第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学 10月14日(月) エヴィデンスと工夫不足の慢性便秘症診療

1) 科学的根拠に乏しい慢性便秘症の診療

 

便秘症は、大部分が慢性便秘症です。慢性便秘症の有病率は非高齢者で約5%、高齢者で約10%にも上ります。わが国では、近年、生活リズムの乱れ、食生活の問題(欠食、偏食、食事量のアンバランス、食物繊維の摂取量の減少など摂取栄養素のアンバランス、運動量の減少、ストレス社到来による心理社会的ストレスならびに超高齢社会を迎え、慢性便秘に遭遇する機会が増えてきています。高齢化は個人差の拡大と複雑性をもたらすため、その診断にも多様性が求められ、同時に治療方法についてもきめ細やかな全人的な配慮が求められるようになってきました。

 

慢性便秘の診療は、医師として基本的な診療能力(技能・知識)の一つです。しかし、慢性便秘症の診療で問題なのは、正確で科学的な裏付けのある医学情報が極端に不足していることです。実際に、以下のような基本的な課題についてさえ医学部教育においても卒後教育においても体系的な教育がなされていないのが現状です。

 

・便秘症はどのような機序で発症するのか?


・便秘症の患者さんは、どの様な症状を訴えるのか?


・便秘症には、どのような検査が必要なのか?


・便秘症には、どのような治療を行うべきか?


・便秘症には、どのような疾患を合併しやすいか?


・便秘症の予後はどのようなものか?

 

 

こうした現状において、慢性便秘症患者の診断プロセスからして、医師によって大きく異なりがちであり、その結果、治療法もそれぞれの医師の経験に基づいた一貫性のないものとなりがちです。

 

わが国では、酸化マグネシウム製剤(浸透圧下剤類の塩類下剤)、センナ・センノシド(大腸刺激性下剤)が高頻度に使用されています。しかし、これらの薬剤はQOL改善の点をはじめとして、以下のような様々な欠点があります。

 

・十分な治療効果を得ることができない患者が多い。

 

・長期間にわたって連用することは望ましくない。

 

・したがって、高齢者に対しては、猶更、使用しづらい。

 

以上のような問題の多い現状を改善することを目的として、「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」が出版されました。

 

 

それでは、この「慢性便秘症診療ガイドライン2017年」は、以上の多くの課題を解決するものなのでしょうか?

 

<明日に続く>