3月24日(火) 脳卒中の慢性期治療についてNo2

再発予防策❶

 

脳卒中の再発予防には、1)高血圧、2)糖尿病、3)脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の管理が重要ですが、その管理を成功させる前提条件は、禁煙、節酒などの生活習慣の改善にかかっています。

 

1) 高血圧
脳卒中罹患患者では、血圧管理の目標を140/90㎜Hg未満とします。ただし、脳出血・くも膜下出血・ラクナ梗塞の患者さんや抗血栓薬を服用している患者さんでは130/80㎜Hgとさらに低い目標設定が可能であれば、それを目指します。

推奨される降圧薬は、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、少量の利尿薬です。

 

2) 糖尿病
血糖のコントロールが基本です。しかし、血糖コントロール単独ではなく、1)血圧管理、3)脂質管理が不可欠です。

脳卒中再発予防のためには糖尿病治療薬のなかでもピオグリダゾン(アクトス®)が有効です。

 

3) 脂質異常症

脂質異常症のなかでも高コレステロール血症(総コレステロールやLDLコレステロールが高い場合)は、スタチンが推奨されています。

スタチンは血清脂質改善作用ばかりでなく、抗酸化作用、抗炎症作用、内皮機能改善作用などがあり、動脈硬化巣の退縮あるいは安定化作用があります。

スタチン抵抗性高コレステロール血症では、PCSK9阻害薬エボロクマブ(レバーサ®)、ありロクマブ(プラルエント®)が検討されていますが、脳梗塞患者における有用性は確立されていません。

 


杉並国際クリニックでの臨床応用

脳卒中の再発予防法について学んでおくと、脳卒中の一次予防の大切さがより良く理解できると思います。

当クリニックでは、肥満の分類・メタボリックシンドローム評価からはじめることが多く、上記の1)高血圧、2)糖尿病、3)脂質異常症についても、それぞれ具体的なフォーマットを完備し、患者の皆様にも、個々の状況に応じた簡易な生活行動記録表を作成していただいております。

上記の他にも慢性腎臓病(糖尿病性腎臓病用は、別建て)、高尿酸血症・痛風、心不全、骨粗鬆症、関節リウマチなどを整備し、改訂も行っております。

 

脳卒中の予防のための高血圧管理の成績はほとんどの皆様が良好ですが、糖尿病の管理については、必ずしも徹底できていないため、更なる工夫と努力を要するところです。

 

そこで、脳卒中の再発防止に有効な糖尿病治療薬ピオグリダゾン(アクトス®)の当クリニックでの使用法について説明します。この薬剤の特性は、動脈硬化リスク因子を改善させるメリットにあります。

ただし、体重増加や体液貯留のリスクもあります。

この薬剤が使用できる条件は、2型糖尿病に限定されます。ただし、2型糖尿病であれ ば処方できるのかというと、そうではなく、以下の場合に限ります。
  

❶ 食事・運動療法のみ、または加えて一定の糖尿病治療薬(SU類・αGI・BG類)で効果不十分な場合
  

❷ 食事・運動療法に加えてインスリン投与で効果不十分な場合

  

それから薬剤の処方においては禁忌を確認しておく必要があります。この薬剤は、心不全、重症ケトーシス、糖尿病性昏睡・前昏睡、重篤な肝・腎障害、重症感染症、手術前後、重篤な外傷、妊婦、が禁忌とされます。

ですから、心不全発症の恐れのある心筋梗塞、狭心症、心筋症、高血圧性心疾患などの心疾患のある方には慎重に使用しなければなりません。

他に1型糖尿病も禁忌の一項目ですが、適応が2型糖尿病であるので、糖尿病の正しい診断が鍵となります。また、膀胱癌治療中の患者にも投与を避けるべきとの注意があります。

  

食事療法・運動療法では効果が十分ではなく、インスリン抵抗性が推定される2型糖尿病が良い適応となる他、他の糖尿病治療薬でコントロールが十分でなく、インスリン抵抗性があると思われる例も適応となります。
  

<食事療法・運動療法では効果が十分ではなく>とありますが、実際には、効果が十分でないのではなく、十分に実施していないことがほとんどなので、やむなく薬物療法に踏み切らざるを得ないのです。

とくに水氣道®は、多くの糖尿病患者さんのための生涯エクササイズとして理想的なのですが、なかなかご参加いただけていないのが残念です。水氣道は内臓脂肪蓄積量を減少させることによってインスリン抵抗性を低下させる効果があります。
  

<インスリン抵抗性が推定される>とは、どのような目安での推定なのでしょうか?

実際にはBMI≧25㎏/m²、空腹時血中インスリン≧10μU/mL、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)≧2.5などの指標を参考にします。

このデータは、75g糖負荷試験を実施することで得ることができます。

杉並国際クリニックでは、この試験のための指針を作成して、診療フォーマットに基づき着々と症例を重ねています。
  

そして、アクトス®を処方するためには、予め一定の糖尿病治療薬(SU類・αGI・BG類)のいずれかが使用されていることが前提ですが、当クリニックでは近年SU類の処方は減少しています。

その理由は、スルフォニル尿素(SU)類で血糖コントロールが不十分である場合に追加薬としてアクトス®を併用すると低血糖を起こすことがあるからです。

とくに脳卒中後遺症がある糖尿病患者には低血糖に至ることはとても危険です。そのため、当院では、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI:ベイスン®、グルコバイ®、セイブル®)もしくはビグアナイド(BG:メトグルコ®、グリコラン®、ジべトス®)類を選択することが増えています。
  

またアクトス®は、妊婦で禁忌とされるだけでなく、女性には使いにくい側面があります。それは水・ナトリウムの貯留作用があるために、しばしば体重が増加し、女性ではそれが顕著となり易いからです。

むくみ(浮腫)が強い場合にはフロセミド(ラシックス®)などのループ利尿薬を用います。

その場合でも水中有酸素運動である水氣道®を継続している方に限れば、利尿剤なしでも体重増加もなく、浮腫も発生せず、ナトリウム貯留による血圧上昇も見られません。

水氣道®は水中での水圧による自然な加圧トレーニングであり、水深に比例して水圧が高くなるため、下半身のむくみが改善しやすいというメカニズムを有効に活用できるメリットは大きいと思います。