5月16日(土)SARSV-2ウイルスによるCOVID-19感染症に効く漢方薬 <増補再掲版>No3

<統合医学(心身医学・漢方医学)カンファランス>

日本感染症学会特別寄稿

 

感染症に対する漢方治療の考え方
金沢大学附属病院漢方医学科 小川 恵子

 

3.軽症型

軽症型は、「症状が軽く、画像では肺炎症状が出ていない。」と定義され、倦怠感が主体です。

 

①胃腸の不調を伴う場合
藿香正気散(かっこうしょうきさん)
日本のエキス製剤にはありませんが、香蘇散+平胃散(左 2 剤を一緒に服用)で代用できます

 

②発熱を伴う場合
中医学では、悪寒がない場合は「温病(うんびょう)」 と考えて治療します。
金花清感顆粒、連花清瘟 (顆粒)、疏風解毒膠嚢(顆粒)
これらもエキス製剤にありませんが、黄連解毒湯、もしくは清上防風湯、もしくは荊芥連翹湯、もしくはこれらの組み合わせで代用することができます。

 

③悪寒を伴う場合(日本漢方の考え方)
中国では、日本ほどには葛根湯などの麻黄剤が感染初期には用いられないようですが、寒湿邪による病態と考えると、下記が日本人の病態にはあっていると思われます。
エキス剤: 通常は健康な成人や小児 葛根湯、もしくは麻黄湯
高齢者や倦怠感が強い患者は麻黄附子細辛湯
葛根湯は、インターロイキン 1a の産生を抑えたり、 インターロイキン 12 を産生することにより過剰な 肺炎を防ぐ可能性が期待されています。

ここからは、中医学用語が多く出てきますが、わかりやすく説明しました。

 

大切な概念、「邪」は、病気を引き起こすとされる原因全般を言います。中医学では、「邪」の性質によって治療を決めるので、下記ように分類されていますが、主に臨床症状に注目していただければよいと思います。舌の所見も参考として引用しました。

 

 

杉並国際クリニックからの追補

小川先生は、日本漢方について言及しています。これはとても有意義な解説です。

ところで、すべての漢方薬の基本となっているのは45桂枝湯(ケイシトウ)であるとされます。

 

桂枝湯の構成生薬は5味で、以下のキャストです。
(君薬)桂枝、(臣薬)芍薬、(左薬)甘草、(使薬)生姜、大棗

 

オペラ「桂枝湯」のタイトルロール(主役ならぬ主薬です)をはるのはソプラノの桂枝さんです。この漢方薬は、体力が衰えた時の風邪の初期に用いますが、首や肩が凝り、熱っぽくなっても発汗しないような場合には、葛根湯が効きます。

 

これに対して、1葛根湯(カッコントウ)は、

(君薬)葛根、(臣薬)麻黄、(左薬)桂枝、芍薬、(使薬)甘草、大棗、生姜

 

これは、桂枝湯をベースにして葛根と麻黄を主剤にした処方です。

 

オペラ「葛根湯」の主役はメゾソプラノの葛根姫、彼女の甘く柔らかい歌声で頭痛や肩こりはほぐれてきます。しかも、相手方はウイルスと戦ってくれる頼もしいが強面の魔王(麻黄)です。

 

 

また、27麻黄湯(マオウトウ)は、
(君薬)麻黄、(臣薬)桂枝、(左薬)杏仁(使薬)甘草
 これは、麻黄を主剤とした4味のみのシンプルな舞台構成です。

 

これは、どちらかというと能舞台、しかも能の五番目物、すなわち鬼畜物。

 

演目は「魔王(麻黄)」鬼や天狗といった荒々しく威力のあるものが仕手となるからです。

 

配役は、シテ麻黄、ワキ桂枝、シテツレ杏仁、ワキツレ甘草
麻黄湯の適応:感冒、関節リウマチ、喘息、インフルエンザ(初期)

 

【悪寒、発熱、頭痛、腰痛があり、自然に汗が出ないものの諸症】

 

杉並国際クリニックは、漢方の他にリウマチ科やアレルギー科を専門標榜しているので、関節リウマチや喘息の症例が豊富です。

 

そのような患者さんには水氣道®で心身を鍛錬することをお勧めしています。そのせいもあって風邪をひきにくくなり、万が一風邪をひても、この麻黄湯を2,3日内服していただけば、たいてい完治し、喘息やリウマチも軽快していきます。