第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学:切除不能膵がんへの化学療法No1

今月のテーマ/切除不能膵がんへの化学療法

 

膵癌診療ガイドラインが3年ぶりに改訂

 

膵がんは膵臓から発生した悪性腫瘍です。膵管上皮から発生する浸潤性膵管癌(腺癌)が、その90%を占めます。

 

我が国における膵がんの年間罹患数は2013年で3万4,837人、年間死亡数は2016年で3万3,475人であり、罹患数と死亡数がほぼ同数です。

 

膵臓の厚さは2㎝程度なので、小膵がんとされる最大径2㎝以内の膵がんであっても、膵外組織に容易に浸潤してしまっている可能性があります。ですから、小膵がんであってもすでに進行がんである可能性があります。

 

切除可能な膵がんでは約3:1の割合で頭部に多いのですが、実際に膵がんの発生部位は頭部より体尾部に多いため、超音波検査で検出して早期発見することも容易ではありません。

 

一般的に膵がんでは膵管閉塞所見および尾側膵管の拡張がみられます。通常型膵管癌は乏血性(血流に乏しい)であるため造影CT検査で低吸収域となることは知られていますが、積極的に早期に検査を実施するための条件が整うことは期待できません。

 

 

以上の背景もあり、膵がんの多くは切除不能(切除不能膵がん)で診断され、切除可能例は20~30%にすぎません。切除例と非切除例を含めた5年生存率は10%未満であり、悪性腫瘍の中でもきわめて予後不良の疾患です。

 

 

2019年7月に『膵癌診療ガイドライン 2019年版』(日本膵臓学会編)が第50回日本膵臓学会の開催に合わせて3年ぶりに改訂されました。

 

第50回同学会の特別企画「膵癌診療ガイドライン2019-膵癌診療の進歩と明日への提言」では、特に改訂点が多かった化学療法の領域に関して、最近数年のエビデンスが色濃く反映された一次化学療法を中心に各クリニカルクエスチョン<臨床質問>(CQ)とステートメント<回答>について解説されました。

 

切除不能膵がん局所進行(臨床ステージⅢ)遠隔転移(臨床ステージⅣ)に分類します。

 

ステージⅢは、おもに病変が主要血管(腹腔動脈幹もしくは上腸間膜動脈)へ浸潤している場合です。化学放射線療法または化学療法が一次治療となります。

 

化学放射線療法は2年以上の長期生存率が高い傾向にあり、さらに放射線治療による局所制御や疼痛緩和の効果が期待できますが、治療が煩雑で、胃・十二指腸からの消化管出血のリスクがあるなどの不利益もあります。

 

 

ステージⅣは、遠隔転移例であり、化学療法が一次治療となります。『膵癌診療ガイドライン 2019年版』の化学療法のCQも両者を分けて設定しています。一次化学療法(LC1とMC1)では両者は個別に設定されました(表1)。

 

表1

 

 

では、なぜ一次化学療法で局所進行(LC1)と遠隔転移(MC1)のステートメントが個別に設定されたのでしょうか。

 

その理由はエビデンスの差にあります。

 

切除不能膵がんの一次化学療法の有効性について、2007年にゲムシタビン(GEM)単独療法とGEM+エルロチニブ併用療法を比較した第Ⅲ相試験、2013年にはGEM単独療法、S-1単独療法、およびGEM+S-1併用療法を比較したGEST試験の成績が報告されたが、ともに「局所進行例と遠隔転移例」を評価対象としていました。

 

その一方で、2011年にはFOLFIRINOX療法(オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル、レボホリナートカルシウムの4剤併用療法)、2013年にはGEM+ナブパクリタキセル(nab-PTX)併用療法の有効性が示されましたが、それらの評価対象はいずれも「遠隔転移例のみ」でした。

 

以上のように、膵がん治療において、評価対象の違いから、局所進行(LC1)と遠隔転移(MC1)の一次化学療法ではエビデンスに乖離が生じています。

 

最近の臨床試験の結果では、GEMベースの化学療法と化学放射線療法の生存率に差はなかったとされています。