12月25日 厄介な頭痛No3

片頭痛?(妊娠希望)

 

30代女性。左眼の奥から広がる頭痛を訴えて受診されました。

 

頭痛は発作的に生じ、肩こりや悪心を伴ない、肩こりがひどくなるときには嘔吐することがあるということでした。

 

その頭痛発作はピークに達するまでに数十分経過し、翌日まで続くことがあるとのことでした。

 

最近の半年間は、同様のパターンの発作が、月に10日位発生し、この他に、後頭部の頭重感を伴う痛みも、月に10日程あるという報告でした。

 

ほぼ連日、頭痛薬を服用していました。

神経学的所見に異常は認められず、すでに脳外科を受診し、画像検査では異常を認めませんでした。

 

妊娠を希望しているのにもかかわらず、希望していたトリプタン製剤ではなく、前医の脳外科医にバルプロ酸を処方されたことに不信感を抱き、当クリニック受診となりました。不妊外来でお金を使い果たしたので、可能な限り低コストで診療してほしいという一方的な要求をされました。

 

たしかに、片頭痛の予防薬の中で、バルプロ酸は胎児に対する危険性が最も高いので内服を避けるべきであることは誤りではありません。しかし、トリプタン製剤も安全性が確立されていないことを説明しました。

 

また、この患者さんは、高血圧治療のため内科循環器科でアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)とカルシウム拮抗薬ロメリジンを処方されていました。この点について、本人に質問すると、降圧剤が胎児循環障害を来すものがあることや、また、妊娠中ばかりでなく授乳中も避けるべき薬があることなどは、かつて想像したこともなかった、といって驚いていました。

 

 

このケースは薬物乱用頭痛の疑いがあります。薬物乱用というと誤解がありますが、いわゆる違法薬物ではありません。

 

この場合は主として鎮痛薬です。

薬物乱用頭痛とは典型的には1 ヶ月に 15 日以上起こる片頭痛様頭痛や 1 ヶ月に 15 日以上起こる片頭痛様頭痛と緊張型頭痛様頭痛の混合した状況ですが、その主要原因は,片頭痛の対症療法薬または鎮痛薬もしくはその両方の乱用によるものです。

 

この私の見立てを直接本人に伝えても感情を害するばかりであることが予測されたため、この判断は伏せたまま、別のアプローチによる診療を続けることにしました。

 

本人は不妊外来にも通院中であり、挙児希望は切実な要求であるため、妊娠中にでも投与が可能な発作予防薬を検討してみました。

 

プロプラノロールなどの降圧剤は経験的にではありますが、比較的安心して使用でき血圧コントロールと同時に頭痛発作の予防にも有益であろう、ということで処方しました。

また、同時に、発作頓挫薬としては、「慢性頭痛の診療ガイドライン」でも推奨されているアセトアミノフェンを処方しました。

 

とても早口でヒステリックな印象を与える方であったため、そのことには直接触れずに、抑肝散や加味逍遙散という、いわゆる漢方の精神安定剤を併せて処方したところ、後日、気分が安定して、頭痛の発作回数が顕著に減少した、という報告を受けました。

 

あれほどまでにこだわっていた不妊治療も終了し、水氣道®を開始し、こだわりを捨てて夫と自然体の生活に戻ったところ3カ月後に無事に妊娠されたとの報告を受けました。

 

最初の印象とはまったく異なり、別人のように穏やかで上品な表情になっていました。

 

そこで、漢方薬を安胎薬(胎児の健康な発育を促し、流産を予防する薬)とされる当帰芍薬散を処方したところ、心身共に落ち着いたといって喜んでくれました。

 

水氣道は、妊娠のため中止となり、鎮痛剤も使用しないで済むようになりましたが、その後の消息は不明です。