新の臨床医学 9月8日(土)漢方治療についてのQ&A

漢方治療一般に関しては

 

一般社団法人 日本東洋医学会 一般の方へのHPを検索してみてください。

 

ここには<漢方ストーリー>という読み物がりますので、お読みになってください。

 

ただし、具体的なQ&Aは掲載されていません。

 

 

これに対して、慶應義塾大学医学部漢方医学センターの漢方Q&Aは比較的上手にまとめられていると思います。

 

ただし、その記載は概ね一般的ではありますが、慶應義塾大学医学部漢方医学センター受診者を想定して書かれているようです。

 

そこで、高円寺南診療所の立場から、<高円寺南診療所からのメッセージ>を加えてご紹介を試みることにしました。

 

Q

風邪の時に葛根湯を飲んだのにあまり効果がありませんでした。

 

A

「風邪には葛根湯」というのは、落語にも出てくるくらい有名な話です。

 

本来の漢方治療では、風邪と一言でいっても患者さんの体質、状態によって薬が全く異なります。

 

「熱がっているか?寒がっているか?」

「汗をかくか?かかないか?」

「便はどうか?」

「食欲はどうか?」

「普段の体力はどうか?」

など風邪とは関係がなさそうに見えることを総合し、患者さんの状態を考慮したうえで漢方薬を選ぶのです。

 

風邪の治療の際に、専門家が使う漢方薬は葛根湯だけでなく、20種類以上あります。

 

専門家に相談して漢方薬を飲まないと、逆に不快な症状が出て一向に治療効果が上がらない、などということにもなりかねません。

 

 

<高円寺南診療所からのメッセージ>

「風邪には葛根湯」というのは、普段比較的体力がある人のためには無難な選択だと思います。

 

ここで体力というのは、行動的な体力というよりは、防衛的な体力で、免疫力のようなもので、慢性的で消耗性の病気を持っていない人と考えてください。

 

具体的に言えば、子供たちの多くや、普段病気にかからない人たちです。

 

落語に出て来るかどうかは知りませんが、「葛根湯医者」という言葉が残っています。

 

江戸時代の話だと思いますが、風邪と発熱に葛根湯、頭痛と肩こりと寒気を訴えるお松さんに葛根湯、中耳炎のお梅さんに葛根湯、赤ちゃんのためのお乳が出なくて困っているに母親のお竹さんにも葛根湯、大工の熊さんの大事な右腕の神経痛にも葛根湯、蕁麻疹のお竹姐さんにも葛根湯、という具合に、なんでも葛根湯で済ませてしまう町医者がいたとしても不思議ではありません。

 

おそらく庶民から揶揄されもし、同時に親しまれてもいたのが、こうした「葛根湯医者」だったのではないでしょうか。

 

私は、「葛根湯医者」はむしろ名医だったのだと思います。

 

なぜならこうした葛根湯医者の処方例は、現代の視点からみても、ほぼ誤りではないからです。

 

葛根湯は、ふだん比較的体力があって、自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こりなどを伴う熱性疾患の初期に広く用いることができるからです。

 

 

風邪に葛根湯が効かない理由として、慶應義塾大学医学部漢方医学センターの回答は、葛根湯の処方の誤りに重点を置いて説明しています。

 

また<専門家に相談して漢方薬を飲まないと、逆に不快な症状が出て一向に治療効果が上がらない、などということにもなりかねません。>との解説をしています。

 

しかし、現場の臨床では漢方専門医は、処方が誤りでなくとも効かない場合を想定しなければなりません。

 

また、逆に誤った処方でも、症状が一時的に消失してしまうことも同様に忘れてはなりません。

 

不適切な結果をもたらさないための典型例を自らの訓戒の形でまとめてみました。

 

 

1)漢方薬で治すためには、漢方に不信感を抱いたままの患者に処方してはなりません。

 

2)医師または薬剤師は服用法のコツを患者に教えなければなりません。

 

3)漢方薬で治すためには、医師は患者に養生法(休養や食事など)の指導をしなければなりません。養生を軽視する患者には漢方は向きませんし、効きが悪いです。

 

ヘビースモーカーの方には漢方薬は効きません。癌を抑制できる漢方薬があるとはいえ、たばこの毒を中和できるほどの効能はないからです。

 

4)医師は「治る」ということの意味を、きちんと患者に理解していただかなければなりません。

 

自覚症状のみを速やかに解消したい、それが叶えば治った証拠、と誤解しがちな患者が多いことに注意を払わなければなりません。

 

5)急性期の症状を引き起こす背景、たとえば気づきにくい慢性的な発病因子(体質、気質、環境等)についても注意を払う必要があり、適宜指導する必要があります。