水氣道の方略 その基本目標②・・・日常性からの解放<自己実現>
水氣道は、水中で行う活動であるため、日常の活動の場である陸上とは大きく次元の異なる環境に身を置くことになります。
これは<日常性の打破>を意味します。つまり、日常的生活環境という<常識の打破>です。
私たちは日常においては、身体表面のほとんどすべてが大気によって覆われている状態に置かれていますが、そこから水に覆われる環境へ変化することになります。身体を水に委ねている状態は、入浴でも経験できますが、入浴時の体位は坐位であるのに対して、水氣道では、原則として立位となります。
この点で、臥位(腹臥位もしくは背臥位)の体位となる水泳とは異なります。
ここで、また、よくあるやり取りをご紹介します。水氣道の説明をはじめると、
「私は金槌で、泳げないので、水泳は昔から嫌いです。」という拒否反応がしばしば返ってきます。
これは固定観念、先入観、思い込みなどに囚われている方の典型的な反応です。もっとも、学校教育がいささか乱暴で、水遊びを経験したことのない児童達にまで、いきなり、泳がせようとする性急さこそが問題なのだと思います。
そうした苦い経験を味わわされた方たちは、まるで泣きべそをかいた小学生のような表情を見せます。そして、「プールに入ったら、泳ぎ続けなければならない。金槌では恥をかきそうだ。泳げている人に迷惑だ。・・・」など、実に様々な懸念材料が頭の中を駆け巡るようです。
たしかに水泳プールは泳ぐところであるというのは一般常識です。ただし、この常識にばかり囚われていると、新しい創造的で生産的な人間活動の無限の可能性について思い至ることは困難です。
つまり、<自己実現>に向けての可能性を狭めてしまいます。そもそも、水泳だけがプールでの運動ではありません。
ところで、私たちは大気に包まれて生活していることは当たり前の日常のことになっています。
しかし、生命の誕生までを振り返ってみますと、私たちは1個の単細胞から約9カ月の間に、母体の羊水に全身全霊を委ねて細胞分裂を繰り返して数十兆個の細胞を抱える生命体としてこの世に出現しました。ただし、この9カ月の間の記憶は忘却の彼方にあり、その記憶を保持している人はほとんどいないはずです。
ただし、私たちの身体は、しっかりとそれらを記憶しているのです。水中での水氣道の活動は、胎内還元といって、胎児のような環境を再現することになるので、身体が保持していた記憶を蘇らせることができます。
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