1月22日 転倒・転落で受診した抗血栓薬服用心房細動(AF)患者への対応

転倒・転落による頭部外傷の危険性

―高齢者、特に抗血栓薬を服用中の患者の皆様のためにー

 

過去約10年間の外因死の原因を見ると、交通事故が減少する一方で転倒・転落が持続的に増加しています。転倒・転落のリスクは60歳以上の高齢者で急激に高まることから、転倒・転落は高齢者における主要な予後因子と考えられています。
 

60歳を境に急増するのが転倒・転落と同様に、心房細動(AF)です。AF治療に使われる抗凝固薬を服用している高齢者の割合は20人に1人、抗血小板薬は10人に1人に上ります。

 

抗血栓薬(抗凝固薬、抗血小板薬)を服用中の高齢患者では、服用していない高齢患者に比べて転倒リスクが有意に高いことがわかっています。

それに加えて出血病変を有する割合も有意に高いです。さらに受傷直後は問題なく会話ができていても、数時間経過した後に意識障害が出現し、症状が急速に悪化が生じる"Talk & Deteriorate"の頻度が、非服用者と比べ約2倍有意に高いというデータがあります。

 

こうした背景により、高齢者の転倒・転落、特に抗血栓薬服用者における頭部外傷は転帰不良となる可能性が高く、早期受診・治療がより重要です。早期治療を実現するには、一見軽症であっても速やかに頭部CTなどの画像検査を行う必要があるので、遠慮せずに早い段階で申告してください。

CT検査は外部の医療機関に紹介させていただくことになりますが、初回検査で出血所見が認められなかった場合、2回目以降に検出される確率は1%未満にとどまります。そのため初回検査が重要となり、CT検査を迅速に行うことが求められます。

抗血栓薬服用中の頭部外傷患者に対する初回頭部CT検査で頭蓋内出血が認められた場合は、軽症であっても24時間の経過観察入院が必須となります。

大学病院等では、抗凝固活性の中和を至急検討し、該当する中和剤がある場合はすぐに投与し、入院下で厳重な経過観察を行っているところもあります。そして中和処置により、抗血栓薬を服用していない患者と同等の予後が得られているとの報告があります。


 一方、抗凝固薬の投与を再開する時期も重要で高度な専門性が求められています。

その理由は症例ごとに血栓形成リスクと出血リスクという対抗するリスクの兼ね合いがあり、症例によりリスクの比重が異なるからです。

そのため、両者のリスクバランスを検討して抗凝固薬再開の有無および時期を決めるための提言(da Silvaら)が参考にされています。

このあたりの判断は一般の外来診療ではなく、入院管理下でなされるものです。

 

健康管理は、なるべく外来診療にて賄えるようにして、救急医療や入院医療などにいたらなくても済むような事前の具体的な対策が必要不可欠だと考えられます。