夜間多尿を伴う高血圧の治療指針
鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学の大石充教授は、第107回日本泌尿器科学会(4月18~21日)で、夜間多尿を呈する食塩感受性高血圧患者への薬物治療における盲点について、循環器内科指導医の立場から指摘しました。
その盲点とは「特に、加齢や慢性腎臓病に伴うナトリウム(Na)の排泄障害を有する人や、閉経や糖尿病に伴うNaの体内貯留が認められる人では、食塩感受性が亢進しやすいため、食塩摂取量に留意することが必要」ということです。
その理由は、食塩感受性高血圧患者が塩分を過剰に摂取すると、体内の塩分濃度が適正値を超え、夜間多尿のリスクが高まるからです。
日本人には食塩感受性高血圧患者が多く、夜間へのNaの夜間へ持ち越し(キャリーオーバー)が起こりやすい上、夕食時の食塩摂取量も多いため、夜間に血圧が上昇して夜間多尿を来すリスクが高い。
そこで大石教授は「夜間多尿の治療においては、原疾患も含めた病態生理の全体像を把握し、治療薬が効果を発揮するための前提条件を押さえておくことが重要」と注意を喚起しました。「適切な作用機序を有する薬剤を選択しないと、症状が悪化する恐れがある」からです。
食塩感受性高血圧患者は夜間多尿のリスクが高い
正常血圧者では、塩分を過剰に摂取した場合でも、血圧が上昇して尿中へのナトリウム(Na)排泄が促進され、血中Na濃度が適切なレベルに保たれます。
しかし、本態性高血圧患者では、Naを排泄するために正常血圧者よりも、さらに高レベルの血圧上昇が必要となります。この傾向は、本態性高血圧患者の中でも食塩感受性高血圧でより顕著です。
そのため、食塩感受性高血圧患者が塩分の多い食事を取ると、昼間に十分なNa排泄ができず夜間へ持ち越し(キャリーオーバー)ます。
その結果、夜間血圧が上昇して尿量が増加し、Na排泄が促されます。
これが食塩感受性高血圧患者における夜間多尿の発症メカニズムです。
塩分貯留に伴う夜間多尿にはサイアザイド系利尿薬が有効
夜間多尿を伴う食塩感受性高血圧治療の基本は、日中にNaをできるだけ排泄し、夜間へのキャリーオーバーを防止・低減することです。食塩摂取過多により夜間多尿を呈する食塩感受性高血圧患者では、サイアザイド系利尿薬を朝に投与した場合、日中のNa排泄が促され、夜間高血圧を来さず夜間多尿が改善します。しかし、同様のケースにむやみにループ利尿薬を投与した場合、体液量が減少する一方で、体内にNaが貯留し、副作用として浮腫を来す可能性がある。ただし、ループ利尿薬は心不全による体液貯留に伴う多尿に対しては有効である。
また、原疾患に対する治療法によっては夜間多尿が悪化する懸念もあります。カルシウム(Ca)拮抗薬は血管拡張により降圧作用を示すが、Naの排泄は促進しません。食塩摂取過多の食塩感受性高血圧患者に対してCa拮抗薬を投与すると、血管が拡張して血圧は下がるが、Na濃度は低下しないため、夜間に血圧を上昇させてNaを排泄せざるを得ず、尿量が増加する恐れがあります。このような症例に対しては、サイアザイド系利尿薬でNa排泄を促進する必要があります。
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