最新の臨床医学 神経病学:7月19日(木)

治る認知症

 

 

慢性硬膜下血腫

 

認知症の中には、すっかり治せるタイプがあります。

 

その代表的な病気として注目されているのが「慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)」です。

 

これは、脳を覆っている硬い膜と脳の間に血液が溜まってしまう病気で、転倒などで頭を打った後、23か月後に起こります。

 

血腫によって脳が圧迫されて物忘れや歩行障害、トイレの失敗(尿失禁)など、認知症とよく似た症状が現れるのが特徴です。

 

認知症の症状がある8090歳代にも慢性硬膜下血腫が多く見られるといわれています。

 

高齢だから認知症とすぐに決めつけず、転倒やなにかに頭をぶつけたことがあったら放置せず診察を受けてみましょう。

 

慢性硬膜下血腫であれば、脳に溜まった血腫を除去すれば脳は正常な状態に戻ります。

 

 

 

漢方で治る「慢性硬膜下血腫」がある

 

慢性硬膜下血腫の治療法は、手術が一般的で2つの方法があります。

 

1つは頭蓋骨に親指ほどの穴をあけ、血腫に細い管を挿入して血腫を除去する「ドレナージ術」。

 

命にかかわる緊急時は、頭蓋骨を大きく開いて血腫を摘出する「開頭術」が選択されます。

 

ただし、血腫の量が少なく、緊急性がない場合は、手術をしないで経過観察ということもあります。

脳神経外科では、最近、このようなケースに漢方薬が用いられています。

 

 

 

バランスを崩した水の流れを整える「五苓散」

 

では、脳の中に溜まった血腫(血液)が、どうして消失したのでしょうか。五苓散が効く仕組みも明らかになっています。

 

体内の水は細胞の内と外を出たり入ったりしていますが、細胞の浸透圧が乱れると水の流れが変化し、一方的に流れるルートができます。

 

これが脳で起きると脳浮腫になります。細胞の内外の水の透過性は、アクアポリン(AQP)というたんぱく質が調整しています。

 

AQP13種類あり、臓器によってその種類の分布が異なり、脳のケガや病気になるとアクアポリン4(AQP4)が増えることが動物実験からわかっています。

 

 

 

脳浮腫の三大病に共通する「水の異常」

 

漢方では浮腫を水の異常と診ます。脳に生じる浮腫を脳浮腫とよびます。

 

たとえば、慢性硬膜下血腫は、頭蓋骨に余分な血液が溜まってしまいます。

 

脳梗塞では血管が詰まって血液が流れなくなるため、周囲の脳がダメージを受けて脳浮腫を起こします。また脳腫瘍は、腫瘍が正常な脳を圧迫することで脳浮腫が起きます。

 

 

 

水氣道の導入にも有用な漢方薬

 

水氣道をやりましょうといっても気力が出ない。

 

そんな患者さんのおなかを触ってみると、お通じが溜まっています。

 

一般に、リハビリの前に宿便を取り除く大切さも理解されはじめています。

 

宿便の解消には、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、通導散(つうどうさん)が非常に効きます。

 

おなかがすっきりすると食事がおいしく食べられ、元気になって水氣道に取り組めます。

 

水氣道の手ほどきを始めたり、継続して参加する習慣を形成したりするためにも、漢方薬は役に立っています。