<その3:高円寺南診療所における軽度認知障害(MCI)の早期発見プログラム>
軽度認知障害(MCI)の早期精密診断のための方法として、画像診断であるアミロイドPET画像法とバイオマーカーによる血液検査による方法があることを、前回で紹介しました。
バイオマーカーによる方法は、画像検査と比較すれば格段に安価でお勧めの検査ですが、それでも2万円のコストがかかります。
そこで、受診者の皆様にとって負担の少ないスクリーニングテストについてご紹介します。
ステップ1)国立精研式認知スクリーニングテスト
認知症の早期発見のためのスクリーニング検査です。
高円寺南診療所では、50歳以上でご希望の方全員を対象とします。
費用:基本診療料でまかなわれる検査ですので、特別の追加負担はありません。
背景:国内外の多数の認知症スクリーニング検査の質問項目に独自の項目を加えたものの中から認知症初期での判別に寄与した項目を厳選していったため、他の認知症スクリーニング検査より難度の高い設問を含んでいるのが特徴です。
企画:問題数は16で,満点は20点。所要時間は5-10分程度です。
評価法:本スケールによる認知症の程度の区分は以下の通りです。
正常:16点以上、境界:11-15、認知症:10以下
ただし、高円寺南診療所では、軽度認知障害の早期発見のため、高齢に至っていない65歳未満の方については、満点(20点)に至らなかった方には、ステップ2)MMSEによって、再度確認することをお勧めいたします。
「境界」は柄澤 (1989) の高齢者の知能低下の判定基準で<軽度の認知症>と判定される領域に対応します。本検査の得点と被検者の年齢・教育年数との相関は–0 .23と0 .12であり、 本検査の得点はこれらの変数の影響を受けないとされています。
課題:問題点は、動作性の課題を含んでいないこと、また検査用紙が古いため「認知症」でなく「痴呆」の語がタイトルに用いられていることなどです。
ステップ2)MMSE
認知障害の検出のために作成されたスケールです。
高円寺南診療所では、ステップ1)国立精研式認知スクリーニングテストの結果、必要とされた方、もしくは55歳以上で、必要と判断される方を対象とします。
操作が容易な認知機能検査のひとつです。
費用:1割負担の方では80円です。
沿革:日本では認知症診断の補助ツールとして有名であるが,元来は精神疾患一般を対象としたものであり,また神経疾患や一般内科疾患における認知障害の検出にも広く利用されています。
企画: MMSE の設問は11問であり,満点は 30点です。動作性の課題を含み、所要時間は10-15 分程度。
評価法:設問の内容は以下の通りです。
第1問で時の見当識を,第2問で場所の見当識をそれぞれ調べます。
第3問は言語性聴覚性即時記憶と学習効果についてテストし,
第4問は版により異なるが,計算力,言語性聴覚性即時記憶, 注意集中力を評価します。
第5問では言語性聴覚性近時記憶をテストします。
第6問は呼称問題で言葉の理解の障害を検出します。
第7問と第9問 も即時記憶と言語理解に関する項目です。
第8問の3段階命令と第9問 の視覚的に提示された指示に従うという設問は動作性課題であるが言語理解を様々な面から検査する意図で採用されたものと考えられます。
第11 問も動作性の課題で,空間的構成力をみるものです。
アルツハイマー型認知症ではその初期から立体図形や立方体透視図の模写ができなくなることはよく知られています。これは空間的構成力の障害を示すものとされるが, 二次元的な立体図形の模写ができない場合でも,板を切って三次元的な立体を作ることは可能な場合もあります。立方体透視図模写時の眼球運動を記録した研究では, 健常高齢者では視線が刺激図形と描画中の図形の間を規則的に往復するが,アルツハイマー型認知症患者では,刺激図形と描画中の図形のどちらからも離れ,宙をさまようような眼球運動を示すことを明らかにしています。
カットオフポイントは姫路版,藍野病院版ともに23/24を採用しています。 この場合,姫路版の感度は0 .83で特異度は0 .93であり,アルツハイマー型認知症患者の95 .7%が正しく判別されました。認知症の重症度の判定水準は、
23-15点:軽度認知症,15-5点:中等度認知症, 5点以下:重度認知症としますが、厳密なものではありません。
高円寺南診療所では、軽度認知障害の早期発見のため、高齢に至っていない65歳未満の方については、26点未満の方には、ステップ3)WCSTウィスコンシン・カード分類検査によって、再度確認することをお勧めいたします。
課題:MMSE の得点は被検者の年齢と教育年数の影響を受けやすいことが繰り返し指摘されています。
ステップ3)WCSTウィスコンシン・カード分類検査
強化学習の状況の変化に直面した際の柔軟さを意味する"セットシフティング" (set-shifting) の能力を見るための神経心理学的課題です。
操作が複雑な認知子脳検査の一つです。
90歳未満の方(6歳半以上)であれば、幅広い年代層で用いることができます。
費用:1割負担の方では280円です。
沿革:1990年代初頭にコンピューター版の課題が作られ、最近ではマニュアル版では非常に複雑だった点数化を自動で行うことが可能です。
企画:この課題の所要時間は約 12 から 20 分ほどで、成功したカテゴリー、課題、正答、誤答、保続的 (すでにルールが変わっているにもかかわらず、以前のルールに基づいて何度も間違いを犯してしまう状態) な誤答の数、パーセント、パーセンタイルなどのいくつかの精神測定学的な点数を算出することが可能である。このテストは、「抽象的行動(“abstract behavior”)」と「セットの転換(“shift of set”)」に関する検査で、一般的には前頭葉機能検査法として知られています。これは、仮説生成と反応切り替え機能のためにしばしば使用される測定法です。
評価法:達成された分類カテゴリー数と、保続数、保続性誤り数によって評価します。
保続とは、被験者が自分の考えた分類カテゴリーに固執し続けることをいいます。 保続性誤りは、分類カテゴリーが変わったにもかかわらず、前に達成された分類カテゴリーにとらわれ、誤反応する保続が一般的です(Milner型保続)。 また、直前に誤反応した分類カテゴリーにとらわれ、誤反応する保続もあります(Nelson型保続)。
臨床応用:この課題は神経心理学者や臨床心理学者、神経学者、精神医学者の間で、後天性脳損傷や神経変性疾患、統合失調症のような精神疾患の患者に対して広く用いられています。この課題は前頭葉機能障害に対して感受性をもつとされていることから、実行機能 (executive function) の計測法として有効であるとされています。それは例えば、戦略的な計画、系統的探索、環境からのフィードバックを利用した認知セットのシフト、目標の達成に向けた行動の方向付けや衝動的な応答の抑制のような"前頭葉"機能です。
この課題は 6 歳半から 89 歳までの幅広い年齢の患者に用いられています。
解説:この課題を正しく遂行するには注意やワーキングメモリ、視覚処理などの様々な認知機能が正常であることが要求されます。そして、この課題は漠然と"前頭葉"検査と呼ばれています。それは前頭葉に損傷のある患者の多くは課題の成績が不良であるためです。特に前頭葉背外側部に損傷のある患者は対照群に比べて保続的な誤答が多いことが知られています。最近のウィスコンシン・カード分類課題に関する因子分析により、このような保続的な誤答の数は損傷を評価する上で最も良い計測指標であることが分かっています。このような障害は、より正確には"実行機能障害" (executive dysfunction) と呼ばれます。
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