3月15日(日) 聖楽療法の体系構成

第一部では、聖楽療法の理論の背景としての心身医学について概説し、そのうえで新しい心身医学の考え方を明確にします。

 

第二部は、聖楽療法の拠点としての聖楽院とは何かについて、その起源を述べ、いくつかの心身医学的アプローチをどのように応用して発展してきたかを省察します。

 

第三部は、心身医学の理論に根ざした聖楽院の哲学的な基礎概念を示し、心身医学療法の領域において水氣道の考えが心身医学療法の一般的な理論となりうるかを論じます。

 

第四部では、聖楽療法理論の一般的理論としての側面について、その概略を述べます。

 

 

 

第一部 心身医学療法における聖楽療法理論のコンテクスト(その1)

第1章 理論の性質

 

第2章 心身医学療法における理論

従来の心身医学療法における理論の役割

 

前回は、聖楽療法理論の概念的枠組みということで、聖楽療法は新しい心身医学療法であることについて述べました。聖楽療法は心身医学療法の特別な応用法であり、セラピーのための特別な方法として開発してきたこと、そして、さらにいえば、筆者は、従来の心身医学は、固有の心身医学療法を持たず、治療法としては本質的に心理療法もしくは精神療法に他ならないという問題意識を持っています。

 

そこで、従来の心身医学は聖楽療法の実践を通して体系化される理論によって、新しい固有の心身医学療法を誕生させることができるということを、これから、ゆっくりと説明していくことになります。

 

さて、今回のテーマは
聖楽療法の固有理論の問題です。

固有理論は、輸入理論と衝突しないのか?という課題について考えてみます。

 

 

聖楽療法は心身医学研究の範疇に属すると主張する筆者は、新しい心身医学の考え方により密接な立場を構築しようとしています。

 

この立場で、新しい心身医学というのは、心身医学についての考えを聖楽療法理論の核に据えるという意味を持っています。

そこで聖楽療法の固有理論は必然的に心身医学であるということになります。

この理論が「固有」であるというのは、音楽分野からの輸入理論や専門概念が新しい心身医学療法の固有理論となり得るという立場に起源をもつからです。

 

固有理論を発展させる際に、他の領域からの知識をどのように用いるのが最も有益かを常に意識することが大切です。

しかしながら、聖楽療法における音楽理論は、決して他の領域からの知識、すなわち輸入理論としては扱いません。

 

理論は既存の知識や創造的思考、直観、応用分野に精通していることの結果として生じるものです。

こうした理論というべきものがなければ、自分たちが観察し経験することの重要性を比較衡量したり選別し抽出したりしていくための指針を見失ってしまいます。

そして、理論はデータからでなく推論から導き出されるものであり、理論を前提にしてデータを介錯するものと認識しています。

 

理論的に物事を考える学習なしに固有理論を作り出すことは不可能であり、その最良の方法は、既存の理論を学び、理論を具体的な体験にどのように応用するかを知ることなのです。

 

芸術家が育つプロセスは、理論家を育て、理論を発展させることと本質的には変わりはありません。

芸術家が成長していくためにも、これまでに行われてきたことに習熟する必要があるからです。

 

個人の成長は共同体の発展を反映していきます。

そこで、専門分野としての聖楽療法は、まず他分野からの概念に習熟することが必要であり、そのうえで今後の聖楽療法家たちは、自分たちに固有の理論を発展させていくことができます。

 

まず、輸入された理論を熟知してから固有理論について考えていく方法がとられます。

そして、実践から直接生まれた理論が、研究理論と現場実践を連結させるものとなります。