12月13日(金)厄介な感染症No5.

ニューモシスティス肺炎

 

30代男性。1週間程前から37℃台の発熱で発症。その後に体温は38℃を超え、咳もひどくなったため感冒薬の処方を希望しての初診となりました。

 

問診によると、咳には痰が混じらない咳(乾性咳嗽)でした。これは、間質性肺炎を疑うべき症状の一つです。

 

身長175㎝、体重53㎏、BMI17.3体温38.9℃、血圧102/64㎜Hg、脈拍104/分・整呼吸数28/分。低栄養と発熱に伴う頻脈および頻呼吸を考えましたが、結膜に軽度貧血を認めました。咽頭発赤や頸部リンパ節を蝕知せず、上気道炎(かぜ)の所見は得られませんでした。

 

また、胸部で心雑音・肺副雑音は聴取せず、気管支炎・肺炎あるいは明らかな心疾患を疑わせる所見もありませんでした。ただし、腹部で脾臓を2横指蝕知しました。四肢・皮膚・神経系にも異常は見られませんでした。

 

発熱、貧血、脾腫の所見を認めたため血液検査と胸部エックス線検査を実施しました。

 

直ちに胸部エックス線写真を確認すると、一見正常に見え、特別な異常所見は認められませんでした。

 

しかし、乾性咳嗽という症状が続く限り、間質性肺炎の可能性は完全に否定できません。たとえば、間質性肺炎の中でもニューモシスチス肺炎という疾患では、胸部エックス線検査では正常像を呈しても、より感度の高い胸部CTやガリウムシンチグラフィーで診断がつくことがあるからです。

 

そこで、以上のことを説明した上で紹介先の病院で精密検査をすることを提案しました。

 

すると、後日になって患者さんから重要な医療情報の提供がありました。すでに1年前にニューモシスチス肺炎を発症し、エイズと診断されていたそうです。

 

ST合剤などいろいろな治療を行ったが、いずれも副作用があるため、月1回のペンタミジン吸入で予防中とのことでした。エイズの治療も開始していて安定しているという説明を担当医から受けていたそうです。

 

ペンタミジン吸入によるニューモシスチス肺炎の予防は有効ではありますが効果はやや不良であるとされています。

 

そして、ペンタミジン吸入中に発症したニューモシスチス肺炎は、典型的な画像所見が得られにくく、今回の胸部エックス線で検出できなかった要因の一つであると考えました。

 

その後、エイズ治療で通院中の病院に入院し、胸部CTやガリウムシンチグラフィーに加えて、呼吸器由来検体から病原体を特定したところニューモシスチス・ジロヴェチであることが判明しました。

 

この病原体は空気感染により伝播が起こるので、免疫不全の患者とは隔離する必要があります。

 

エイズの患者さんの日常診療では標準予防策で十分ですが、採血をする場合には、手袋を着用する必要があります。

 

今回は、患者さんからエイズである旨の告知を受けていなかったため、手袋なしで採血しましたが、針刺し事故などは起こらず幸運でした。

 

医師の側から免疫不全を疑っても、いきなり「あなたはエイズにかかっている可能性はありませんか?」とまでは質問することは不可能です。

 

エイズ患者に対する偏見は避けるべきではありますが、新しい医療機関を受診する際にはきちんと告知する勇気を持っていただきたいと思いました。

 

以上をまとめますと、エイズに合併しやすいニューモシスティス肺炎の予防のためペンタミジン吸入継続中であったエイズ(HIV)感染者に発熱、咳嗽が出現し、肺炎を発症した症例でした。

 

ペンタゾシン吸入によるニューモシスティス肺炎の予防は不十分であったことになります。なお、患者さんからの報告によるとCD4陽性Tリンパ球数は300/μL未満で、極度の細胞性免疫不全の状態でした。