最新の臨床医学 1月15日(火)内科Ⅱ(循環器・腎臓・老年医学)

 

内科2

 

日本循環器病学会のHPには、有益情報が満載されていますので、それを紹介します。

 

最後に、杉並国際クリニックからのコメントを加えました。

 

 

『心不全の定義』記者発表について

 

この度、日本循環器学会と日本心不全学会で、2017年10月31日(火)に厚生労働省記者会で、『心不全の定義』を発表致しました。

 

≪作成の経緯≫

我が国の循環器疾患の死亡数は、癌に次いで第2位となっており、心不全による5年生存率は50%と予後についても決して良くありません。

 

ただ、その事実と心不全の怖さ(例えば、完治しない等)については、国民にあまり知られていないのが現状です。そのため、心不全について、国民によりわかりやすく理解して貰うため、新たに「心不全の定義」を本会と日本心不全学会で連携し、作成致しました。

 

 

『心不全の定義』について

2017 年 10 月 31 日発表

一般社団法人 日本循環器学会

一般社団法人 日本心不全学会

 

<心不全の定義>

『心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。』 

 

<心不全の作成の経緯>

2016 年 12 月 16 日に、「脳卒中と循環器病克服 5 カ年計画」を策定しました。

 

我が国の循環器疾患の死亡数は、癌に次いで第 2位となっており、心不全による5年生存率は50%と予後についても決して良くありません。

 

ただ、その事実と心不全の怖さ(例えば、完治しない等)については、国民にあまり知られていないのが現状です。そのため、心不全について、国民によりわかりやすく理解して貰うため、新たに「心不全の定義」を本会と日本心不全学会で連携し、作成致しました。 

 

 

<Q&A>

Q1

「心不全は・・・・病気です」とあります。“心不全”は、病名ではないと聞いたことがありますが、これはどういうことですか? 

 

医学の専門用語としては、「病気」ではありませんが、 心臓が悪いことを総合的に表現する言葉として、ここでは「病気」と表現しました。

 

 

Q2

“心臓が悪いため”とありますが、これはどういうことですか?

 

心臓は、いろいろな原因で正常な機能(血液を全身に送り出すポンプ機能)を発揮できなくなることがありますが、それらを総称して、“心臓が悪いため”に、と表現しています。

 

悪くなる原因としては、

 

① 血圧が高くなる病気(高血圧) 

 

② 心臓の筋肉自体の病気 (心筋症) 

 

③ 心臓を養っている血管の病気 (心筋梗塞) (十分に心臓を養えていないために起こる)

 

④ 心臓の中には血液の流れを正常に保つ弁があるが、その弁が狭くなったり、きっちり閉まらなくなったりする病気(弁膜症) 

 

⑤ 脈が乱れる病気 (不整脈) 

 

これらの病気のために、心臓の血液を送り出す機能が悪くなっていることを意味します。またそれぞれの病気には、それぞれ適した治療法があります。 

 

 

Q3

“息切れやむくみ”の他に症状はないのですか?

 

心不全の初期によく見られる症状が、運動時の息切れや、両足、特に下腿の前面や足首、足の甲を指で抑えると、くぼみができるようなむくみです。むくみは両方の足に出現することが特徴です。その他には、「疲れやすい」という症状もあります。息切れもむくみも、心不全だけで生ずる症状ではありませんが、「疲れやすい」という症状は、心臓が悪くなくてもよく感じる症状ですので、今回の定義には含めませんでした。

 

Q4

“だんだん悪くなる”とは、どういうことですか? 

 

心不全の臨床経過のイメージを下図に表していますが、心不全を発症しても、適切な治療によって、一旦、症状は改善します。しかし残念ながら、心不全そのものが完全に治ることはなく、症状がぶり返すことがあります。また、過労、塩分や水分の摂りすぎ、風邪、ストレスや、薬の飲み忘れなどにより心不全の症状が悪化、あるいは再発することもあります。そして、安静、治療の適切化によって、心不全の症状は再度改善します。しかし、このような、悪化と改善を繰り返しながら進行して行くことを、“だんだん悪くなる”と表現しました。      

 

 

Q5

“生命を縮める病気”とは、具体的にどれくらい生命が縮まるのですか? 

 

どれくらい生命を縮めるかは、個人差があります。1年以内に生命を落とす人から、何十年と普通の生活を送る人まで様々です。

 

循環器の専門医なら経験上、大まかに予測することはできますが、がんのように、「余命何年です」と説明しにくい状況にあります。それは、がんのように、早期がん、末期がんといったステージングが、十分に定められていないからです。学会では、現在、心不全のステージングを客観的に説明できるようなデータ解析を進めています。

 

現段階ではありますが、心不全で入院したことのある人は平均で5年間に約半数の方が亡くなっています。これは肺がんよりは良好ですが、大腸がんとほぼ同等、前立腺がんや乳がんよりは不良です。 

 

 

Q6

心不全は一旦発病すると、治ることはないのですか? 

 

Q4でも説明しましたように、心不全の原因となっている心臓の異常が、完全に治ることは少ないです。しかし、現在、心不全の治療法はずいぶん進歩しています。心不全の薬は、症状を改善したり、入院の回数を減らしたり、生命そのものを延伸することが明らかになっています。従って、これらの薬をきちんと内服していただくことは重要です。

 

その他には、外科手術、ペースメーカー、心臓の収縮を整える機械の装着、究極的には心臓移植が治療法となります。

 

 

Q7

心不全は予防できるのですか? 

 

予防することは可能です。心不全の予防には、心臓が悪くならないようにする予防と、一旦、心不全を発症した人の再発予防の 2 つがあります。

 

心臓が悪くならないようにする予防には、心臓の働きを悪くさせる要因を除くことが必要です。

 

つまり、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロール等が高い病気)、肥満を未然に防ぐことです。そのためには、禁煙、減塩、節酒、適度な運動が重要です。そして、心臓が悪くなりかけていることに早く気付き、医療機関を受診し、上記の生活習慣の改善に加えて、適切な薬物治療をすることにより心不全の発症や悪化を防ぐことができます。

 

心不全の再発予防としては、上記の事項に加えて、過労、水分の過剰摂取を避けること、また、冬には風邪を契機に心不全の悪化がよく見られますので、風邪予防も重要です。また、高齢者の心不全では、軽度の労作が大きな負担になって、再発することもよくありますので、患者さん自身のヘルスケア、ご家族、あるいは医療・介護関係者、地域でのケアが心不全の予防では特に重要です。

 

 

Q8

急性心不全、慢性心不全という言葉を聞いたことがありますが、どう違うのですか? 

 

急性心不全は、それまでは悪くなかった心臓、あるいは悪いと全く気づいていなかった心臓が急に悪くなった場合を言います。

 

激しい息苦しさで発症することが多く、適切に治療しないと生命を落とすことがあります。急性期を乗り切ると、その後は慢性心不全となります。 

 

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

Q1.Q2.心不全はめずらしい病気ではありません。しかし、外来診療で「心不全」を指摘すると、たいていの方が心理的なショックを受けてしまします。

 

心不全すなわち急死と受け止める方が多いようです。それでも「心不全」という言葉の意味をきちんと理解して、必要に応じて抵抗なく用いることができるようになれば、予防や治療やリハビリテーションのためにも有意義だと思います。

 

Q3.「息切れ」や「むくみ」など、心不全の初期症状を知っておくことは、病気の早期発見や、治療成績を評価する上で大切です。

 

Q4.Q7.ここでのポイントは、

Q4.<過労、塩分や水分の摂りすぎ、風邪、ストレスや、薬の飲み忘れなどにより心不全の症状が悪化、あるいは再発する>こと、

Q7.<高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロール等が高い病気)、肥満を未然に防ぐことです。そのためには、禁煙、減塩、節酒、適度な運動が重要です。>

 

これらはすべて予防策を講じることができる因子だからです。

 

風邪とありますが、万病の元といわれるとおり、インフルエンザや肺炎ではさらに心不全のリスクを高めます。ワクチンを適切に摂取しておくことがとても大切です。また、水氣道は、心不全の予防のみならず、治療、増悪防止のすべてに有効な運動療法です。