最新の臨床医学 10月28日(日)心療内科についてのQ&A

 心療内科についてのQ&Aをご紹介いたします。

 

それは日本心療内科学会のHPです。

 

 心療内科Q&Aのコラムを読むことができます。

 

Q&Aは、想定した事例です。Q&Aや疾患についてのご質問、病院の紹介等は、受け付けておりませんのでご了承下さい。※「質問」をクリックする、が表示されます。

 

と書かれています。

 

高円寺南診療所に通院中の皆様が、一般論であるこのQ&Aを読んでいただくためには、実際に即した具体的な解説が必要だと考えました。そこで、「質問」「答え」の後に、

 

<高円寺南診療所の見解>でコメントを加えることにしました。

 

 

CQ

「質問11」糖尿病ですが、摂食障害を併発しました。

 

どのような治療を受けたらいいでしょうか

 

A

糖尿病だけでもご負担が大きいと思われますが、さらに、摂食障害も併発されたとのこと、大変ご苦労されていると拝察します。

 

糖尿病に摂食障害を併発した場合の治療に関しましては、まだ確立されたものはございませんが、糖尿病の担当医に加え、栄養士、看護師、さらには、心療内科医や精神科医を含めた多職種によるチームによるケアが重要であるとされています。

 

糖尿病の治療に関しましては、最初から完璧なコントロールを目指すのではなく、通常よりも高めの目標をまず定め、段階的にクリアしていく方法が勧められています。

 

これは、低血糖が生じる危険を低くするというメリットもあります。

 

また、インスリンを用いている方の場合には、低血糖による空腹感から過食につながることを避けるために、低血糖を起こしにくいインスリンポンプを使用することもありますし、グルコースタブレットの使用など、過食につながりにくい低血糖時の補食も勧められていますので、糖尿病の担当の医師とよく相談されるのがよいと思います。

 

そして、摂食障害の治療に関しましては、心療内科医や精神科医などの専門の医師の治療を受けられるのがよいと思います。

 

その場合も、医療者間のコミュニケーションが重要ですので、可能なら同一医療機関で受診されるのが望ましいと思われますが、難しい場合でも情報が共有できるよう、糖尿病と摂食障害の状態の記録をどちらを受診する際にもお持ちいただくのがよいと思います。

 

(吉内一浩)

 

 

<高円寺南診療所の見解>

吉内一浩先生は、現在、東大大学院医学系研究科・ストレス防御・心身医学分野の准教授です。吉内が大学院生だった頃に、今は無き東大分院の心療内科で、私は当時の教授であった久保木富房先生に心療内科の手ほどきを受けました。心療内科で用いるテストバッテリーの使い方や、パニック障害をはじめとする不安障害について、有意義な研鑽を積むことができました。摂食障害もまたその頃からの主要テーマの一つで、私も幾つかの学会発表をする際に、同じく大学院生であった中尾睦宏先生(現在、帝京大学医学部教授/心療内科・公衆衛生学)をはじめとする東大心療内科の若手の先生方のお世話になりました。

 

さて、糖尿病に摂食障害を併発した患者さんは、高円寺南診療所にも通院されています。全例が摂食障害のなかでも、神経性過食症に分類されるケースです。いずれにせよ糖尿病に摂食障害を併発した場合の治療は未確立なため、教科書的なマニュアル医療では到底対応しきれません。つまり、一人一人の背景を理解し把握した上で、より適切な治療方針を工夫していかざるを得ないということになります。高円寺南診療所では、生活習慣の記録による行動療法、認知行動療法の他に水氣道という強力な治療ツールをフルに活用しています。

 

吉内先生も指摘されているとおり、

<糖尿病の担当医に加え、栄養士、看護師、さらには、心療内科医や精神科医を含めた多職種によるチームによるケアが重要である>

ことに相違はありませんが、船頭が多くても船は山に登ってしまいがちです。やはり、優秀なリーダーの存在と積極的な関与が不可欠だと思います。

 

ところで、吉内先生は、説明の都合上だとは思われますが、糖尿病の治療と摂食障害の治療を分けてコメントされています。しかし、吉内先生のアドバイスの最も大切なポイントは、

<医療者間のコミュニケーションが重要ですので、可能なら同一医療機関で受診されるのが望ましい。>

ということに集約されていると思います。

 

なお、やむを得ない場合であれば

<情報が共有できるよう、糖尿病と摂食障害の状態の記録は、どちらを受診する際にもお持ちいただくのがよい>

とのご意見ですが、その場合は糖尿病管理の担当医が、どれだけ摂食障害患者を理解できるか、また、摂食障害管理の担当医が、どれだけ糖尿病を理解できるか、ということが重要になってきます。実情は、とても厳しい、というのが永年の経験の蓄積による私の印象です。

 

 

自らが心療内科指導医・専門医である吉内先生は、都内においても心療内科専門医は高々27人しかいないことを当然ご存じです。そこで、摂食障害の治療に関して、現実的な見地から、あえて心療内科専門医とは書かれずに

<心療内科医や精神科医などの専門の医師の治療を受けられるのがよい>

とされているのだと推測されます。ただし、内科診療をあまり経験されていない一般の精神科の先生に糖尿病の治療との兼ね合いを理解していただくということは、あまり期待できることではありません。

 

やはり、心療内科専門医は、内科医としての研修歴があるため糖尿病合併過食症の診療に携わる機会も多いのではないかと思います。ただし、インスリン使用者や透析を導入しているケースでは、やはり糖尿病専門医や腎臓透析の専門医との連携を考慮すべきだと思います。

 

 

糖尿病は、インスリンの作用不足によって起こる糖質を中心とした代謝障害です。ただし、その発症や経過に心理社会的因子が関与している心身症と見られる症例もあります。

 

また、神経症的な性格傾向をもつ症例もあり、抑うつとの関連が認められています。

 

過食症を合併していれば、なおさら心身症として、心身医学的アプローチを進めていくことが求められることが多いことでしょう。むしろ糖尿病それ自体が慢性病として長期にわたる心身両面でのコントロールを必要とする疾患であるという基本認識をもつことが大切だと思います。

 

<(糖尿病の)治療に関しては、通常よりも高めの目標をまず定め、段階的にクリアしていく方法が勧められています。>

と吉内先生は解説されていますが、いささか意味不明です。

 

<通常より高めの目標>設定と表記すると、血糖値その他のコントロールをより厳格にする、と誤解される可能性があると思われるからです。

 

<高めの目標を定める>、とは、この場合、空腹時もしくは随時血糖値あるいはヘモグロビンA1cの目標値であると理解すれば、たしかに低血糖が生じる危険を低くするというメリットがあります。

 

たしかに治療目標のハードルを低くしておくと、達成率が高まります。スモール・ステップ・アップ方式といって、この方法でサポートすると、患者さんが段階的に小目標をクリアしやすくなり、成功体験を重ねることにより、自己効力感を高めることができます。

 

この経験が糖尿病のみならず過食症のコントロールのためにとても大きな役割を発揮しています。