4月5日(日)<聖楽院>臨床聖楽法(聖楽療法の理論)

聖楽療法の体系構成

第一部では、聖楽療法の理論の背景としての心身医学について概説し、そのうえで新しい心身医学の考え方を明確にしました。
今は、いよいよ「第二部 聖楽療法 理論と実践の性質」に入ります。

 

第二部は、聖楽療法の拠点としての聖楽院とは何かについて、その起源を述べ、いくつかの心身医学的アプローチをどのように応用して発展してきたかを省察します。
それでは、「第二部 聖楽療法 理論と実践の性質」のアジェンダを示します。

 

第3章 臨床聖楽法の起源と基礎

第4章 臨床聖楽法における芸術音楽の価値

第5章 臨床聖楽法の理論的根拠、実践、意味

第6章 音楽療法モデルにおける臨床聖楽法の考え

第7章 現代の音楽療法の枠組みにおける臨床音楽法の考え

 

 

それでは本題に入ります。

 

第3章 臨床聖楽法の起源と基礎

 

音楽療法はどのように発展してきたのか?
そして臨床聖楽法は音楽療法の中でどのような立場と役割をもつのか?

 

「療法における音楽」と「療法としての音楽」

 

本章での最初の議論は、「療法における音楽」と「療法としての音楽」という概念の区別です。「療法としての音楽(music as therapy)」は、ポール・ノードフとクライン・ロビンズが初めて使った表現です。彼らの研究の中で「療法としての音楽の技法(The art of Music as Therapy)」という表現があり、これは「療法は音楽の中で起こる」というスタンスを強調した音楽中心性というアプローチが彼らの哲学的基礎であることを明らかにしています。また、ヘレン・ボニーも、「音楽という療法(music- as- therapy)」という表現を用いています。

 

ところで、ケネス・ブルシアは即興的音楽療法モデルの研究の中で、「音楽中心」という言葉を用いています。ただし、これはその後、即興的アプローチに限って用いられる用語ではなく、既成の音楽を使用するGIM(音楽によるイメージ誘導法)のようなアプローチの実践者の間でも用いられています。ブルシアは「療法としての音楽」というアプローチと「療法における音楽」というアプローチの違いを比較検討しています。

 

ブルシアは、それぞれのアプローチの違いを、どのような臨床的立場に立ったものかによって区別しています。その区別を決定する基準は、クライエントのニーズの違いであるとします。

 

「療法としての音楽」では、クライエントが音楽と直接的に係ることが強調され、その際に音楽はクライエントの療法的な変化を引き出す主要な刺激もしくは反応を引き出す媒体としての役割を果たします。

これに対して、「療法における音楽」では、音楽は主要な唯一の要因ではなく、むしろ対人関係や他の治療方法を通じた療法的変化を促進するために使われます。

 

臨床聖楽法は、音楽を最も主要な要因としますが、これを唯一の要因とするものではありません。しかも、セラピーセッションの中では、対人関係や他の治療方法の要因をも有効に活用することによって療法的変化を促進するために使用します。

そのため臨床聖楽法は全体としては「療法における音楽」に分類されることになりますが、クライエントが音楽と直接的に係ることを可能な限り尊重する立場としては、その中核には「療法としての音楽」が据えられています。

 

臨床聖楽法は、「療法における音楽」と「療法としての音楽」とを明確に区別して分類する立場ではなく、むしろ、両者を連続的かつ包括的に体系化して実践することによって目的を果たすことができるとする立場です。