5月18日(月)認知症とADLについてNo1

先月の第4週のテーマは高齢者糖尿病の血糖コントロールでしたが、血糖のコントロール目標設定のためには認知機能及びADLの評価が決め手となることについて述べました。
 

今月は、その認知機能及びADLの評価について神経内科あるいは老年医学科の視点から具体的に整理していこうと思います。

 

まず、簡単に復習してみますと、糖尿病の治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能 や基本的 ADL、手段的 ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定します。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意します。

注 1:認知機能や基本的 ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、

手段的 ADL:買い物、 食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、 日本老年医学会のホームページ を参照にします。


エンドオブライフ(人生の晩年の終末期)の状態では、 著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先します。

注 2:高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は原則的には 7.0%未満です。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を 6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を 8.0%未満とします。その際は特に下限を設けません。カテゴリーIIIに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容されます。

 

注 3:糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよいとされます。 65 歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意します。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もあります。

 

 

それでは、まず認知機能の評価法について、日本老年病医学会のHPから引用し、解説を加えます。

 

認知機能の評価法と認知症の診断(その1)

 

1) 認知機能障害を疑う手がかり

高齢糖尿病患者では記憶、遂行機能(実行機能)、情報処理能力などの認知機能の領域が障害されやすくなります。遂行機能とは目的をもった一連の行動を自立して有効に成し遂げる機能で、遂行機能障害があると段取りがうまく行かず、セルフケアが困難になりえます。糖尿病患者における遂行機能障害は高血糖、手段的ADL(買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の障害、およびセルフケアの障害と関連します。
 

記憶障害、手段的ADLの障害などは認知機能障害を疑う手がかりとなります。高齢糖尿病患者の認知機能障害は手段的ADL低下と関連すします。一般の高齢者では買い物や金銭管理の障害は最も軽度認知障害(MCI)を予測するという報告があります。
 

特に以下のような状況では認知機能障害の頻度が高いことを認識する必要があります。
 

a) 75歳以上、b) HbA1c 8.5%以上、c) 重症低血糖の既往、d) 脳卒中の既往

 

 

杉並国際クリニックでの実践

最初に実施したのは、 

a) 75歳以上の方全員のb) HbA1cを確認する作業です。

75歳以上の受診者の中でHbA1cの検査をしている方は36.4%で、そのすべて糖尿病の患者さんですが、全員6.0%未満で、データの範囲は5.5~5.9%と、すべて良好な成績でした。しかも、c)重症低血糖の既往のある方はいませんでした。

 

一方、75以上の受診者でHbA1cの検査をしていない方は63.6%に上ることが判明しました。そこで、これらの方は、健診やドックなどを活用して、最低年に一回以上、HbA1cの検査データを確認していただくことにしました。