょっとして父はだめかもしれないなって、その時思ったんですけども。でも医学の進歩に貢献(註5)できるんだったら、それはきっと父も喜んでくれることかなと思ったものですから、母と相談して、それが最善の方法であればお願いしましょうということになりました。

 

医学の進歩に貢献(註5)
「医学の進歩に貢献」するという貴い言葉に久しぶりに出会えたような気がします。なぜならば、「現代医学は十二分に進歩していて、その恩恵に預かれるのは当然の権利である。したがって、期待した結果が得られないのは、医療従事者の債務不履行である。」といわんばかりの世相の風潮を感じるからなのかもしれません。しかし、初期判断やそれに基づく行動にほとんど無駄のなかったこの方の命を、顕著に進歩しているかのように一般に信じられている現代医学が救うことができなかったことはとても残念です。この件については明日に続きます。