最新の臨床医学2019 6月22日(土)連載: 竹田貴雄の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」

竹田貴雄の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」

 

杉並国際クリニックで行っている漢方診療に共通する考え方を簡単に説明している記事を発見したので紹介いたします。

 

第4回花粉症に効く漢方薬の選び方

 

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)

 

桃の節句を過ぎ、花粉症シーズン真っ最中ですね。皆さまいかがお過ごしでしょうか。今回は、花粉症の漢方治療についてお話しします。

 

今年は花粉の飛散量が多いようですが、同じ環境の中にいても、花粉症の症状が出る人と、全く無反応な人がいます。両者の違いは「水滞(すいたい)」という体質の差であると言えます。

 

漢方では、花粉症を「あるべき所に水がなく、十分足りている所に水が余っている状態=水滞」が原因と考えます。くしゃみや鼻水は、鼻に水があふれている状態と考えます。

 

水滞に要注意なのは、普段から水、お茶、コーヒー、お酒など水分を摂り過ぎている人や、砂糖たっぷりのスイーツが大好きでむくみがちな人、汗をかきにくい人、尿が少ない人などです。このような人は体に余計な水分が溜まっているため、アレルゲンに反応して、くしゃみや鼻水、涙、湿疹などの症状として余剰な水分が出てきます。

 

漢方治療を行う前に、必要以上の水分や甘いものを摂りすぎない、汗をかくために適度な運動をするなど、生活習慣の見直しによって水滞を予防することがまずは最も大切です。

 

 

温めるべきか、冷やすべきか、それが問題だ

 

漢方では、「余っている所から足りない所へ水を移動させる=利水(りすい)」という治療を行います。利水は、体が冷えているか、寒熱中間か、熱くなっているかという患者さんの状態によって、以下の3つの治療法に分けられます。

 

(1)体が冷えている人:体を温めながら水を移動させる

 

(2)寒熱中間:体を温めず冷やさず水を移動させる

 

(3)体が熱くなっている人:体を冷やしながら水を移動させる

 

この3つのパターンごとに、漢方薬の選び方を詳しく見ていきましょう。

 

体が冷えている人:体を温めながら水を移動させる

 

体が冷えると、顔が青白くなり、サラサラの鼻水が出ます。西洋医学での治療薬としては、フェキソフェナジン(商品名アレグラ他)やロラタジン(クラリチン他)などの抗アレルギー薬が該当します。

 

漢方では、附子(ぶし:トリカブトのこと)や乾姜(かんきょう:乾かした生姜のこと)といった生薬が、体を強力に温めて水を移動させます。代表的な漢方薬としては、

・附子が入った漢方薬:麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)

・乾姜が入った漢方薬:小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

が挙げられます。

 

麻黄附子細辛湯は、麻黄(まおう)、附子(ぶし)、細辛(さいしん)の3つの生薬から構成され、シャープな切れ味を持った漢方薬です。麻黄+細辛で体の表面を、附子で体の中心を強力に温めます。生姜(しょうきょう:「しょうが」とは読みません)、大棗(たいそう:ナツメのこと)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)などの胃薬が入っていないため、長期間の内服には向いていません。服用期間は3日程度にとどめます。

 

小青竜湯は、五味子(ごみし)という酸っぱい生薬が入っていますので、好き嫌いが分かれるところではありますが、芍薬、甘草などの胃薬が入っていることから、長期間の内服に向いています。

 

なお、麻黄附子細辛湯や小青竜湯には、エフェドリンを主成分とする麻黄が含まれていることに注意が必要です。エフェドリンは血管を収縮させますので、臓器血流が低下しやすく、胃腸の弱い人では胃が痛くなるなどの副作用を起こすことがあります。麻黄が飲めない虚弱な人には、麻黄が入っておらず、小青竜湯のウラ処方ともいわれる苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)がおススメです。

 

寒熱中間:体を温めず冷やさず水を移動させる

寒熱中間の場合、鼻水に加え鼻づまりが併発した状態です。漢方では辛夷(しんい:コブシやモクレンなどの花の蕾を乾燥させたもの)という生薬が、鼻の通りを良くします。代表的な漢方薬としては、葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)が挙げられます。

 

葛根湯加川芎辛夷は、漢方のかぜ薬として有名な葛根湯(かっこんとう)に、川芎(せんきゅう)と辛夷が加わった処方です。川芎は頭痛の薬です。川芎で副鼻腔炎の痛みを取り、辛夷で鼻の通りを良くします。生姜、大棗、芍薬、甘草などの胃薬が入っているため、長期間の内服に向いています。

 

体が熱くなっている人:体を冷やしながら水を移動させる

体が熱くなると、赤ら顔になり、鼻づまりや粘稠な痰が絡むようになります。西洋医学での治療薬としては、モンテルカスト(キプレス他)などのロイコトリエン受容体拮抗薬、ナファゾリン(プリビナ)などの血管収縮点鼻薬が該当します。

 

漢方では、石膏(せっこう)という生薬が、体を強力に冷やして水を移動させます。代表的な漢方薬としては、

・石膏+辛夷が入った漢方薬:辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

・石膏が入った漢方薬:越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)

が挙げられます。

 

辛夷清肺湯は、石膏や辛夷の他に、水を排出しながら冷やす生薬である黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし:クチナシのこと)と、保水しながら冷やす生薬である知母(ちも)、麦門冬(ばくもんどう)とがバランスよく組み合わされています。体の水分バランスを取り、鼻から肺までの気道を開く処方です。

 

越婢加朮湯は、石膏と麻黄によって体の余剰な水を尿として排出します。朮(じゅつ)、生姜、大棗、甘草などの胃薬が入っているため、長期間の内服に向いています。

 

 

花粉症の漢方治療 まとめ

温める・胃薬なし:麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)

温める・胃薬あり:小青竜湯(しょうせいりゅうとう)※

(※麻黄を飲めない虚弱者:苓甘姜味辛夏仁湯[りょうかんきょうみしんげにんとう])

 

寒熱中間・胃薬あり:葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)

冷やす・胃薬なし:辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

冷やす・胃薬あり:越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)

 

繰り返しになりますが、花粉症の治療において大切なのは、生活習慣の見直しで水滞を予防することです。必要以上の水分や甘いものを摂り過ぎない(私は花粉症シーズンにはビールやアイスクリームを控え、唐辛子を摂るようにしています)、汗をかくために適度な運動をするといった養生が第一で、漢方治療はその次です。

 

その上で漢方薬を選ぶ際には、まず、温めるべきか冷やすべきか、次に、胃薬成分が必要かどうかで使い分けましょう。

 

寒熱や胃薬成分の有無などの判断に迷う場合には、寒熱中間・胃薬ありの葛根湯加川芎辛夷が一番無難な処方です。ただし、葛根湯加川芎辛夷には、麻⻩附子細辛湯や小⻘⻯湯と同様に麻黄が入っています。胃薬成分が入っているとはいえ、麻黄が飲めない虚弱者には、服用困難な場合があります。

 

花粉症の漢方薬選びに迷ったら、寒熱中間・胃薬ありの葛根湯加川芎辛夷を処方しつつ、虚弱な人には苓甘姜味辛夏仁湯に変更するのがよいでしょう。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

竹田貴雄先生の解説は、漢方専門医としてのみならずアレルギー専門医としての立場からも説得力があり、概ね同意できます。「花粉症の治療において大切なのは、生活習慣の見直しで水滞を予防することです。・・・汗をかくために適度な運動をするといった養生が第一で、漢方治療はその次です。」これはそのとおりだと思います。そして「必要以上の水分や甘いものを摂り過ぎない(私は花粉症シーズンにはビールやアイスクリームを控え、唐辛子を摂るようにしています)」という部分に関しては、「甘いものを摂りすぎない、ビールやアイスクリームを控える」というのは賛成です。

 

しかし、「必要以上の水分を摂りすぎない」という個所については注意が必要です。花粉症体質の方は、必ずしも水分が過剰であるとは限らず、水の分布のバランスが崩れていることがむしろ問題であることが多いからです。花粉症で涙や鼻汁に悩まされているからといって、必ずしも水分が過剰であるとは限らないのです。むしろ、粘膜面での水分が欠乏して乾燥状態に陥らないように、身体が調整してくれている結果であることもあります。たしかに、水分の過剰摂取は無意味ですが、腎機能が正常である限り、大きな問題はありません。むしろ、脱水に気を付けて、良い水分を摂取することによって、花粉症にともなって産生される「毒」の尿中排泄を促すことが有効であると考えています。