最新の臨床医学2019 5月25日(土)聖ヒルデガルドの医学と漢方医学との接点(3)

When bad humours afflict an individual with a rash on his entire body, one should wait awhile until the abscesses mature and the humours are discharged. When the skin between the abscesses turns red and begins to dry out, a suitable salve should be applied without delay. In this way, the skin will not become more painful through the infection and will not relapse into sepsis. (CC154,33)

 

悪い体液をもつ人は全身性の発疹に苦しみますが、そのひとは膿瘍が熟してその悪い体液が排出するまでのしばらくの間待たなければなりません。膿瘍間の皮膚が赤くなって乾燥すると、遅滞なく適切な膏薬を塗布すべきでしょう。このように、皮膚は感染によって痛みが増すことはないであろうし、敗血症にまで陥ることにはならないでしょう。

 

 

<解説> 

聖ヒルデガルトの皮膚を通しての治療理論は、現代にも通用するとても傑出した役割をもっています。聖ヒルデガルトが考えていた悪い体液とは何か、ということはとても興味深い内容を含んでいるように思われます。

 

聖ヒルデガルドの時代にはウイルスはおろか細菌を直接調べる顕微鏡などは開発されていなかったにもかかわらず、感染症の概念をもっていたことには驚かされます。

 

一般的にいって、膿瘍を形成するような発疹は感染性のものが主ですが、栄養関連の代謝毒、皮膚アレルギーを引き起こすアレルゲンなども悪い体液に含まれている可能性があります。なお、敗血症とは、細菌等が血流に乗って全身性に散布されておこる重篤な病態です。

 

聖ヒルデガルトは、こうした悪い体液により全身に発疹が出現しても、膿瘍形成という自然治癒の過程を待つことが大切であり、そのうえでタイミングよく適切な軟膏処置をすれば、悪い体液が血液中に流れこむことが防げると考えていたようです。