月別: 2018年6月
< パーキンソン病(薬物治療と副作用の相克と水氣道)>
パーキンソン病は、中年以降に発症する比較的頻度の高い錐体外路系の変性疾患です。
静止時振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害の四症状を特徴とします。
そのため転倒し易いことに注意すべきです。
また、認知機能障害、精神症状、自律神経障害なども伴いやすいことを認識しておくことが必要です。
中脳黒質ドパミン神経細胞が高度に脱落し、線条体(被殻・尾状核)のドパミン濃度が著減することが、これらの中核症状と密接な関連を持ちます。
しかし、細胞脱落は黒質にとどまらず、中枢から末梢神経系に至る広範な神経細胞に及び、レビー小体という特徴的な細胞質封入体が観察されます。
このレビー小体の主成分の一つが特殊蛋白質であるαシヌクレインで、この物質の異常な凝集がパーキンソン病の原因であろうと考えられています。
パーキンソン病には画像診断が有用です。¹²³I-MIBG心筋シンチグラフィ―に加えて、ドパミントランスポーターSPECT(DATスキャン)が臨床応用されています。
ただし、鑑別疾患に役立つ特異的な検査はMIBG心筋シンチグラフィ―であり、心筋への取り込み集積低下所見が特異的です。
また、パーキンソン病では脳血流シンチでは異常を認めないことが知られています。
パーキンソン病の原因が、αシヌクレインの異常な凝集であるため、パーキンソン病の本質的な治療はαシヌクレインの凝集阻止ということになります。
しかし、現時点で可能な治療の基本は、線条体におけるドパミン受容体に対する有効な刺激です。
すなわち不足したドパミンの補充とドパミン代謝の改善が中心となっているに過ぎません。
また、ドパミン神経に拮抗するアセチルコリン神経の抑制も有効であり、軽症例で用いられます。
ドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI)はL-ドパの末梢での分解を防ぎ、脳内への移行を助けます。
しかし、通常L-ドパによる治療を開始して数年後に、痙性の強い、四肢や頭部の舞踏様の運動が現れることがあり、これをL-ドパ誘発性ジスキネジアと呼び臨床的な課題になっています。
また、パーキンソン病治療薬(抗パーキンソン病薬)の効果持続時間が減少し、薬物の血中濃度の変動とともに症状が変動する現象があり、これをWearing off (ウェアリング・オフ)と呼びます。
とくに、L-ドパ製剤を1日3~4回服用しても、次の薬剤を服用する前に効果が続かなくなることを自覚する場合をいいます。
その主たる原因は、パーキンソン病の進行とともにドパミン神経終末が減少し、ドパミンを保持できなくなることによります。
L-ドパという薬剤に、こうした症状があらわれ易いは血中濃度の半減期が短いためです。
前述したL-ドパ誘発性ジスキネジアの発症はパーキンソン病の進行期で症状の変動が明らかとなる時期にみられるようになり、ちょうどWearing offを認める時期と重なります。
パーキンソン病の症状である筋固縮・振戦の軽減のためにL-ドパ投与量を増量すると過剰になりやすく、on症状の改善は期待できますが、ジスキネジアを生じさせたり悪化させたりする可能性があります。
逆にジスキネジアを避けるためにL-ドパ投与量を制限すると、患者のQOLの維持が困難になりがちです。
Wearing offの改善のための対策には、off(薬の効果切れ)時間の短縮とoff時の症状改善の2つがあります。
COMT阻害薬は、Wearing off時間の短縮効果が期待できる薬剤です。
しかし、この製剤はジスキネジアを悪化させるため、ジスキネジアを合併する場合には減量または中止が求められます。
ドパミンアゴニストもWearing off時間の短縮効果が期待できる薬剤でき、さらに長時間作動型のドパミンアゴニストではoff時の症状改善も期待できる薬剤です。
ジスキネジア(筋強剛)を伴わない患者では有用です。
ただし、将来の運動合併症を回避する点から優れているのは、初期治療においてL-ドパ(ドパミンの前駆体)よりも効果が弱いドパミン受容体刺激薬(アゴニスト)であることが示されています。
さらに、L-ドパの急激な中断により悪性症候群が生じることにも注意を要します。
さらに、モノアミンオキシダーゼB阻害薬(MAO-B)はLドパと併用して使われていますが、これは脳内で生成されたドパミン分解酵素であるMAO-Bを抑制することでドパミン濃度を高めます。
2016年に、レボドパ・カルビドパ配合経腸溶液(デュオドーパ®)が上市されて、wearing off 減少の著名な患者に有効性を示しています。
参照:パーキンソン病治療ガイドライン2011(日本神経学会)
<本態性高血圧症>
高血圧の方はとても多いです。診療所の初診時でも再診時でも、必ず血圧と脈拍数を測定していただいております。
また、高血圧症の方には、自宅血圧を測定することを推奨し、受診のたびごとに記録をご持参いただいております。
高血圧患者の第一段階の降圧目標は140 / 90mmHg未満です。
ただし、SPRINT試験での複数回診察室外自己自動記録では120 / 80mmHg未満への降圧の有効性が示されました。
合併症を有さない高血圧に対しては、Ca拮抗剤、ARB、 ACE阻害薬、利尿薬の4種類の薬剤のいずれかが第一選択薬とされていますが、なかでも、前二者が頻用されています。
降圧目標を達成するためには、第一選択薬の内から2~3剤を併用することが多いです。
そのため配合剤の使用が増えています。ただし、ACE阻害薬とARBは原則併用しません。
2016年に承認された3剤配合薬(ミカトリオ®)の適切使用について、3剤の単剤もしくは2剤配合錠と1剤の単剤の併用で8週以上の安定した降圧が得られた場合に切り替えるとされました(日本高血圧学会)。
高血圧治療ガイドライン2014(日本高血圧学会)
家庭血圧測定の指針第2版(日本高血圧学会、2011)
妊娠高血圧症候群の診療指針2015(日本妊娠高血圧学会)
水氣道の、非薬物療法の意義について2回に分けて解説します。
認知症発病までの道のり
認知症は発症するまでに20年程度の予防的対処を要する期間が存在します。
これは症状が出現する以前の前段階の時期を含めての期間に相当します。
認知症を他人事とせず、自らの将来のリスクとして早期に対策を講じておくことが必要であることが示唆されます。
認知症に対する薬物療法
アルツハイマー病やその他の認知症抑制のための薬物療法の効果は、様々な学問的努力にもかかわらず、現状においてはかなり限定的です。
しかも、使用できる薬物は限られ、薬物による副作用の問題があり、また薬剤費用も安価ではありません。
認知療法に対する非薬物療法
認知症に対する薬物療法の効果が満足のいくものではないため、認知症に対しては非薬物療法による治療が試みられてきました。
アルツハイマー病に対する介入は、運動療法の他に認知トレーニング、行動介入、認知的刺激、経頭蓋磁気刺激、音楽療法、回想法、ADL訓練、マッサージ、レクリエーション、多重感覚重喜、心理療法、バリデーション(共感して対応するコミュニケーション法)、リラクゼーション法があります。
またこれらの複合プログラムを実施した報告があります。
また、認知症については介護者の支援も重要な課題であり、介護者に対しては、教育、支援、ケース管理、レスパイトケア、およびこれらの複合プログラムも考案されています。
以上のプログラムによって、
すべての結果
(患者:認知機能、行動、気分、QOL)
(介護者:気分、心理的健康、QOL,拘束)
において軽度から中等度の効果がアルツハイマー病患者および介護者に対してみられたとする系統的総説¹があります。
1)Olazaran J.Reisberg B,Clare L,et al:Nonpharmacological therapies in Alzheimer’s diseases: a systematic review of efficacy. Dement Geriatr Cogn disord 2010; 30:161-178.
認知症に対する運動療法
とくに認知症予防に対する運動療法は、有酸素運動や筋力トレーニング、およびそれらの複合的なトレーニングによって認知機能の低下抑制や向上を目的として行われます。
また認知症治療としての運動療法は、認知機能の改善、情動・精神機能の安定や改善、日常生活動作(ADL)の改善、また介護者負担の軽減を目的として行われます。
認知症に対する運動療法の課題と現状
認知療法に対する運動療法の普及が容易でないことが最大の課題です。
とくに、運動習慣を持たない中・高年者に対し、どうしたら運動を開始し、さらに継続的に実施して貰えるかが最大の障壁だと思われます。
そのためには、運動療法の効用についての明確なエビデンスを構築することが必要であるという認識までは、識者の間では共通しています。
具体的には、効果的な運動処方をするための運動内容、頻度、強度に関する知見を集積する必要があります。
しかし、認知症に対する運動療法の実証研究は緒についたばかりです。
水氣道®でのデータ収集と解析を積極的に推進していく必要があります。
運動療法による認知機能向上のメカニズム
運動が認知機能に対して良好な影響を及ぼすことは経験的にはよく知られています。
しかし、そのメカニズムは複雑であり、理論上は生物学的、行動学的、社会心理学的レベルの各階層において認知機能に影響を及ぼしていると考えられています。
運動療法による認知機能向上は、これらの各階層での作用の総体として発揮されると考えることができます。
生物学的レベルでは、運動によるインスリン抵抗性の改善が神経シナプス機能の向上、それが、さらには脳容量増加に繋がることによって認知機能の向上に寄与することが考えられます。
一方、運動により脳血流量が上昇することによって、脳由来神経栄養因子(BDNF)やインスリン様成長因子(IGF-1)などの神経栄養因子が向上します。
これはインスリン抵抗性改善と同様に、神経シナプス機能向上、脳容量増加さらには認知機能向上に繋がります。
行動学的レベルでは、まず運動療法により身体活動性が向上するのみならず、睡眠状態改善や疲労感の低下が期待できます。
その結果、身体活動性はさらに向上することに伴い認知機能が向上します。
社会心理学的レベルでは、運動によるうつ症状の改善、自己効力感の向上による社会的ネットワークの再構築が期待できます。
とくに、うつ症状の緩和により、認知的活動が向上し、これらが認知機能全般の向上に寄与します。
次回は、<認知症予防に効果的な運動療法としての水氣道®の可能性>です
<麻疹(はしか)の要注意世代について。>
麻疹(はしか)の要注意世代は28歳から41歳といわれています。
1978年から麻疹(はしか)ワクチンの定期接種が始まり、当初は1回だけの接種でした。
その後2007年に発生した麻疹(はしか)の流行をうけて、2008年から2012年の5年間に限り、中学1年生と高校3年生相当の年齢の人に2回目のワクチン接種が施行されています。
また、現在施行されているワクチンの2回接種制度は2006年4月からワクチンの2回接種制度となっています。
つまり1990年4月2日以前に生まれた人(2008年に19歳だった人)~現在40歳の人はワクチンを1度しか接種していない世代となるのです。
1度だけの接種では免疫がつかない人が5%未満存在すことがわかっているのです。
40歳以上の世代は、ワクチンの予防接種の機会がなかったものの、多くの人が麻疹(はしか)に自然感染しているため、比較的リスクが低いと考えられます。
したがって28歳から41歳が要注意世代となります。
麻疹について
<概要>
麻しんは「はしか」とも呼ばれ、パラミクソウイルス科に属する麻しんウイルスの感染によって起こる急性熱性発疹性の感染症です。
麻しんウイルスは人のみに感染するウイルスであり、感染発症した人から人へと感染していきます。
感染力は極めて強く、麻しんに対して免疫がない人が麻しんウイルスに感染すると、90%以上が発病し、不顕性感染は殆どないことも特徴の1つです。
江戸時代までの日本では麻しんは「命定め」の病として恐れられていました。
現在ではビタミンAが不足すると麻しんの重症化を招きやすいことが知られており、発展途上国ではその死亡率が10~30%に達する場合があると言われています。
我が国においても麻しんは最近まで度々大きな流行を繰り返していましたが、ワクチンの接種率の向上や多くの関係者の努力により、国内の麻しんの発症者数は大きく減少しました。
そして2015年3月27日、WHO西太平洋事務局(WPRO)は過去3年間にわたって日本国内には土着の麻しんウイルスは存在していないとして我が国が「麻しんの排除状態にある」ことを認定しました。
<予防するには?>
麻しんは空気(飛沫核)感染する感染症です。
麻しんウイルスの直径は100~250nmであり、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染しますので、マスクを装着しても感染を防ぐことは困難です。
麻しんの感染発症を防ぐ唯一の予防手段は、予めワクチンを接種して麻しんに対する免疫を獲得しておくことです。
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