3月23日(月)脳卒中の慢性期治療についてNo1

後遺症に対する治療

 

脳卒中の慢性期(慢性期脳卒中)の治療においては、脳卒中後遺症に対する治療、再発予防対策が中心となります。後遺症のうち、運動麻痺、失語症などの神経症状は主にリハビリテーションが中心となります。

 

これらの脳卒中後遺症に対する治療について 原則として脳循環・代謝改善薬の中から適切な処方薬を選択していきます。

ただし、これらは概して即効性はなく、通常では使用開始後2週間を経た頃から効果が出現し、4~8週頃に明確になってきます。

そこで、重度の副作用がない限り、4~8週をめどに継続投与して効果を判定することになります。

逆に、8週投与しても効果が無ければ他薬に切り替えます。いずれも漫然と長期連用せず、途中で休薬して症候の動きをみることが重要とされます。

 

脳循環・代謝改善薬の中には多少なりとも抗血小板作用をもち、単剤で脳梗塞再発防止も示されているものがあります。

ただし、頭蓋内出血後止血が完成していないと考えられる患者には禁忌です。こうした薬剤の中から、臨床症状を勘案してより適切な選択をすることができます。

 

たとえば頭痛めまいなどの自覚症状の改善のためには、脳循環改善薬が有効です。特に脳梗塞後のめまいにはイブジラスト(ケタス®)、イフェンプロジール(セロクラール®)が推奨されています。

そして脳梗塞後の意欲低下には脳代謝改善薬ニセルゴリン(サアミオン®)が有効です。

 

また脳代謝改善薬としてアマンタジン(シンメトレル®)は脳血管障害慢性期の意欲・自発性低下に有効であり、作用発現も比較的早いとされます。ただし、アマンタジンは催奇形性があります。

妊婦、授乳婦、透析を必要とする重篤な腎障害例では禁忌です。

また、てんかん・既往歴・痙攣素因では発作を誘発または悪化させるとの報告があります。そして、自殺傾向患者、精神障害者または中枢神経系作用薬投与中では慎重投与とされます。

 

一方、高齢者では幻覚が出やすいので維持量を低く保つ必要があります。禁忌例ではなくとも、起立性低血圧を起こしやすく、めまい、ふらつき、立ちくらみ、霧視が生じることがあるため危険作業をしないよう指導します。

さらに急激な減薬、中止による悪性症候群(高熱、錐体外路症状、意識障害、筋組織酵素CK上昇など)の出現に注意します。

 

そして脳卒中後にはしばしばうつ状態になりますが、その場合には抗うつ薬の投与が推奨されています。

 

 

杉並国際クリニックでの臨床応用 

イブジラスト(ケタス®は、二つの顔を持っています。

最初の顔は、脳循環改善薬としてのものです。薬理学的にはピラゾロピリジン誘導体であり、脳血流増加に伴う脳循環改善作用をもちます。脳梗塞後遺症に伴う慢性循環障害によるめまいの改善に用います。

 

また、この薬剤の二つ目の顔は、抗アレルギー薬であるメディエーター遊離抑制薬として使用されることもあります。そのため気管支喘息に対しても保険適用があります。

 

メディエーター遊離抑制薬とは、マスト細胞(肥満細胞ともいい、粘膜組織などにあって、炎症や免疫反応などの生体防御機構に重要な役割を持つ)からIgE依存性の機序によりヒスタミン、ロイコトリエン、血小板活性化因子、プロスタグランジンなど種々のメディエーター(伝達物質)が遊離するのを抑制します。

ヒスタミン、ロイコトリエンはアレルギー反応を引き起こす伝達物質であるため、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬は代表的なアレルギー治療薬です。また血小板活性化因子という伝達物質が遊離するのを抑制することが脳梗塞後遺症に伴う慢性循環障害によるめまいの治療に役立つことになります。

 

杉並国際クリニックでは、主として気管支喘息の患者さんにケタス®を処方することがあります。

たとえば、気管支喘息とともにめまいを起こしやすい方、あるいは脳卒中の血族が複数いるという家族歴のある気管支喘息の方などが代表的です。

気管支喘息だけでなくめまいの改善に役立っています。そして、将来の脳卒中発症の予防をも期待して処方しています。

 

アマンタジン(シンメトレル®は、抗パーキンソン作用、抗A型インフルエンザウイルス作用、ドパミン放出促進作用、ジスキネジア抑制作用があります。

そのためこの薬剤は臨床実務上では三つの顔を持ちます。最初の顔は、脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下の改善薬として、二番目の顔は、パーキンソン症候群に対する治療薬としての、三つ目の顔はA型インフルエンザウイルス感染症に対する抗A型インフルエンザ剤としての顔です。

 

現在では、主としてパーキンソン治療薬として用いられています。

とくに軽症・若年発症患者の治療導入薬(初期治療薬)として有効です。さらに本格的なパーキンソン治療薬であるレボドパ補助薬としても広く使用されています。

 

パーキンソン治療薬としては、現在主流となっている非麦角系アゴニストでは突発性睡眠の副作用が問題となるため、シンメトレル®などを治療開始の選択肢として考えるべきとされます。

 

杉並国際クリニックでは、パーキンソン治療薬としての処方でシンメトレル®が選択肢にのぼるようなケースではL-ドパを用います。L-ドパでの効果の確認は、パーキンソン病の診断を確かにするという効用もあるからです。

 

またインフルエンザ治療目的でシンメトレル®を処方することはありません。その理由は、現在のA型インフルエンザの大部分が抗A型インフルエンザウイルス剤に耐性(薬が効かないこと)を獲得しているからです。

また、インフルエンザに罹患すると、抗インフルエンザウイルス薬の有無・種類に関わらず、異常行動の報告があります。そこで自宅療養時は少なくとも発熱から2日間、転倒等の事故防止を講じる必要があるので、起立性低血圧を起こしやすく、めまい、ふらつき、立ちくらみ、霧視が生じるシンメトレルを新規に使用することはデメリットの方が大きいと考えています。

 

予防への使用はワクチンの補完であることを考慮することになっていますが、予防のために用いることすらナンセンスであると考えます。