悪性貧血
最近、疲れやすく、頭痛、息切れ、動悸がする、という症状で来院される方は、とくに女性で多いです。
婦人科で更年期障害と診断されていたり、脳神経外科で緊張性頭痛と診断されていたり、整形外科で五十肩と診断されていたり、多数の医療機関を受診してから来院する方が少なくありません。
いわゆるドクターショッピングと化しているケースです。複数の身体科の医療機関を受診しても納得がいかないと、心療内科の受診を勧められることが多いようです。
注意していただきたいのは、医師が患者さんに心療内科の受診を勧める場合は、「精神科医に診てもらってほしい」と考えている場合がほとんどだということです。
そこで、患者さんが心療内科の看板(標榜)のある医療機関を受診した場合、どのような顛末になるでしょうか。実際には99%は精神科医が担当することになります。
残念ながらほとんどが心療内科専門医ではありません。そこでは、しばしば、自律神経失調症あるいは身体表現性障害、あるいは、うつ病などの診断のもとに薬物療法が開始されることがあり、そうなると良い結果が期待できなくなります。
検診や人間ドックを受けている方でも、検査データの血色素量(血中ヘモグロビン値)だけで貧血を除外されてしまうと、なかなか正確な診断にたどり着けません。
更に、循環器内科を受診して軽度の心不全、とのみ診断された方も過去に拝見したことがあります。
更年期障害、緊張性頭痛、五十肩、軽度の心不全、これらの診断は必ずしも誤りではありませんが、本質的な解決に結びつく診断名ではありません。
ましてや、身体疾患を見逃して自律神経失調症、身体表現性障害、うつ病などの見立てを軽々に行うことは、解決を遅らせるだけで有害ですらあります。
私が経験したケースでは、自覚症状として、しびれ感、軽度の感覚鈍麻があることを問診にて確認しました。
診察室の椅子に座るまでの動作で不安定感があることを観察できたので、改めてお尋ねすると、動作時のふらつきが増えてきた、という返事を得ました。
毎日のように水氣道®を実践指導していると、こうした異常がたちどころに発見できるようになってきます。
次に診察すると、眼瞼結膜(白目の部分)が軽度に黄染していて、舌の表面が赤く、舌苔がまったくみられない(舌乳頭の萎縮)という所見を得ました。
問診や診察の過程で、この方の応答が若干鈍く、表情に乏しいため、たしかに、認知症や抑うつは認められました。
この段階で、貧血とりわけ巨赤芽球性貧血を疑ったのですが、治療のためにはビタミンB₁₂欠乏性(悪性貧血など)なのか葉酸欠乏性なのかの鑑別が必要です。
とくに可能性が高い悪性貧血の診断のためにはシリング試験は現在行われておらず、また特異抗体検査(抗内因子抗体、抗壁細胞抗体)の検出は保険適応になっていないために日常診療で実施することが困難です。
結局のところ、末梢血検査にて大球性貧血であることから巨赤芽球性貧血であることを確認し、さらに血清ビタミンB₁₂の低下によりビタミンB₁₂欠乏性貧血であることを強く疑いました。
そこで、消化器内視鏡専門医に紹介し、胃内視鏡検査を実施したところ、自己免疫性萎縮性胃炎が母体となり、同時に早期の胃がんが発見されました。
悪性貧血については、他の自己免疫疾患の合併がしばしば認められますが、特に貧血の原因に直結する胃内視鏡検査は重要です。
また、注意すべき合併症として胃がんが挙げられ、巨赤芽球性貧血の診療において、胃がんは常に念頭におくべきとされています。
この患者さんは、胃全摘手術を受け、現在では別人のように活発に大きな事業に従事しておられるとのことです。
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