5月9日(土)SARSV-2ウイルルスによるVOVID-19感染症に効く漢方薬 <増補再掲版>No2

<統合医学(心身医学・漢方医学)カンファランス>

日本感染症学会特別寄稿

感染症に対する漢方治療の考え方

金沢大学附属病院漢方医学科 小川 恵子

 

COVID-19 に対する中医学処方(漢方薬)の状況と推奨 1.予防(無症状病原体保有者)

 

これは、中医からの報告には記載されていませんが、予防は肝心です。手洗い、うがい、不要不急の外出を避けることももちろん重要ですが、漢方薬には免疫力を上げる働きも報告されています。このような働きを持つ漢方薬を補剤と言って、免疫システムを活性化します。

無症状病原体保有者の病原体陰性化の促進も期待できます。

 

1)補中益気湯

動物実験より、補中益気湯はインターフェロン 自体の産生を抑制すると報告されています。

 

2)十全大補湯

我々のヒト対象の研究では、十全大補湯服用によって NK 細胞機能が改善されることが分かっています。また、抑制系も活性化されることから、過剰な炎症の予防も予想されます。

 

杉並国際クリニックからの追補

今回の記述は、中医からの報告によるものではなく、漢方専門医にとっては初歩中の初歩の情報提供ですが、感染症専門医が直ちに処方しても問題のない安全な処方であることは確かです。

 

小川先生も記していますが、漢方薬には免疫力を上げる働きをもつ補剤として分類される処方が豊富にあります。原因療法となるような決め手となる治療薬を確保できない今回のような事態にあっては、結局のところ個々人の有効な予防行動や免疫力こそが決め手になります。

 

そこで、小川先生は一般的な予防対応に加えて、免疫力向上のための代表的な処方を挙げることにされたものと思われます。これらの補剤は虚弱体質の患者さんも安心して内服していただいて結構です。

 

小川先生は代表的な補剤である二つの処方を紹介されましたが、補剤には補気剤(気虚を治療する方剤)、補血剤(血虚を治療する方剤)および気血双補剤(気血両虚といって気虚と血虚の両方を治療する方剤)に細分されます。補中益気湯と十全大補湯はいずれも補剤ですが、この二つは働きが異なります。前者は補気剤、後者は気血双補剤です。

 

 

41補中益気湯(ホチュウエッキトウ)  

適応:

夏痩せ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症

 

【消化機能が衰え、四肢倦怠感が著しい虚弱体質者の諸症状】
以上の症状は、中医学では気虚の症状に対応します。気虚とは、エネルギー不足で、消化管をはじめとする諸器官の機能低下や食欲・意欲の低下など心身両面にわたる機能低下と免疫力の低下を来した状態です。

 

48(ジュウゼンダイホトウ)
 

適応:

病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血

適応外有効例:

癌を含む慢性消耗性疾患の体力回復、悪性腫瘍によるQOL低下、抗癌剤・放射線療法の副作用

以上の症状のうち、貧血、手足の冷え、病後の体力低下は典型的な血虚の症状です。
  

また疲労倦怠、食欲不振、寝汗などは気虚の症状ですが、気虚の状態が長引くと血虚の病態をさらに悪化させてしまいます。