5月2日(土)SARSV-2ウイルスによるVOVID-19感染症に効く漢方薬<増補再掲版>No1

<統合医学(心身医学・漢方医学)カンファランス>


日本感染症学会特別寄稿

感染症に対する漢方治療の考え方

金沢大学附属病院漢方医学科 小川 恵子

 

 

はじめに

まだ抗生物質もワクチンもなかった時代、日本の伝統医学である漢方医学の主要な対象は感染症でした。しかし漢方薬が重篤な感染症にも有効であるという事実は広くは知られていないと思います。

漢方医学の専門家という立場から私見を言えば、漢方の現代医学とは異なった感染症へのアプローチは、今日でも役立ちます。

しかし筆者は、この COVID-19 のパンデミックへの漢方医学の貢献の可能性に関して積極的に発言するのを避けてきました。

なぜなら、エビデンスが確立していないからです。

 

また、中国と日本では、気候や体質が異なるため、異なった病態を示す可能性も多くあり、本来は漢方医学診断から処方を決めた方が効果が高いと推察されるからです。

しかし、数多くの呼吸器内科医や救急医の友人たちから、「患者さんに役立つならば是非効果のありそうな処方を知りたい」という要望があり、現状で分かっていることで、漢方が役立つ可能性を伝えるという視点から、主に中国の診療ガイドラインを参考に、現在までに分かっている漢方医学的・中医学的な知見を簡潔にまとめました。

しかし、日本の漢方医学にはいくつか中医学と異なる点があります。臨床的にみて最も大きな違いは、中国では生薬を組み合わせて煎じ薬を新たに創るのに対し、日本では保険診療で認可された、固定した処方のエキス製剤を使うことが多いことです。そのため、中国からの報告を日本での保険診療に役立てるには、中国の中医学的指針の単なる翻訳ではなく、適切な補説を伴った翻訳が必要と感じました。

 

実際の臨床に役立ち、重症化の防止や、重症化した患者さんの早期回復に役立てれば幸甚です。 また、記載内容について不十分な点もあるかと思います。ご意見がありましたら、是非ご連絡いただければと思います。

 

 

 

杉並国際クリニックからの追補

著者の小川恵子先生は、名古屋大学医学部出身の医学博士で、現在は金沢大学附属病院漢方医学科特任准教授です。

東洋医学会の漢方専門医の中には私以外にも同様の発想で国内向け処方案を考案する方がおられるだろうと予測していたところでした。

ただし、小川先生とは直接の面識はありません。先月の<統合医学(心身医学・漢方医学)カンファランス> にて毎週土曜日に連載しましたが、好評につき、さらにわかりやすくまとめてみることにします。

 

小川先生は『漢方医学の専門家という立場から私見を言えば、漢方の現代医学とは異なった感染症へのアプローチは、今日でも役立ちます。』と書いていますが、これは患者さん向けでなく、日本感染症学会会員の医師向けのメッセージであることが大切です。

 

日本感染症学会の専門医で漢方薬を使いこなせる方は少ないだけでなく、エビデンス病の患者が多いこともあり、そもそも漢方薬など効くはずがない、と思い込んでいる頭の固い方が少なくないからです。だからこそ小川先生「私見を言えば」と控えめな表現をとらなければならなかったのだということは私には良く理解できます。

 

新しい病気や未知の病気が蔓延したとき、西洋医学では早期の対応ができないことが多いです。原因やメカニズムがわかって診断がついても、治療方法やワクチンなどの予防法が確立するまでに時間がかかります。これに対して、漢方医学は、患者さんの確定診断が得られなくとも、折々の個々の病態に叶った個別的な治療対応が直ちにとれることが大きな強みだと思います。