新しい時代である令和を生きていくためには、平成時代の失敗を反省して、そこから新たな教訓を得ることが求められます。
平成時代の失敗の根源を一言でいえばどうなるか、と問われれば、<国民の当事者意識の欠如>というのが私の結論です。それは、一般論ではありますが、国民の多くが、政府や行政そして高度専門家に対して熱心に批判する一方で、それに釣り合うほど勤勉な自助努力を行ってこられなかったものと判断せざるを得ないからです。もとより、このような極端に単純化した私見に対しての御批判が小さくないことは固より覚悟の上です。
それでは、<国民の当事者意識の欠如>とは何かといえば、それは民間のリーダーシップ意識の欠如もしくはリーダーシップに対する常識的な先入観による根本的な考え方の誤りに基づくものであろうかと思います。私は水氣道を創始し、今年で20年を迎えようとしていますが、この間、水氣道を通してリーダーシップとは何かを体験的に学び続けることができました。
世間一般の常識を単純に受け入れて過ごすことは、心理的な抵抗も少なく安楽ではあります。しかし、平成時代までの常識が実は非常識であったことに気が付いた人も少数ながら存在しているようです。そのような一人に辛子種ほどの正義感があるならば、無作為のまま安穏に過ごしてはいられなくなるのではないでしょうか。
私は「令和」という元号を意図的に「礼和」と置き換えることによって、「平成」の時代には非常識とされたであろう10項目を新しい時代の常識を提言し「礼和の新常識」と名付けてコメントを加えてみました。それにて「令和」の時代の平和と繁栄を祈りたいと考えています。
なお御自分がこれまで信じてきた常識と異なる考え方によって不愉快な気分とさせてしまう惧がございますが、それは私の不徳の致すところです。どうぞご容赦くださいますように。
礼和の新常識1:
良い組織の決め手はチームワークよりもリーダーシップである
社会は、チームスピリットの上に築かれているわけではありません。
優れたリーダーに恵まれないチームの責任の所在はあいまいです。
責任の所在があいまいなチームは、災害に対して無力なばかりか、機動性に欠けるため有害な存在にすらなりかねません。ですから、優れたリーダーとは結果責任を自ら負うことができる人物ということになります。
優れたリーダーは、説明責任(アカウンタビリティー)を果たすことによって自らの信頼を獲得するにとどまらず、チーム全員がアカウンタビリティーを感じることができる組織文化を作ることが求められます。
このようなわけで機動性あるチームワークは優れたリーダーによって育まれます。
礼和の新常識2:
チームでの真の合意形成は一定の事前成果を出してから始まる
一定の事前成果を出すためには具体的準備行動が必要です。
詳細な合意形成は不要であり、数人のキーパーソンを押さえ、彼らの支持を得ればよいのです。そうすることでアイディアを早めに目標に変えていく作業が進捗していきます。そうして設定した目標の達成のためにメンバーを集めます。
これは決して楽な道のりではありませんが、情熱と粘り強さが結果を生み、合意形成を促し、成功への道を切り開くことになります。
礼和の新常識3:
メンバーには、ビジョンの共有ができてから意思決定に参加させる
そもそも共有すべきビジョンなしに良いアイディアは浮かびません。
良いアイディアがない職員の集合は烏合の衆に過ぎません。烏合の衆のままでいたのでは、いつまでたってもまともな意思決定ができません。
ですから肝心のビジョンの共有のためには、リーダー自らが適宜ビッグ・アイディアを生み出し続けていかなければなりません。そのためには発想段階からテストまでアイディアを鍛えるステップがります。
まず、1つのアイディアの失敗を恐れないことです。つぎに、そのアイディアがうまくいくかどうかを見極める覚悟をすることです。それが済んだら、プランに期限を設定し、進捗状況をこまめに確認します。最低でもこのような準備をしなければ、職員がプランの全体像を正しく理解することはできません。
礼和の新常識4:
真に効果的なリーダーシップは “柔軟な”スキルではなく“厳格な”スキルを基礎として発揮される
その理由は“厳格な”スキルから柔軟な発想が生まれるのであって、“柔らかな”スキルからは固定観念の束縛から逃れることができないからです。
創造的な問題解決のためには、固定観念にとらわれない思考が求めら れます。それは自分自身の立場や自分の属性というボックスの外側で考えることができる習慣によって育まれます。そして事業の成果を上げるためには、最初から高い水準を設定することが求められます。ただし、目標の設定水準は、最初から明確に公表する必要はありません。そして求める結果から逆算して成功プランを立案することが効率的です。
成果の指標を抽出し、それに基づいた評価スコアを向上させるための惜しみない工夫と弛まざる努力が影響力を発揮させます。そのためには、まず厳格なリーダーシップを保つためのルール作りが必要です。リーダーとしてチームをリードするということは自らがルールに従い、模範を示すことを意味します。そして新しいルールをひとたび職員に指示をしたらフォローが必要であります。それが実行チームのやる気を保ち、方向づけをすることになります。メンバーもリーダーをメンター(助言者)として学ぶ必要があります。
礼和の新常識5:
多くの職員は職場における責任や義務を伴う権限ではなく、自由や権利、自己実現さらには自己超越(思い込みによる自分自身の可能性の壁を突破する)に向けての保障を求めている
「リスクを負って苦労するくらいだったら、貧乏なままでも良いので責任から逃れ、これまで通り気楽に過ごしたい」と思う人がこのまま増えていくと、日本の平和と繁栄の土台は確実に危うくなり、より大きなリスクに晒されることになるでしょう。新しいことに踏み込みたくない職員からの思いがけない反論や意見に出くわしたら、それはアイディアを職員に説得する大きなチャンスです。失敗や反主流的アイディアからの学びは、さらに優れたリーダーになり、あるいは新しいリーダーを育成するための種子です。
礼和の新常識6:
組織としての健全な発展こそが職員の個人的な幸福につながる
人を幸福にするのも不幸にするのも人間関係の良し悪しによって大きく 決定づけられます。人間関係に着目して、「人々に好意を抱かせ、思い通りに動かす」とか「印象を良くして、好感度を上げる方法」とかの類の書物は多数で回っていますが、たしかに良好な人間関係は、時間とエネルギーを効率的に使うことを容易にします。それによって生産性の高い組織を構築することによって、個々人の満足度が向上します。
そして、良好な人間関係構築の鍵は、礼儀(良いマナー)です。良いマナーは同じ道を歩む人々の歩みスムーズにしてくれます。
その良いマナーの基本は相手に対する敬意に基づく慈愛に満ちた行 動にあります。人間はミスをする動物です。しかし、防げるはずのミスは少しでも減らしていけるように勤勉に心がけることこそが良いマナーです。
誤りに気づいたら、あいまいにせず明確にすること、他者に迷惑をかけたら、率直に誠実に謝罪することが大切です。その際に、注意すべきことは、ふだんから利便性へ過剰に依存している人の謝罪の仕方は、ときとして先方には不敬と映り、相手の不信感を募らせかねないということです。新しいものや方法が常により良いとは限らないということは肝に銘じておくべきでしょう。むしろ、守るべき伝統は知恵の宝庫である、と考えておいたほうが良いこともあります。
令にはじまり令におわるのではなく、礼にはじまり礼に終わるのが水氣道の「礼和」の作法です。
礼和の新常識7:
人々により良く働いてもらうために“感情的知性(世間の常識)”ではなく“理性的感性(アイディア)”を考慮する
組織を発展させる力の源泉はビッグ・アイディアです。そのビッグ・アイディ アにはリーダー育成プランニングのプロセスが重要です。リーダーには意思決定のための理性に裏付けられた直感力が不可欠です。恐怖感や功名心などに支配されて理性を失ったときの直感は間違いをもたらすからです。理性に裏付けられた直感を養わない限り、抜きん出たリーダーを育成することはできません。個々の失敗を恐れず、「習うより慣れろ」式の生身の練習の積み重ねがどうしても必要です。
礼和の新常識8:
細かいことまで管理するくらいでなければ、職員の生産性を向上させることもやる気を生み出すことすらもできない
アイディアの成否は、潜在的な問題の解決を手助けするなど、適切なフォローにかかっているので、日頃からフォローのレベルを上げる工夫と努力をする習慣を獲得する必要があります。 ただし、リーダーは、任せることによって自らの強さを維持することができ、またリーダーを育成することができるので、委任したほうがいい仕事か委任してはいけない仕事かを的確に判断できなくてはならなりません。
礼和の新常識9:
勤勉な職員には、有形で限定的な報酬よりも無形で無限の可能性を保証し支援しなくてはならない。
人は、人から学ぶことだけでなく、人に教えるにことによって大きく成長するので、メンターと学習者の対番関係を最大限に利用することが肝要だからです。
経営とは教育であり、教育とは慈愛です。教育は最高の投資にならなくてはなりません。教育や訓練の結果、より良い働きをしていただけるように努めるのが真のリーダーです。
そのためには、価値に見合った代価を支払い、あるいは受け取ることを弁えるべきです。それができなければ、その人は優れたメンターにはな れないし、仮に後年メンターの一員になれたとしても、その努力と実績に見合った報酬が得られる根拠を見失うことになるからです。
指導者や助言者から貴重なことを学ぼうとする際に、あるいは教育や訓練を施そうとする際に、労力や時間や金銭を出し惜しみして、奉仕や投資ができないようでは長期間に及ぶ段階的な人間的成長は期待できません。
礼和の新常識10: 良いリーダーは、ときには職員を降格させたり、解雇したりして本人の成長を長い目で見守る勇気と愛情をもたなければならない。
互いに心理的な負担の少ない適切な解雇の判断基準とプロセスがあるようです。リーダーのみならず組織の能力の限界をきちんと見据えることも大切です。決断の遅れがかえって先方に対する礼を失することにもなり、双方の不利益になり、組織の発展を損なってしまうことも避けられなくなってしまうことがあるからです。
令和元年5月5日 水氣道創始者、日本水氣道協会理事長 飯嶋正広
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