号外:新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症に対する緊急提言(No.1)

感染症の流行は、その規模に応じて

(1)エンデミック、

(2)エピデミック、

(3)パンデミック

に分類されます。

 

このうち最も規模が大きいものがパンデミックです。

 

新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症は、現時点ではまだパンデミックではなくエピデミックとされています。

 

しかし、パンデミックとは何らかの病気、特に感染症が、ある国の中のそこかしこや、国境を越えて世界中で流行することですから、すでにパンデミックであるとみるべきでしょう。

 

 

endemic エンデミック(地域流行)

特定の人々や特定の地域において、「regularly (ある程度の割合、ポツポツと)」見られる状態。地域的に狭い範囲に限定され、患者数も比較的少なく、拡大のスピードも比較的遅い状態。

「流行」以前の段階。風土病もエンデミックの一種に当たります。中国の武漢市の初期対応は、エンデミック・レベルだったのではないかと考えます。

 

epidemic エピデミック(流行)
特定のコミュニティ内で、特定の一時期、感染症が広がること。特に突発的に規模が拡大し集団で発生することをアウトブレイクと呼びますが、武漢市ではすでにアウトブレイクとなり1カ月以上を経過しています。

 

pandemic パンデミック(汎発流行)
(さらに流行の規模が大きくなり)国中や世界中で、感染症が流行すること。広大な国土をもつ中国の国境を越えて、世界中に感染症が流行しています。日本においても、すでに多数者が感染しています。

しかし、世界保健機関(WHO)のSylvie Briand氏は「根拠のない情報が大量に拡散するインフォデミックが起きている」と指摘しています。如何でしょうか?

私は、国際オリンピック委員会(IOC)のような組織に対するネガティブな評価程ではないにせよ、以前ほど世界保健機関(WHO)の見解を無条件に信じてはいません。

こうした状況では2019-nCovというウイルス感染症を冷静に客観的に捉えられる専門家の提言が重要になります。しかし、日本の感染症専門家も新型ウイルスに対しては控えめに過ぎる見解を発表していました。

日本はWHOの見解を鵜呑みにして、対策が遅れたことを教訓にすべきです。オリンピック開催国として、国際的に責任がある立場であることを十分に認識して、慎重を期して諸外国より厳格で早期の対応があってしかるべきであったし、それは必ずしも不可能ではなかったと考えます。

 

 

以下は、国立国際医療研究センターが2月5日に公表した症例報告です。

 

【国立国際医療研究センター症例報告から】

中国湖北省武漢市からの中国人旅行者とチャーター便帰国者における2019-nCoV感染症患者の治療に当たった症例報告から、日本国内では軽症の感染者が増加すると考えられます。

同センターは、今後について「封じ込めよりも致命率の低下と医療体制の維持を目指し、軽症例は全ての医療機関で対応し、指定病院は重症例の治療に当たる体制が必要」と述べています。

 

当初はヒト-ヒト感染が否定され、無症候性発症者からの感染防御や診断基準が確定していない段階で、どのように軽症例と診断すべきなのか、すこぶるあいまいであり、国立医療研究センターの見解も甚だ無責任だと思います。 

 

2月5日付で、国立国際医療研究センターにおける3例の症例報告が公表されました(表1~3)。いずれも軽症で3例中1例は非肺炎例、肺炎2例についても1例は抗HIV薬ロピナビル・リトナビル配合剤を投与、酸素吸入を要したが最大2L/分と少なく、現在は改善しているとの報告です。

 

表1. 2019-nCoV感染症の症例(湖南省在住の中国人)

 

202002表1

 

 

 

表2. 2019-nCoV感染症の症例〔2018年5月から仕事で武漢滞在中の日本人(54歳男性)〕

 

202002表2

 

 

表3. 2019-nCoV感染症の症例〔2019年12月20日から仕事で武漢滞在中の日本人(41歳男性)〕

 

202002表3

 

(表1~3とも国立感染症研究所が公表した症例報告を基に編集部作成)
 

 

死亡例が中国(主に武漢市)に多く、現地では重症例を中心に診断されているために見かけ上の死亡率が高くなる、と分析しています。

 

これに対し、中国国外では無症状者も含め軽症例が検知されているため、中国での症例との間に重症度の乖離が生じている、と分析しています。

 

また、基本再生産数はWHOでは1.4〜2.5、中国からの報告では4.0と推定されており、中国国内での発生に歯止めがかからないことから、同センターでは、日本国内で流行が広がる可能性は十分にあると考察しています。
 

 

こうした現状に鑑み、日本における2019-nCoV感染症への対策としては「感染そのものを封じ込めることを目的とするより、致命率の低下と医療体制の維持を目指すことがよいと考えられるとのことです。
 

 

分析というより推測の結果に過ぎないことを前提として、具体的には、重症例は感染症指定医療機関や都道府県の指定する診療協力医療機関で治療を行い、致命率低下を目指すとのことです。

 

「軽症例は、全ての医療機関で診療を行う体制の構築が望ましい」としています。「封じ込め」よりも「致命率の低下と医療体制の維持」を目指すべき、という見解は国策ではあっても、個々の医療機関やその医療機関に通院中の患者さんに対する対策には全くなっていないというのが、杉並国際クリニックの見解です。