最新の臨床医学 3月27日(水)内科Ⅲ(糖尿病・内分泌・血液・神経)

糖尿病はもはや国民病です。糖尿病専門医だけに任せておけばよい病気ではありません。薬物療法の発展は目覚ましいのですが、食事療法、運動療法、生活習慣編世用のための行動療法を駆使して治療に当たるのでなければ、コントロールに至ることは難しいです。

 

糖尿病は動脈硬化性疾患とならんで臨床栄養学の中では中心的な病態です。私は、糖尿病専門医ではありませんが、たいていの糖尿病専門医よりは、糖尿病について深くかかわり、実践してきたという自負があります。

 

私は、昭和学院短期大学のヘルスケア栄養学科で、臨床栄養学を担当していたことがありますが、「臨床栄養学」の教科書を2冊出版して、改訂を重ねています。どうぞご参考になさってください。

 

 

食事療法

Q3-1 

糖尿病における食事療法の意義と最適な栄養素のバランスについて教えてください。

 

【要点】

目安は炭水化物:50~60%エネルギー、

たんぱく質:20%エネルギー以下、

残りを脂質とします。

 

身体活動量、合併症の状態、嗜好性などの条件に応じて、適宜、柔軟に対処します。

 

 

 

【 杉並国際クリニックの実地臨床からの視点 】

上記の【要点】は、2型糖尿病を対象とするものです。

 

そもそも、2型糖尿病における食事療法は、まず総エネルギー摂取量の適正化によって肥満を解消することを目的とします。肥満解消によって、インスリン分泌不全を補完し、インスリン作用からみた需要と供給のバランスがとりやすくなるからです。こうした状態を導くことによって、高血糖のみならず糖尿病の種々の病態を是正することができます。

 

ただし、体重の減少には総エネルギー摂取量の制限が有効ですが、上記の【要点】の各栄養素についての推定必要量を定めるための十分なエビデンスは乏しいです。むしろ、栄養素バランスについては個別化が望ましいです。

  

なぜならば、糖尿病では動脈硬化性疾患や糖尿病腎症など種々の臓器障害を合併するため、合併症予防の見地から、それぞれにおいて設定された栄養素比率の制約を受けるからです。

   

最近、ローカーボ(低炭水化物)療法が流行していますが、炭水化物摂取量のみの減量によって体重が減少することはありません。また、血糖コントロールやインスリン抵抗性を改善するという研究結果も得られていません。

   

また、近年、食品の摂り方によって、食後の血糖上昇を抑制しうることが注目されています。特に、食物繊維に富んだ野菜を先に食べることによって、食後血糖上昇が抑制され、HbA1cが低下することが報告されています。また、50歳以上の壮年・高齢者では、咀嚼力の低下により血糖コントロールを乱す可能性があります。したがって、野菜など食物繊維に富んだ食材を先に食べ、よく噛んで咀嚼すれば、食後の高血糖が是正されます。炭水化物摂取量に関わらず、食物繊維は20g/日以上摂ることは、「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言(2013年)」で推奨されています。

   

高円寺南診療所30年の歴史において、禁煙指導と並んで重視してきたのは食事摂取のリズム調整です。日本で増えている朝食の欠食、遅い時間帯の夕食摂取といった食習慣も肥満を助長し、糖尿病管理を困難にしています。

  

特に、就寝前に摂る夜食は、肥満の助長、血糖コントロールの不良の原因となり、合併症をきたすリスクが高くなります。さらに、総エネルギーの適正化のみならず、欠食あるいは就寝前の間食の摂取など、食事摂取行動への介入が望まれる場合がしばしばあります。