3月17日(火)抗悪性腫瘍薬投与中に注意すべき相互作用No2

循環器内科:血栓症(脳梗塞・心筋梗塞・静脈血栓など)治療薬と抗癌剤

 

脳梗塞や心筋梗塞、静脈血栓症などの血栓性疾患を持っている方に癌が発生し、抗癌剤による治療を開始する際には注意が必要です。このようなケースは今後も増え続けることでしょう。「明日は我が身」であり、決して他人事では済まされないといえます。

 

代謝拮抗薬(ピリミジン代謝拮抗薬)5-FU系

 

抗癌剤の分類で5-FU系というグループがあります。代表薬の5-FUの他に、カペシタビン、S-1があります。なおこれらの薬剤で治療中の方が、ワルファリンを服用すると、血が止まりにくくなり、内出血を起こしやすくなることが知られています。

抗癌剤もワルファリンも必要があって使用しているわけですから、このような副作用の出現を未然に防ぐためにはPT-INRを測定し、このデータが急激に延長しないかを確認するとともに、出血傾向の出現を注意深く監視することが必要です。相互作用の原因は、抗癌剤の活性代謝物である5-フルオロウラシルがCYP2C9を阻害するためです。

 

・5FU:

消化器癌(胃癌、結腸・直腸癌)、乳癌、子宮頸癌

 

・カペシタビン:

(手術不能または再発)乳癌、結腸・直腸癌における補助化学療法、胃癌、(治癒切除不能な進行・再発の)結腸・直腸癌、直腸癌における補助化学療  法で放射線照射と併用

 

・S-1:

胃癌、結腸・直腸癌、頭頚部癌、非小細胞肺癌、(手術不能または再発)乳癌、膵癌、胆道癌
S-1服用中は、他のフッ化ピリミジン系薬とは絶対に同時服用させてはならないなどの注意があります。

 

 

杉並国際クリニックの視点から

杉並国際クリニックでは、上記の抗癌薬を処方することはありませんが、ワルファリンを処方することがあるので、薬剤相互作用に注意しています。

 

ワルファリンは、血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、緩徐に進行する脳血栓症等)の治療のみならず予防にも用いられています。ワルファリンは抗血栓薬に分類され代表的な経口抗凝固薬です。

 

ワルファリンの投与量は、プロトロンビン時間(血液が凝固するまでに要する時間)のデータを正確に把握するためのINR値を検査しながら調節することになっています。

 

しかし、それでも出血を来すことがあり、その際にはビタミンKを投与します。

逆に、ビタミンK₂投与中の患者にワルファリン投与の必要が生じたときにはビタミンK₂を中止します。そもそもワルファリンはビタミンK作用に拮抗し、肝臓におけるビタミンK依存性血液凝固因子の生合成を抑制する働きをもつ薬剤だからです。

 

このように癌の治療で抗癌剤を使用している癌患者も、脳梗塞や心筋梗塞の治療中の患者も忘れてならないのが食生活です。他で処方された薬剤ばかりでなく、購入したOTC医薬品(処方箋不要の市販の薬剤)や健康食品を自己判断で使用したり、医療機関に報告しないでいたりすることはとても危険なことだ、ということを心にとめておいていただきたいと思います。

 

しかも、ワルファリンに対する感受性には個人差が大きく、出血リスクが高い場合もあるので、初期投与量の決定に際してはリスクとベネフィットのバランスを考慮する必要があります。

 

併用薬によって作用が変動するので注意が必要な薬剤です。実際に5-FU系の抗癌剤であるカぺシタピンとの併用で死亡例が報告されています。

 

超高齢社会となり癌が国民病とされる令和の時代において、ワルファリンのような取り扱いの複雑な薬剤の使用は可能な限り避けるのも一法かもしれません。

 

たとえば非弁膜症性心房細動がみられる患者で発症リスクの高い脳卒中の予防のためには、直接経口抗凝固薬(DOAC)が重要な選択肢になると思います。DOACはINRモニターが不要であるうえに、ワルファリンと比較して、脳出血の頻度が少ないという特徴があるからです。

 

<明日に続く>