5月19日(火)認知症とADLについてNo2

認知機能が低下した状態である認知症とは、何らかの「脳の疾患」によって、「認知機能」が障害され、これによって「生活機能」が障害された状態をいいます。

 

そして、このような「脳の疾患―認知機能障害―生活機能障害」の3者の連結を中核にして、さまざまな「身体疾患」、さまざまな「行動・心理症状」、さまざまな「社会的困難」が加わって、認知症の全体像が形づくられます。

 

認知機能の評価法と認知症の診断(その2)

2) 認知機能検査(スクリーニング検査)

認知機能障害が疑われる場合には、以下の表1に示すような認知機能検査を行うことが望ましいです。いずれもスクリーニング検査であり、検査の目的、検査の所要時間、実施者の職種などの施設の状況に応じて検査を選択してよいとされています。
表1 認知機能検査(スクリーニング検査)

 

1) HDS-R(Hasegawa's Dementia Scale-Revised:改訂長谷川式認知症スケール)(所要時間:6-10分)
 HDS-Rは年齢、見当識、3単語の即時記銘と遅延再生、計算、数字の逆唱、物品記銘、言語流暢性の9項目からなる30点満点の認知機能検査です。
HDS-Rは20点以下が認知症疑い(感度93%、特異度86%)

 

2) Mini-Cog(2分以内)
Mini-Cogは3語の即時再生と遅延再生と時計描画を組み合わせたスクリーニング検査
2点以下が認知症疑い(感度76-99%、特異度83-93%)MMSEと同様の妥当性

 

3) MoCA(Montreal Cognitive Assessment)【検査はこちらから参照可能、検査方法はこちらから参照可能】(10分)
 MoCAまたはMoCA-J(Japanese version of MoCA)は視空間・遂行機能、命名、記憶、注意力、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識からなり、MCIをスクリーニングする検査。
MoCAは25点以下が軽度認知障害:MCI(感度80-100%、特異度50-87%)
MoCAはMMSEよりも糖尿病患者の認知機能障害を見出すことができます。

 

4) DASC-21(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items: 地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート)(5-10分)
 DASC-21は認知機能障害と生活機能障害(社会生活の障害)に関連する行動の変化を評価する尺度。介護職員やコメディカルでも施行できる21の質問。
DASC-21 は臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating, CDR)と相関があり、その妥当性が報告されています。

 

5) MMSE (Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)(6-10分)

MMSEは時間の見当識、場所の見当識、3単語の即時再生と遅延再生、計算、物品呼  
称、文章復唱、3段階の口頭命令、書字命令、文章書字、図形模写の計11項目から構
成される30点満点の認知機能検査。
MMSEは23点以下が認知症疑い(感度81%、特異度89%)
27点以下は軽度認知障害(MCI)疑い(感度45-60%、特異度65-90%)1

 

5) ABC-DS(ABC dementia scale:ABC認知症スケール)【検査はこちらから参照可能】(10分)
 ABC-DSは、13項目9件法の行動観察式スケール。評価者は、介護者から患者の 
ADL, BPSD, 認知機能に関する最近のエピソードを聴取して採点。
評価方法:項目毎、ドメイン毎、13項目の和(総合スコア)及びTDD(3次元距離法)。なお、TDDはADL, BPSD, 認知機能を統合して、「一人の患者の病態」として評価する手法。
標準的スケール(DAD, NPI-D, MMSE, CDR, FAST, 長谷川式認知症スケール、EQ-5D-5L)との相関
特に臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating, CDR)との併存妥当性が高いです。

 

杉並国際クリニックでの実践
当クリニックですでに採用し、実施している認知機能のスクリーニング検査は、
上記のうち、1)HDS-R(改訂長谷川式認知症スケール)(所要時間:6-10分)
および5) MMSE(ミニメンタルステート検査)です。
検査を採用するうえで重要な指標は、第一に検査の感度と特異度です。

 

1) の改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)の感度93%、特異度86%であり、いずれの指標も満足のいくものであるため第一選択としています。

 

5)のミニメンタルステート検査(MMSE)も、認知症のスクリーニングでは、感度81%、特異度89%であり、比較的良好である上に、軽度認知障害(MCI)のスクリーニングが可能です。ただし、その場合の感度は45-60%あまり高くないため、あくまでも参考データとして経時的変化をみることにしています。
なお今後は、軽度認知障害(MCI)の段階でのスクリーニングの重要性に鑑みて、感度がより高い

 

3)のモントリオール認知評価(MoCA)日本版の併用を検討しています。