2月16日 第一部 心身医学療法における聖楽療法理論のコンテクスト(その1)

第1章 理論の性質

 

新しい心身医学療法の理論は実践から導き出されるという観点は、聖楽療法においては特に真実です。その理由は、聖楽療法には固有の理論と方法があり、既存の理論にのみにその基礎を置いていないからです。

 

心身医学療法とは、そもそも1990年(平成2年)4月の健康保険点数改正に際して、厚生省(当時)によって作られた言葉です。

 

心身症の患者について、一定の治療計画に基づいて、身体的傷病と心理・社会的要因との関連を明らかにするとともに、心身症の患者に対して心理的影響を与えることにより、症状の改善または傷病からの回復を図る治療方法を総称するものです。

 

ここで指摘しておきたいことは、「身体的傷病と心理・社会的要因との関連を明らかにする」手続きは診断の過程で始められるということです。ただし、実臨床においては、治療が進んでいく過程で徐々に明らかになっていくことが多いです。

 

そして、心身医学療法の治療アプローチとしては心身症の患者に対して「心理的影響を与えること」によるとされます。

これは単なる心理療法ではなく、治療原理や方法において心理的影響を与えることを不可欠の要素としている治療法です。

 

そして心理療法と心身医学療法の違いは、前者が心理的側面での治療効果を挙げることが目的であるのに対して、後者は身体疾患としての心身症を治療することまでを最終目的とするところにあります。

 

しかし、こうした理論や医療制度の骨格の基礎が定まったにもかかわらず、日常診療において心身医学療法が十分に普及し、実践において有効に機能しているとはいえないのが現状です。

 

その理由は、心身医学やその理論にもとづく心身医学療法という立場は、ややともすれば実際の現場での経験を集積し、整理して、理論の妥当性や有効性を検証していくだけの視点となってしまうからです。

 

実臨床のためには、そのような視点だけでは不十分です。臨床実践の現場を広くとらえ、医療機関内だけでなくコミュニティでの経験の場を形成し、その場で経験できた成果をもとに新しい治療法を創造・開拓して治療手技の改良を図っていくことがどうしても必要になってきます。

 

つまり、新しい心身医学と新しい心身医学療法を求め治療者自らもレッスンに参加して、常に生き生きとした発展性のある治療体系を生み出すことが不可欠であると考えます。

 

新しい心身医学の開拓者は合理的に実践に取り組みながら、その治療法が患者の生活をどのように高めるかを発見し、実践をさらに発展させてきました。

 

実践が十分に卓越して成功を収めると、なぜその実践が効果的なのかを論理的に説明するための理論が構築されるようになります。

 

心身医学療法のパイオニアたちが行った直観的な実践の後により多くの療法士たちが続くようになってはじめて実践の基礎として使える一般的な指針(ガイドライン)を作ろうとする人の関心を引くことになります。

 

理論とは、現実の社会を生きている人間が作り上げた実用的機能を備えた構成概念であるべきものです。

なぜなら理論は実践に結びついてはじめて生きた理論となるからです。

 

そして、今もこれからも生き続けていく理論は人間の精神の産物であるだけでも、理論が単に現象を説明することにとどまるだけでなく、社会的に有効に用い続けられていくべきものだからです。