5月14日(木)胆道癌と膵癌:膵がんNo1

膵がんの早期発見のために

 

膵がんは、膵臓から発生した悪性腫瘍です。そのなかで、膵管上皮から発生する浸潤性膵管癌(腺癌)が90%を占めます。その他の数種の癌は、いずれもまれな腫瘍です。

 

がんの統計によるとわが国における膵がんの年間罹患率は34,837人(2013年)、年間死亡数33,475人(2016年)で、近年は増加傾向にあります。罹患率と3年後の死亡数がほぼ同数であり、死亡率は極めて高いことがわかります。膵がんの多くは切除不能で診断され、切除可能例は20~30%に過ぎません。切除例と非切除例を含めた5年生存率は10%未満であり、悪性腫瘍の中で最も予後不良の疾患の一つです。

 

膵がんの診療ガイドラインは、米国では全米がんネットワーク(NCCN)によりガイドラインが改訂を重ねており、欧州では欧州臨床腫瘍学会(ESMO)によるガイドラインが汎用されています。わが国のガイドラインは2006年に初版が出され、2019年7月に第5版が「膵癌診療ガイドライン2019年版」が刊行され、このガイドラインを中心に膵がん診療が進められています。杉並国際クリニックでも、2019年の最新のガイドラインに基づいて、少しでも膵癌の早期発見に努めたいと考えます。

 

 

(1) 初期症状

症状に乏しく、がんが進行するまで無症状のことが多いです。
・自覚症状としては、腹痛(78~82%)、早期膨満感(62%)、背部痛(48%)
 初期で比較的多いのは「何となく胃の具合が悪い」などの腹部不定愁訴です。
   

・他覚所見としては、体重減少(66~84%)、黄疸(56~80%)

  体重減少は、他の癌に比べて急速かつ早期より著しいので重要な手がかりになります。
   
  

これらはすべて非特異的症状といって、膵がんの診断に直結するような特徴的な症状ではありません。しかし、非特異的ではあっても黄疸の出現や糖尿病の急激な増悪をきっかけとして膵がんを疑って検査を行うことが重要です。

 

とくに注意していただきたい自覚症状は背部痛です。放置せずせっかく医療機関を受診しても整形外科等で漫然と対症療法を続けていたあげくに症状が増悪して、当院を受診された方に超音波検査を実施したところ膵がんであったというケースがありました。

 

 

(2) 危険因子

膵がんの危険因子を列記してみます。

・膵がんの家族歴、遺伝性膵炎などの遺伝性疾患、糖尿病(突然発症、急性悪化)、慢性膵炎(膵石症)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵嚢胞、肥満、喫煙、大量飲酒、塩素化炭化水素曝露に関わる職業従事

 

これらの危険因子を複数有する場合は、膵がんの高リスク群として定期的に膵がんのスクリーニング検査を行うことが望ましいとされます。

 

しかし、具体的なスクリーニング法は確立していません。実際には、血液検査で血中の膵酵素、腫瘍マーカーを検査し、腹部超音波検査を行うことから始めることは推奨できます。しかし、残念なことに、腫瘍マーカー検査による膵がんのスクリーニングは保険診療で規制されてしまい実施が困難です。

その理由は、膵がんで80%が陽性になるCA19-9も、50%が陽性になるCEAも早期診断の段階では有用でないとされるからです。

 

杉並国際クリニックの前身であった高円寺南診療所の30年に及ぶ診療では、それにもかかわらず当方のコスト負担で検査を発注するという不合理な方法を採ってきましたが、財政的に継続不能であるため、杉並国際クリニックに改めてからは、やむを得ず実施を見合わせることにしました。

腫瘍マーカー検査は、自費ドックの形式で実施している医療機関もあります。

 

いずれにしても、これらのスクリーニング検査で、何らかの所見を認めた場合は、造影CT、造影MRI、超音波内視鏡検査(EUS)検査による精査を行うことが勧められることになります。

 

杉並国際クリニックの膵がん対策は、まず、膵がん発症の予防から取り組んでいます。その方法は、まず、発症の危険因子を減らすことです。その多くが生活習慣関連です。

 

喫煙によるリスクに対しては禁煙、大量飲酒によるリスクに対しては節酒、肥満によるリスクに対しては減量が基本であると考えます。肥満対策は糖尿病や慢性膵炎というリスクの軽減にも繋がります。これらの対策は、膵がんのみの予防ではなく、その他の多くの癌発生の予防にも役立ちます。

 

そのうえで、診療においては詳細な家族歴、職業歴を聴取するように心がけたいと考えています。

 

<明日へ続く>