最新の臨床医学 10月7日(日)心療内科についてのQ&A

心療内科についてのQ&Aをご紹介いたします。

 

日本心療内科学会のHPです

 

 心療内科Q&Aのコラムを読むことができます。

 

Q&Aは、想定した事例です。Q&Aや疾患についてのご質問、病院の紹介等は、受け付けておりませんのでご了承下さい。

※「質問」をクリックすると表示されます。

と書かれています。

 

 

高円寺南診療所に通院中の皆様が、一般論であるこのQ&Aを読んでいただくためには、実際に即した具体的な解説が必要だと考えました。そこで、「質問」「答え」の後に、

<高円寺南診療所の見解>

でコメントを加えることにしました。

 

 

 

「質問8」

中学3年生の娘です。

学校の身体測定で標準より太っていると指摘されてから、どうも食事の後にトイレで吐いているようです。

 

本人に聞いてもそのようなことはしていないと言いますが、頬がこけてきて、体重も減ってきているように思います。

 

一度専門家に診て欲しいのですが、心療内科で診ていただけますか。

 

 

「答え」

この症例は恐らく体重がかなり減少しているので摂食障害(以下、ED)のうちでも神経性食欲不振症(以下、AN)と考えられます。

 

EDの根本はAN、神経性過食症(以下BN)を問わず「やせ願望」「肥満嫌悪」を持つことと考えられます。

 

したがって、「体重増加」につながることはすべて拒否的です。

 

おう吐、下剤の乱用、過度な運動などがみられますが、すべて、やせたいためと考えられます。

 

私の調査では5~6割のEDはおう吐をしていることから、この症例もその可能性が大きいと考えられます。

 

しかし、家族はそれをとがめることが多いので、本人はしばしば否定をします。

 

これ以外のことでもやせることを邪魔されそうになるとうそをついてでも否定します。

 

しかし、体重が30㎏前後になると生命の危険に直面し、周囲はあわててしまいます。

 

この時厄介なのは大抵の場合、いくら食べることをすすめても、生命の危機を説いても、入院をすすめても全く応じないということです。

 

もし幸い入院した場合は専門医が「行動制限療法」などで対応可能です。

 

実際は入院を絶対にいやがるのが特徴で、私の統計ではANの71%は入院が絶対といやと言っています。

 

私は多くの重症ANを治療した経験から、この「入院拒否感」を重視し、「入院体重」を設定し、○○㎏以下なら入院という具合に「黒川体重設定療法(以下、KTWT)」を考案し実施しています。

 

この症例のように若年性の重症ANはとくに「入院拒否感」が強くKTWT以外の治療法では不可能と考えます。

 

このKTWTを実施するには患者との微妙なかけひきや親の協力を引き出す努力も不可欠です。

 

またこの様な症例は心理的のみならず身体的にも肝機能障害、カリュウムやリンの低下、甲状腺や下垂体ホルモンの異常もみられます。

 

したがって、専門医は心身両面から診られる心療内科医であり、しかもこの様な重症ANの経験がある医師でないと難しいでしょう。

 

さらにその経験も少なくとも3~5例のこの様な重症ANと入院であれ外来であれ患者と死にもの狂いで生命を守る戦いをした経験があることが求められています。

 

しかし、この様な専門医は全国でも極めて少ないのが現状です。

 

(黒川順夫)

 

<参考文献>

 1.黒川順夫、松島恭子、鎌田 穣ほか:「黒川体重設定療法(KTWT)」について―とくに神経性食欲不振症へのアプローチの仕方およびその治療成績を中心に―日本心療内科学会誌、8(1):15~21、2004

 

2.黒川順夫、松島恭子、鎌田 穣ほか:「黒川体重設定療法(KTWT)」により改善した重症神経性食欲不振症の1例について―総合病院内科入院の1/5の費用で軽快―、日本心療内科学会誌、6(3):171-175、2002

 

 

<高円寺南診療所の見解>

「質問8」のご相談内容だけですと、確実に神経性食欲不振症(以下、AN)であると診断できる情報は不足しています。

 

そこで、黒川先生は、「この症例は恐らく体重がかなり減少しているので摂食障害(以下、ED)のうちでもANと考えられます。」との断りを加えて解説をはじめておられています。

 

体重に関しては、年齢と身長に対する正常体重の最低限、またはそれ以上を維持することを本人が拒否しているかどうかを確認することも、診断基準に含まれています。

 

ですから、年齢や身長を勘案せずに体重のみを基準にすることは誤りということになります。

 

その場合、体格係数(BMI:Body Mass Index)を参考にするのは、とても有用だと思います。

 

黒川先生は、例として体重30㎏前後を生命危険域の基準としておられます。

 

①仮に、この女性の体重を30㎏で身長を160㎝(=1.6m)とすると、

 

この女性の現在の体格係数は、BMI=30÷1.6÷1.6=11.7

 

正常体重の最低限の場合、そのBMIは18.5ですから、

 

その場合の体重は、BW=BMI×1.6×1.6=47.4(kg)

 

つまり、47.4-30=17.4㎏の体重増加が必要です。

 

 

②これに対して、身長が145㎝(=1.45m)の場合は、

 

BMI=30÷1.45÷1.45=14.3

 

正常体重の最低限は、BW=18.5×1.45×1.45=38.9(kg)

 

この場合は、8.9㎏の体重増加が必要です。

 

 

このように、身長によって、30㎏の持つ意味が大きく異なるので、BMIの計測は臨床上とても大切です。

 

特に、長身の方の体重評価には注意を要します。

 

黒川先生は、独自に「黒川体重設定療法(以下、KTWT)」を考案し実施しておられるので十分な配慮がなされているのだと思います。

 

次に、初潮後の女性の場合には、無月経、つまり、月経周期が連続して少なくとも3回欠如することがANの診断基準にふくまれています。

 

いずれにしても、重症のANの診療は困難をきわめます。黒川先生がいみじくも、診療可能な医師の条件を説明されています。

 

「①専門医は心身両面から診られる心療内科医であり、しかもこの様な重症ANの経験がある医師でないと難しいでしょう。

②さらにその経験も少なくとも3~5例のこの様な重症ANと入院であれ外来であれ患者と死にもの狂いで生命を守る戦いをした経験があることが求められています。」

 

しかし、この様な専門医は全国でも極めて少ないのが現状です。

 

高円寺南診療所では、上記①の条件はクリアしていますが、その結果、②の条件をクリアするためには、外来診療では限界があると考えています。

 

高円寺南診療所でも摂食障害(ED)を多数診療していますが、その場合は、上記ANではなく、過食症としても知られる神経性大食症(BN:Bulimia Nervosa)です。

 

それも、多くの場合は他の精神神経疾患や身体疾患を合併する例がほとんどですが、こちらは、基本的には外来診療でも対応可能です。