最新の臨床医学 7月10日(水)内科Ⅲ(糖尿病・内分泌・血液・神経)

脂質異常症とは?その2

 

―脂質異常症のスクリーニングとリスク区分についてー
今回の改訂で、絶対リスク評価ツールが 2012 年版で用いられた NIPPON DATE80 から吹田スコアに変更されました。 この理由として、脳血管疾患を含まない冠動脈疾患をエンドポイントとしているこ と、死亡率ではなく発症率を評価していること、脂質の指標として HDL-C と LDL-C の両方を評価していること、 などが挙げられます。

 

吹田スコアは次の図 2 に基づいて計算します。

脂質異常症スクリーニング

☆管理目標値 冠動脈疾患発症のリスクから設定された、脂質異常症の管理目標値が表2です。

 

 

 

 

※今回の改訂で、100mg/dL 未満とされた冠動脈疾患既往(二次予防)例のうち、表 3 に挙げられる高リスク病態では 70mg/dL 未満とさらに厳格な値が推奨されました。

表3

☆新作用機序の脂質異常症治療薬 本ガイドラインでは、薬物療法の項に新たに PCSK9 阻害薬や MTP 阻害薬が盛り込まれ、家族性高コレステロール血症 (FH)治療におけるこれらの位置づけが明確に示されました。

 

FH は先天的に LDL-R やそれに関連する遺伝子に変異が生じているため、LDL を細胞内に取り込むことができず、血液 中の LDL-C が異常に高くなってしまう疾患です。

 

PCSK9 阻害薬や MTP 阻害薬の登場により、これまで血中 LDL-C 値を十分に下げられなかった FH における治療選択肢が一気に増えました。

 

【PCSK9 阻害薬】 PCSK9阻害薬はPCSK9(※1)を阻害することにより、LDL受容体(LDL-R) の分解を抑制します。

それにより、肝細胞表面の LDL-R の数が増え、より多くの血中 LDL-C を 肝細胞内に取り込めるようになるため、血中の LDL-C を減らします。

 

これまで、スタチンの投与量を増やしても LDL コレステロールがなかな か下がらないといったジレンマがありました。これは、スタチンが肝細胞 内のコレステロール生合成を抑制すると、転写因子の SREBP(※2)が活 性化し、LDL-R を増加させるとともに PCSK9の合成を促進するためです。

 

このスタチンの弱みを補完し相乗効果を発揮 することを狙って、PCSK9 阻害薬は、基本的にはスタチン系薬との併用で用いられます。

 

※1 PCSK9:LDL受容体(LDL-R)の分解に関わるタンパク質

※2 SREBP:HMG-CoA 還元酵素刺激、LDL-R 産生刺激、PCSK9 分泌に働く細胞内センサー