コーヒー摂取と死亡率の関連
‐カフェイン代謝関連遺伝子変異解析による‐
コーヒーにはさまざまな健康効果(循環器系疾患や癌による死亡率の低下など)が報告されています。
ただし、コーヒー摂取者のカフェイン代謝関連遺伝子の変化や毎日5杯より多いコーヒー摂取者での検討はされていませんでした。
最近の研究では、コーヒーの摂取量が多い人は早期死亡リスクが低下し、この効果は1日8杯以上のコーヒーを飲む人でも認められることが分かりました。
また、こうしたコーヒー摂取による寿命の延長効果は、カフェイン含有の有無にかかわらず認められました。
この研究は、米国立癌研究所(NCI)のErikka Loftfield氏らによるものです。
対象は英国バイオバンク(the UK biobank)に参加した英国の成人49万8,134人(平均年齢57歳、女性54%)の地域住民です。
研究方法は、この対象を2006年から2016年まで追跡した大規模な前向きコホート研究です。
研究の目的は、遺伝子的カフェイン代謝スコアを用いてコーヒーの摂取量と死亡率との関連を調べることです。
事前背景:対象者の78%にはコーヒーを飲む習慣がありました。
調査結果:10年以上の追跡期間中に1万4,225人が死亡した。
カフェイン代謝関連遺伝子変異解析の結果:
①コーヒーの摂取量が多いと全死亡リスクは低下する
②コーヒーを全く飲まない人に比べて、1日8杯以上飲む人は、追跡期間中の死亡リスクが14%低く、1日6~7杯飲む人の死亡リスクが16%低かった。
③1日1杯以下の人では全死亡リスクの低下は6~8%にとどまった。
④コーヒーの摂取による寿命の延長効果は、レギュラーコーヒーやインスタン トコーヒーだけでなく、カフェインレスコーヒーでも同様に認められた。
⑤カフェインの代謝に関係する遺伝子多型の違い(カフェインの分解が遅いため多くは飲めない人、あるいは代謝が速く多く飲める人)で効果に差はみられなかった。
考察
Loftfield氏:米国立がん研究所(NCI)
①「コーヒーにはカリウムや葉酸をはじめ、身体に影響を及ぼす化学物質が1,000種類以上含まれている。今回示されたコーヒー摂取による早期死亡の抑制効果は、カフェイン以外の成分によるものである可能性が高い。
②この結果はコーヒー好きには朗報だが、コーヒーを飲まない人が寿命が延びることを期待して、わざわざ飲み始める必要はない。
Samantha Heller氏:ニューヨーク大学ランゴン医療センター栄養士
(ア)「多くの植物性食品と同様に、コーヒー豆にはポリフェノールが豊富に含まれている。ポリフェノールには抗酸化作用や抗 炎症作用、抗がん作用があるほか、血圧や血糖値を下げることが知られている」
(イ)「野菜や果物、豆類などが豊富な食事を取る人は、がんや肥満、糖尿病、認知症、心疾患、うつ病などの慢性疾患になるリスクが低いことが分かっている」
(ウ)「コーヒーの摂取は健康に良い習慣の一つになり得る」
(エ)「コーヒーを飲めば、不健康な食習慣や喫煙などによる健康への悪影響を打ち消せるものではない」
(オ)「人によっては、コーヒー中のカフェインは身体に良くないこともある」
コメント(飯嶋正広:高円寺南診療所、医学博士)
コーヒー愛好者の一人として、コーヒーが健康に及ぼす影響には、個人的にも以前から大きな関心がありました。
開業医の業務の傍らで、東京大学の大学院(保健学修士課程および医学博士課程)を無事終了し、50歳にしてようやく2つの学位を取得できたのもコーヒーの御蔭であったように思えます。
また、特定の医局に所属せずに、東洋医学(漢方)、アレルギー、リウマチ、心療内科などの専門医試験に合格できたのもコーヒーの助けが大きかったと思われます。
ただし、カフェイン中毒にならないで済んだのは、水氣道や声楽家としての活動を続けていたことが大きかったのだと確信しています。
ヘラー女史(ニューヨーク大学栄養士)もコメントしているように、コーヒー豆にはポリフェノールが豊富に含まれているので、抗酸化作用や抗炎症作用、抗がん作用があるほか、血圧や血糖値を下げることが期待できます。
抗酸化物質としてのポリフェノールはカレー粉や赤ワインにも豊富に含まれています。
また漢方生薬は「抗酸化物質の宝庫」といわれますが、植物由来であるから当然のことです。
生薬に含まれる抗酸化物質として、カロチノイドやビタミンC・Eなどの天然抗酸化剤のほか、フラボノイドやタンニンなどのポリフェノール・カフェー酸誘導体・リグナン類・サポニン類などが知られています。
高円寺南診療所での処方方針は、ミネラル⇒ビタミン⇒漢方薬⇒現代薬としていますが、これは病気の表面的な症状を抑えることにとどまらず、できる限り病気の根本を治して、健康長寿につなげようとする診療哲学に基づくものだからです。
コーヒー摂取に関して大切なことは、コーヒーの健康効果はカフェインによるものではないということです。
そしてコーヒーは適量摂取では栄養あるいは嗜好品ですが、大量に摂取すると薬物さらには毒物になりかねない二面性を持つということです。
この点は、徹底的に毒物であるタバコとの大きな相違点です。
カフェインは栄養ドリンクなどにも含まれていますが、キサンチン誘導体であり、栄養素ではなく薬物です。
眠気、倦怠感、血管拡張性・脳圧亢進性頭痛(片頭痛、高血圧性頭痛、カフェイン禁断性頭痛など)に用いられることがありましたが、最近ではあまり処方されません。
カフェインの主たる副作用は、心身両面に及びます。
主として振戦(ふるえ)、めまい/ふらつき、動悸/不整脈、不眠、不安/緊張などを挙げることができます。
高円寺南診療所には不眠や不安の相談で受診される方は多いですが、中には喫煙者であるうえに、夜間にコーヒーをたくさん摂取している方が少なくありません。
他院で安定剤(抗不安薬)を複数処方されているにもかかわらずパニック発作に苦しんでいる方のなかにも、同様の生活習慣の方が見られます。
特に注意していただきたいのは、動悸/不整脈やふるえ/めまいをはじめ意識障害のある方です。そのような方は、早めに相談してください。
ARCHIVE
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年9月
- 2023年7月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年9月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月