3月30日(月) 見落とされやすい貧血No1

再生不良性貧血の病態と治療

 

貧血といえば、鉄欠乏性貧血が代表的ですが、開業医を30年以上も続けている間には、やっかいな貧血に遭遇することもありました。

 

その中でもとりわけ難治性な貧血の一つは特発性再生不良性貧血(acquired aplastic anemia: AA)です。

そもそも発症メカニズムの詳細が未だに不明です。かつては、積極的にAAと診断する決め手に欠けていたため、確定診断することが難しく、他の血液疾患を除外することによってようやく診断できる「症候群」でした。

 

それが最近の医学の進歩によって、積極的な診断の決め手になる手掛かりが発見されました。それは、発作性夜間ヘモグロビン尿症形質の血球や、免疫病態マーカー(HLAクラスⅠアレル欠失白血球)等です。

 

 

初期のAAでは、血小板減少だけが起こるため、貧血や白血球の減少はみられないため、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と誤診されても仕方がありませんでした。

その後、病気が進行すると血小板数が顕著に減少することがありますが、それでも貧血がみられないこともあるからです。

 

一般の医療機関の外来で行う血液検査は、静脈採血による末梢血検査止まりなので、早期診断は今でも難しいのですが、それは血液専門外来でも基本的には同じです。

ただ、現在では、血小板減少の程度が強い場合には、その段階でAAを疑うことが必要であるとされるようになりました。

AAを疑うならば、骨髄検査を実施して、骨髄において血小板のみならず、その元となる骨髄巨核球の数が減少していないかどうかを調べることになります。AAでは、その両者の数が減少していることが確認できます。

 

 

AAのメカニズムの詳細は不明と書きましたが、ある程度のことはわかってきました。

それは、この病気のきっかけは、造血幹細胞に特異的な細胞障害性T細胞によって造血細胞が破壊されることによって発症するということです。

これは免疫病態による造血不全がAAの本態であることを意味します。免疫の病気となると、それはリウマチ科アレルギー科に共通する病態基盤、すなわち私の専門に関わる領域です。

 

 

このAAという病気は、血球減少の程度が軽い初期のステージであっても、長期間放置すると、多くの例で難治化します。高円寺南診療所(杉並国際クリニックの前身)の時代には、血小板減少傾向が続いていた患者さんが散見されました。その場合、「経過観察が必要ですので、定期的に受診してください。」というメッセージを差し上げることにしておりましたが、ほとんどの方が多忙を口実として自己判断で中断してしまいました。

 

そして、後日譚として、重症の貧血や感染症で不幸な転帰をとったという風の噂を耳にしては、やるせない思いをしたものでした。

わずかに、一名の方のみが紹介先の病院で骨髄検査をしていただきAAの診断確定により、治療が間に合い元気になった方がいらっしゃったことには感謝しております。

その方は、水氣道®の会員であったために経過観察が自然に行われ、早期発見につながったケースです。

 

 

現在では、早期のAA(ステージ1もしくは2a)であっても積極的に免疫抑制剤(シクロスポリン)を開始し、治療反応の有無を診ることが重要だとされるようになりました。

いずれにせよ、ステージ2b以上の段階に進展すると、40歳未満でHLA適合同胞ドナーのいる方の場合は骨髄移植、それ以外の場合には抗胸腺細胞グロブリン・シクロスポリンと、トロンボポイエチン受容体作動薬(TPO-RA)エルトロンボパグによる併用療法が行われます。

 

それでも治療に反応しない治療抵抗例においても、近年では、ロミプロスチムを含むTPO-RAによって、約半数で改善するまでになってきました。