4月28日(火)心臓病診療の最前線No2

BNP検査と保険医療の実像(その2)


昨日は、心不全の医療、とくに心不全の診断の上で血液検査のBNPが有用であり、患者さんの自己負担も3割負担の方の場合でも410円と安価であることをお伝えしました。

 

本日は、BNP検査にまつわる医療制度の知られざるバックヤードについて報告します。

 

以下は、本年1月分の診療報酬に関する社会保険診療報酬支払基金東京支部から、杉並国際クリニックに届いた減増点連絡書です。


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1月分減増点連絡書(社会保険診療報酬支払基金東京支部)より

減点事由A: 療養担当規則等に照らし、医学的に保険診療上適応とならないもの

減点事由B: 療養担当規則等に照らし、医学的に保険診療上過剰・重複となるもの

減点事由C: 療養担当規則等に照らし、A・B以外で医学的に保険診療上適切でないもの

減点事由D: 告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの

 

減点対象<審査内容>BNP(件数1)

 

審査結果の理由等:『「BNP」を必要とする傷病名、状態・病態または症状詳記等の記載がありません。』(減点事由C)

 

 

当クリニック調査結果:

・「心不全」という傷病名は記載して提出しているため、
減点事由A: 療養担当規則等に照らし、医学的に保険診療上適応なので該当しません。

 

・また、心不全として初めて実施した検査なので、
減点事由B: 療養担当規則等に照らし、医学的に保険診療上過剰・重複ではないので、当然、該当しません。
 

・告示・通知の算定要件に準拠して請求しているので、

減点事由D: 告示・通知の算定要件に合致しているので、当然、該当しません。
 

以上の条件をクリアしているにもかかわらず、

減点事由C: 療養担当規則等に照らし、A・B以外で医学的に保険診療上適切でないものとされるのは実に不可解です。
  

そこで、これ以上何を要求しているのだろうか、ということを詳細に調査したところ、以下のような「厚生労働省通知」という指令が発せられていたことを知りました。

 

脳性Na利尿ペプチド(BNP)の算定回数の取扱いについては、

平成28年3月4日付け厚生労働省通知保医発0304 第3号「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」において、月1回に限り算定すると記載されています。
  

D008 内分泌学的検査 17 脳性Na利尿ペプチド(BNP)         

⑺ 脳性Na利尿ペプチド(BNP)  

ア 「17」の脳性Na利尿ペプチド(BNP)は、心不全の診断又は病態把握のために実施した場合に月1回 に限り算定する。

ただし、この指示を知るまでもなく、この指令の条件にはすでに合致していました。
  
   

しかし、もう一つだけ、民間の医療機関の医事課の事務職員が作成した資料が非公式に発表している対策メモにアクセスすることができました。

それは、『レセプト提出前に算定日やコメントの記載が必要な検査項目の点検チェックリスト』というものでした。このような作業は、専門の事務職員を擁する大病院でなければ対応できません。その情報によれば、BNP検査に関しては、検査実施日の記載が必要であるということでした。

 

 

杉並国際クリニックの所感:

ひと月ごとのレセプト提出をしているにもかかわらず無意味で形式的で例外的な規則策定により大きな事務負担を強いられています。

950円の診療報酬を受領するために現場の多忙な臨床医は、このような作業確認に心血を注がなければ経営が成り立たないのです。

医学の進歩に伴う適切かつ妥当な医療費さえも抑制する政策にどのような意味があるのでしょうか。

今後も厚生労働省より、ますます無意味な医療妨害指令が発せられることになることでしょう。

医療の専門家である医師という社会的資源を、適切な業務以外の些末な事務のために消耗かつ浪費させるような現状下においては、医師不足はまずます助長されるばかりです。

これは医療経営を破綻させ、保険医療を崩壊に導くものに他なりません。

 

このような事態に陥っているのは、医療サービスの享受者である患者・国民に周知させて、民意を仰ぐことなく、一方的な指令のみで非民主的に統制しようとする行政の在り方やマスコミなどのメディアの無関心と無責任に加え、私共医療従事者も多忙さにかまけて毎日接している患者の皆様に対して現状の医療システムについて説明することを怠ってきたことも反省しなければならないと受け止めております。