第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学 10月16日(水)エヴィデンスと工夫不足の慢性便秘症診療

1)「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」とは?…その2

 

ガイドラインの主な内容を紹介します。

 

①慢性便秘症の定義

 

②症状聴取

 

③ブリストル便形状スケールの利用

 

④既往歴聴取

 

⑤除外診断(二次性便秘、薬剤性便秘、女性特有の便秘)

 

⑥警告症状及び危険因子の概念

 

⑦身体診察(腹部・直腸-肛門)

 

⑧一般検査

 

⑨除外診断としての画像診断(腹部X線、注腸X線、大腸内視鏡検査)

 

⑩専門施設で行われる検査(排便造影検査)

 

などについて触れています。

 

以下、それぞれの項目について概説します。

 

 

①慢性便秘症の定義

慢性便秘症とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量且つ快適に排出できない状態」と定義しています。わが国では便秘に対して市販薬の使用頻度が高いため、便秘を訴えないケースが多く、問診して確認しなければ便秘の有無はわかりません。

 

 

②症状聴取

患者の訴えは、便秘だけではありません。また薬剤の使用により、本来の便の形状が不明となりがちです。便秘以外にも多様な症状を伴うことがあります。代表的なものとしては、腹痛、腹部膨満、残便感ならびに肛門閉塞感等の症状、硬便やそれに伴う肛門痛などです。

 

定義に即して、慢性便秘症が疑われる患者に対しては、排便回数、便の症状ならびに腹部・肛門の症状を聴取することが大切です。

 

ただし、どのような消化器症状が慢性便秘症の病態と関連するかという観点での知見は極めて少ないのが現状です。

 

そこで杉並国際クリニックでは、まず<快食・快便ですか?>とお尋ねしています。その際には、排便回数と便の性状をお尋ねします。この際に役立っているのは、次のブリストル便形状スケールです。

 

 

③ブリストル便形状スケールの利用

便の性状の分類については、ブリストル大学病院のヒートン博士が考案したブリストル便形状スケールがあります。このスケールと慢性便秘症の重症度とはよく相関します。

 

 

④既往歴聴取

病悩期間、発症契機、併存疾患、内服薬ならびに手術歴・出産歴を含めた既往歴を聴取します。

 

 

⑤除外診断(二次性便秘、薬剤性便秘、女性特有の便秘)

・二次性便秘:器質的疾患、神経疾患、代謝疾患等、便秘の原因となる疾患をもつ便秘

 

・薬剤性便秘:服用している薬剤が原因となる便秘

 

・女性の場合は、月経周期や妊娠に伴う便秘があります。

 

 

⑥警告症状及び危険因子の概念

警告症状とは排便習慣の急激な変化、予期せぬ体重減少、血便、腹部腫瘤、腹部波動、発熱ならびに関節痛等を内容とします。

 

危険因子とは50歳以上での発症および大腸器質的疾患の既往歴・家族歴等を有することです。

 

 

⑦身体診察(腹部・直腸-肛門)

・腹部視診:手術痕・仰臥位での腹部膨隆の有無

 

・腹部触診:腫瘤・圧痛の有無

 

・腹部打診:鼓音の分布

 

・腹部聴診:腸音(特に、腸音亢進を認める場合には、過敏性腸症候群、腸管癒着、大腸がん等による狭窄の可能性を考慮します)

 

・肛門・直腸診察

 

 

「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」は、以上にも関わらず、科学的証拠による評価に耐えうる情報が少ないことが現実です。また、保険医療制度の限界という問題点も残されています。

 

 <明日に続く>