4月19日(日)臨床聖楽法(聖楽療法の理論)

聖楽療法の体系構成

 

第一部では、聖楽療法の理論の背景としての心身医学について概説し、そのうえで新しい心身医学の考え方を明確にしました。

 

今月は、「第二部 聖楽療法 理論と実践の性質」について展開中です。

 

第二部は、聖楽療法の拠点としての聖楽院とは何かについて、その起源を述べ、いくつかの心身医学的アプローチをどのように応用して発展してきたかを省察します。

 

それでは、「第二部 聖楽療法 理論と実践の性質」のアジェンダを示します。

 

 

第3章 臨床聖楽法の起源と基礎

 

第4章 臨床聖楽法における芸術音楽の価値

 

第5章 臨床聖楽法の理論的根拠、実践、意味

 

第6章 音楽療法モデルにおける臨床聖楽法の考え

 

第7章 現代の音楽療法の枠組みにおける臨床音楽法の考え

 

 

それでは本題に入ります。

 

第3章 臨床聖楽法の起源と基礎

 

音楽療法はどのように発展してきたのか?

そして臨床聖楽法は音楽療法の中でどのような立場と役割をもつのか?

音楽中心の考え方と臨床的音楽体験をめぐって

 

 

音楽中心の考え方とは、音楽体験そのものが自己充足的な療法体験となる力となることを正当な理由とし、療法の主要な焦点であるという立場です。その要点は臨床聖楽法も同様であり、矛盾はありません。

ブルシアは「音楽のプロセスは、クライエントの個人的プロセスそのもの」であり、「プロセスと結果は切り離せない」と考えます。それゆえに音楽中心心理療法において、「音楽経験は療法的に変容するものであり、それ自体で完結する」と主張します。

そして「体験的な変化を目的とした音楽心理療法の形態」である変容的療法と、「言語を介して生じる気づきを目的とする」洞察的療法を区別しています。さらに、「心理療法としての音楽」が最も音楽を占有的に使うプロセスであるのに対し、「音楽中心心理療法」では音楽体験と共に言語的介入がなされ得るとしています。そして、「音楽的なプロセスが実際にはクライエントの個人的なプロセスである」とする変容的療法は音楽中心音楽療法の主要な概念でもあります。

確かに、このように主張することは可能ですが臨床聖楽法の立場であれば、変容的療法と洞察的療法を統合的に駆使しているため、通常は両者を明確に区別する必要は生じないし、より実践的でもあると考えます。

 

 

創造的音楽療法についての議論の中で、アンスデルは音楽療法について「音楽の作用そのものと同じように働く」と述べました。

ケネス・エイゲンはこの考え方を発展させて、「音楽中心療法においては、音楽の持つ力、音楽体験、プロセス、構造の中で、音楽療法プロセスのメカニズムが発生する」と主張しています。

そして、クライエントの意欲は非音楽的な目標を達成することよりも、主に音楽を作り出すことに向けられているとの考えで音楽療法体験の価値を説明しようとします。

そのために音楽中心アプローチはクライエントの体験や意欲を反映し尊重するのです。

このようにして、音楽中心アプローチは、非臨床的音楽体験と、臨床的な音楽体験との間に連続性をもたせるとしています。

 

 

このような回りくどい理論展開をせざるをえないのは、エイゲンが音楽中心音楽療法をもって、いかに固有理論を示すべきかという課題をもっているからであるようです。

エイゲンに限らず、心身二分論の先入観に支配されている大多数の人にとっての臨床的音楽体験は、心身一如の人間観および音楽理解を前提にする臨床聖楽法の考え方からすれば、すこぶる狭義のものです。

臨床聖楽法を前提とする理解に立てば、エイゲンが定義する非臨床的な音楽体験をも含めて、すべてが臨床的音楽体験であるということになります。