最新の臨床医学 6月24日(月)内科Ⅰ(消化器・肝臓)

一般的な便秘症の薬物療法の目的と問題点

 

慢性便秘症に用いる下剤には、その機序から、腸管内容の容量を増加させ軟らかくし排泄を容易にするなど物理的に働く機械的下剤と、腸の蠕動を亢進させる刺激性下剤の二つに分けられます。

 

機械性下剤のうち、塩類下剤は習慣性が少なく、長期間の投与も可能であるとされてきました。非吸収性塩類下剤は腸管内に水分を移行させることによって腸管内容を軟化膨大させ、その刺激により便通促進効果を現します。大量の水分とともに服用すると、より効果的です。

 

ただし、塩類下剤も刺激性下剤と同様に長期投与は奨められません。塩類下剤は習慣性が少ないため長期使用されがちですが、マグネシウムを含むものでは高マグネシウム血症を来すことがあり、特に腎障害では注意を要します。また、大腸刺激薬は骨盤内充血を来すので痔疾患患者、骨盤内臓器の炎症、月経、妊娠時には通常禁忌です。授乳中は大黄、アロエ、センノシド(プルゼニド)も慎重に投与されます。

 

また、同じく機械性下剤のうち、膨張性下剤も習慣性はなく、作用が緩徐であり、これは高齢者、痔疾患患者にも使用できます。多量の水分を含んで膨張するため、機能性便秘に有効です。最大効果は2~3日連用後に出現します。ただし、狭窄のある腸疾患では用いません。妊婦には流早産を起こす恐れがあるため慎重投与とされます。

 

 

一般的に、慢性便秘症の第一選択薬としては、酸化マグネシウム、上皮機能変容薬であるルビプロストン(アミティーザ®)などが用いられています。上皮機能変容薬のルビプロストンは、腸役分泌促進という新たな機序の緩下剤です。

 

第二選択薬としては、第一選択薬が無効な時に、大腸刺激薬 (プルゼニド、アローゼンなど)を加えるが、その際には、痔や骨盤内炎症が無いことを確認しなければなりません。アントラキノン系誘導体は、大腸刺激性下剤のうち、センナ、ダイオウ、アロエなどの生薬類に含まれる配糖体であり、小腸より吸収されて血行性に、または直接大腸粘膜を刺激します。アルカリ尿で赤色を呈し、連用すると大腸黒皮症を来すので注意を要します。これらの薬剤は、短期間の使用を原則とします。同一薬剤の長期連用は習慣性を生ずるため種類を変えるか、または作用機序の異なるものを併用します。

 

高齢者や長期臥床者に多い腸管弛緩が疑われる場合は、膨張性下剤、刺激性下剤を用います。また、高齢者、全身衰弱患者、貧血患者、腹部手術後1週間程度の患者には、強力な下剤は控えます。

 

逆に、痙攣性便秘のように大腸の緊張が高まっている腸管痙攣が疑われる場合には、塩類下剤、膨張性下剤、浸潤性下剤のような非刺激性のものがよく、これにオピアド作動薬であり、慢性胃炎における消化器症状や過敏性腸症候群にも適応があるセレキノン®や過敏性腸症候群における便通異常(下痢、便秘)及び消化器症状に適応のあるポリカルボフィルCa(ポリフル®)などを併用します。

 

その他、便秘患者には食後にルビプロストン(アミティーザ®)の他にリナクロチド(リンゼス®)などの懲役分泌を促す薬剤が奨められます。リナクロチドは腸管上皮の表面のグアニル酸シクラーゼC受容体作動薬であり、腸管内への水分分泌を促進して排便を促します。また、大腸の痛覚過敏を改善することにより、腹痛・腹部不快感を改善するため、便秘型過敏性腸症候群に限らず器質性疾患によらない慢性便秘症にも用いられています。

 

胆汁酸トランスポーター阻害薬のエロビキシバット(グーフィス®)は、食前投与薬で、回腸末端上皮の胆汁酸トランスポーターを阻害し、胆汁酸再吸収を抑制し、大腸内の胆汁酸を増加させます。それによって、水分分泌や消化管運動が促進され、便秘治療効果が示されます。腸閉塞またはその疑いがある場合には禁忌となります。

 

直腸性便秘に対して、直腸内で徐々にCO₂を発生して、腸運動を亢進させる新レシカルボンが用いられます。

 

排便リズムの回復を図り、それによって薬剤は漸減、中止します。心因性が強い場合には、自律神経作用薬、抗不安薬、心理療法なども併用します。こうした治療法については、次回で取り上げたいと思います。