最新の臨床医学 5月2日(木)リウマチ・膠原病・運動器疾患

今年の日本リウマチ学会総会・学術集会は、これまでの中で、もっとも大きな収穫がありました。

それは、学術集会に先立つアニュアルレクチャーコースで最新の専門知識がアップデートできたこと、関節エコーライブ&ハンズオンセミナーといって、超音波検査の専門実習(参加者限定)で実践的なスキルアップができたこと、それに加えてMeet the Expertといって、特殊領域のエクスパートのレクチャーに続き、その講師を囲んで臨床に即した質疑応答(参加者限定)に参加でき、日常診療における専門的な課題の克服に大いに役立つ経験ができたからです。

 

そこで今月の木曜日のシリーズは4月14日(日)に開催された日本リウマチ学会総会2019アニュアルコースレクチャーの内容を、

講義録のメモ〔講義録メモ〕

をもとに要点を少しでもわかりやすく<まとめ>皆様にご紹介することにいたします。

 

 

アニュアルコースレクチャーは、2006年より、日本リウマチ学会の学術集会に併せて開催されています。リウマチ学会の中央教育研修会の中心となる7つの講演で、丸一日をかけて1年分のリウマチ医学の最新情報を得ようとするものです。

 

 

昔から難病とされてきた関節リウマチではありましたが、日進月歩の医学の発展により、関節リウマチの疾患活動性のコントロールも充分に可能な状況となりつつあります。そして、寛解状態を目指すことが現実的な治療ゴールになってきました。

 

とりわけ、関節リウマチの薬物療法の進歩は大学病院のみならずリウマチ専門医が勤務する地域のクリニックで高度な対応ができる時代になってきました。

 

しかし、そこで重要なことは、やはり、早期に診断し、速やかに治療を行うことです。

医師免許や博士号などの学位とは異なり、専門医のタイトルは、常にアップデートな情報に触れ、新しい知識を取得しておくことが必須の条件になっています。また、社会環境の変化も重要です。なぜなら、社会が医療に求める内容は、日々めまぐるしく変わって、より高度で有益で安全なものが求められていくからです。それについても、絶えずアップデートされた知識や技術が求められていることを実感しています。

 

 

 

<日本リウマチ学会総会2019アニュアルコースレクチャーのリポート①>

4月14日(日)9:35~10:35am

ACL2:

リウマチ性疾患の遺伝的背景と臨床応用

 

演者:

寺尾知可史 先生(理化学研究所生命医科学センター)

 

 

〔講義録メモ〕

リウマチ性疾患は複合性疾患である:遺伝要因と環境要因

関節リウマチの遺伝率は6割(日本人で推定58%)

ヒトゲノムプロジェクト完了⇒遺伝子多型地図完成⇒一塩基多型(SNP)関連ゲノム解析

影響の強い変異はヒト白血球型抗原(HLA)などに限られ、影響の弱い多型が非常に多く存在することが判明:一部は相互作用やエピスタシス効果を示すものがある。

疾患に関わる重要な分子ネットワークやパスウェイ、細胞が明かになってきた。

 

 

1  関節リウマチの遺伝率

 

Q

「母が関節リウマチなんですけど・・・私も関節リウマチになるのでしょうか?」

 

A

「関節リウマチ発症可能性は、普通の人とほとんど変わらないか、若干高くなる程度です。」

 

 

一塩基多型(SNP)の種類

SNPは数千万個ある

遺伝子変異がどのレベル(染色体、フラグメント、塩基)で長さの変化の有無・配列変化の有無をみる

染色体におけるSNPの組み合わせのことをハプロタイプという。

 

 

目の前の患者さんの遺伝子を調べるとすれば何を調べればよいか?

そこから何がわかるか?

 

関節リウマチの場合であれば、HLA-DRB1を調べると、もっとも多い情報を得ることができる(関節リウマチの50%の遺伝子要因を説明)

 

 

2  関節リウマチの疾患感受性の遺伝学

 <関節リウマチに成り易さの予測>

HLA(ヒト白血球抗原)領域:HLAは白血球の血液型である

HLA-DRB1はACPC(+)関節リウマチとACPC(-)関節リウマチで、関連性が大きく異なる

 

ACPC(-)関節リウマチに関連するHLA-DRB1アレルが存在し、RFの有無によって遺伝的に二群に分けられる。

CCP(-)関節リウマチはHLA(DRB1とB)で説明できる。

関節リウマチ関連遺伝子は100以上:PAD14,CCR6、AIRE

メタ解析による9つの関節リウマチの新規感受性遺伝子が同定された。

人類共通の遺伝因子(欧州人と日本人)が多数存在する。

 

 

3.関節リウマチの表現型の遺伝学

 合併症、治療反応性との関連性については良い結果がでていない

 関節所見・活動性・骨破壊

 遺伝性は45-58%の関節破壊を説明する

 

HLA-DRB1*0405はDAS28と独立して骨関節破壊に関連する

リウマチ因子の陽性と力価は関節リウマチ破壊の分布に関連する

抗体力価:リウマチ因子とCCP力価に関わる遺伝子は異なる

 

 

4.遺伝学が病態解明と治療開発とを結びつけることがある

遺伝子解析は疾患の原因を同定できる

遺伝率とは、遺伝要因が説明できる分散の割合を意味する

 

 

 

<まとめ>

医学の基礎研究の努力や結果のすべてが日常診療に直接役立つわけではありません。

 

しかし、研究を続けなければ医学は発展しないことは真理です。関節リウマチの基礎研究では、生まれながらの変異に着目することによって病気の原因を突き止め易くなってきました。そして、こうした研究によって、関節リウマチは、遺伝要因だけではなく環境要因が関与する複合性疾患であることが、よりわかってきました。

 

また、関節リウマチという同一の診断でも、それぞれ異なるタイプがあり、そのタイプを見極めることによって、より効果的で安全な治療戦略を組み立てることができるようになりつつあります。

 

それから日本人とはかけ離れているように思われがちなヨーロッパの人々と共通の遺伝因子が多数発見されたことは、医学の領域を超えて、とてもエクサイティングな発見です。

 

ですから、日本人を対象とする医学研究の成果は、欧州人にも役立ち、また欧州人を対象とする研究も日本人にとって貴重な情報になる、ということを意味します。