最新の臨床医学 7月9日(火)内科Ⅱ(循環器・腎臓・老年医学)

慢性腎臓病(CKD)診療の課題と対策

 

慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全に至るリスク因子で、患者数は増加しています。2011年当時で、日本では成人人口の約13%、1,330万人がCKD患者と言われております。CKD発症の背景因子として、糖尿病、高血圧などの生活習慣病が挙げられます。CKDは末期腎不全や心血管疾患のリスクが高く、国民の健康を脅かしています。

 

以上の現状を踏まえ、杉並国際クリニックは、定期通院患者の皆様の腎機能の保護に取り組み、慢性腎臓病(CKD)には腎機能は血清クレアチニン値を用いたGFR推算式によって算出したeGFR値で評価しており、eGFR値と尿蛋白量でCKDの重症度を決めています。

 

しかし、血清クレアチニンは筋肉量に影響を受けやすいし、推算式そのものもあくまで推定で患者ごとに腎機能を正しく評価するには課題があると指摘されています。そもそも腎機能評価には、推定値であるeGFRではなく本来は糸球体濾過率(GFR)そのものを使うべきなのだが、これにはイヌリンクリアランスという検査が必要になります。この検査は煩雑で、患者、医療従事者に大きな負担を強いるため、実臨床ではほとんど用いられていません。

 

 

さて、慢性腎臓病(CKD)診療の課題は3つあるといわれます。それは、

(1)予後予測法がないこと、

(2)早期診断法がないこと、

(3)治療法がないこと

 

1つ目は、腎障害患者の腎予後を予測する方法がないことに関して、血圧や血糖値などは腎障害のリスク因子ですが、直接的に腎予後を予測する因子としては弱いです。

 

しかし、関連記事:D-アミノ酸はCKDの腎予後予測に有用であり、推定腎機能(eGFR)高値の患者は低値の患者に比べてD-セリンの血中濃度が高まっていること、透析導入までの期間を検討したところD-セリンの血中濃度が高いほど透析導入が早いことを明らかにされました。

 

 

2つ目の早期診断法につながる、より正確に腎機能を評価できるバイオマーカーとして注目されつつあるのもD-セリンです。GFR値が低いほど血中D-セリン濃度が高いだけでなく、腎障害が進行していると考えられる患者ほど、尿中D-セリン排泄量が高まっていることが明らかとなりました。

とりわけ尿中D-セリン排出量が高まることは、腎機能ではなく腎障害と相関すると考えられる結果が得られたことは注目に値します。

 

例えば、糖尿病性腎症の早期段階では、GFRで示される腎機能は低下していないのに、尿蛋白(微量アルブミン尿)が出始めている病態があります。こうした症例を早期段階で拾い上げようとしてもGFRのみでは難しいです。

しかし、最近、腎障害と腎機能低下が相関しない段階であっても、血中D-セリン濃度は健常人と変わらないが、尿中D-セリン排泄量が高まっていることが明らかになりました。

つまり尿中D-セリン排泄量は、腎障害の早期段階を検出できるバイオマーカーとして有望だと考えられる結果です。

 

D-セリンは大量投与すると腎毒性があることも明らかになってきました。

1検体のD-セリンの測定には、最近開発された液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムを用いることにより、測定自体は5分で完了できるようになり、血液および尿中のD-セリンを測定することによる臨床検査が保険適応になることが期待されています。

 

 

ただし、3つ目の、慢性腎臓病(CKD)の治療法がないことは相変わらず大きな課題です。

現状では、CKDの予防に力を注ぎ、病気を進行させないことが賢明です。そのため肥満症、糖尿病、高血圧をはじめリスク因子となる生活習慣病のコントロールに際には、可能な限り一般尿検査による尿蛋白のチェックと擬陽性・陽性者には尿蛋白(糖尿病ではアルブミン)定量の重要性を強調していきたいと考えております。