診察室から:6月12日(火)認知症に対する水氣道の可能性②

<認知症に対する水氣道の可能性②>

 

認知症予防に効果的な運動療法としての水氣道®の可能性

 

一般的に、認知症予防のための運動療法の目的は、まずは認知機能の低下抑制や向上にあります。

 

そのための方法は、有酸素運動や筋力トレーニング、およびそれらの複合的なトレーニングの実施が推奨されています。

 

ただし、運動療法による認知症予防の有効性は部分的に確認されている段階であることは、念頭に置かなければなりません。

 

このような現状においては、認知症予防のためには有酸素運動のみ、筋力トレーニングのみより、複合的なトレーニングが望ましいとして考案されたエクササイズの一つが水氣道®です。

 

 

現状の水氣道®の継続参加会員は全員高齢者も含めて認知的には健常者です。

 

健常高齢者を対象とした運動介入による認知機能に対する効果を検討した系統的総説²では、運動実施により認知機能の向上は可能であるという見解が得られています。

 

2)Smith PJ, Blumenthal JA, Hoffman BM, et al: Aerobic exercise and neurocognitive performance : a meta-analytic review of randomized controlled trials. Psychosom Med 2010; 72:239-252.

 

 

ただし、認知症予防の中心的な対象者である軽度認知障害(MCI)を有する高齢者を対象とした系統的総説によると、実行機能、認知処理速度、記憶について有意な効果が認められず、言語流暢性のみ効果が認められたのみでした。

 

しかし、運動のみではなく、認知課題を同時に実施するコグニサイズ(認知運動訓練と訳すべきか?)というで、軽度認知障害(MCI)の高齢者を対象としたランダム化比較試験(RCT:評価の偏りを避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法)³で、処理能力、言語能力の向上を認めたほか、健忘型では、全般的な認知機能低下抑制、記憶力向上、脳萎縮進行抑制効果が認められました。

 

3)Suzuki T, Shimada H, Makizoko H, et al: A randomized controlled trial of multicomponent exercise in older adults with mild cognitive impairment. PLoS One 2013 ; 8 : e61483

 

 

この論文の著者らは、認知症予防のための運動療法には、認知課題を含めた複合的な要素を取り込む必要性を示唆しています。

 

水氣道®は、有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動機能の向上と同時に、水中運動という環境を活用して感覚機能を向上させ、同時に認知機能訓練の要素も取り込んでいますが、こうした先行研究のエビデンスにも合致することを確認することができます。

 

 

さらには、健常高齢者群と軽度認知障害(MCI)をもつ高齢者群のそれぞれを対照群と介入群に無作為に割り付けて、介入群に対して、運動とともに、食事指導、認知トレーニング、血管リスクのモニタリングといった複合的な介入⁴を2年間実施して比較した研究があります。

 

その結果、神経心理学的検査バッテリーの総合点の変化に有意差が認められ、多面的介入の効果が示されました。

 

4)Ngandu T, Lehtisalo J, Solomon A, et al: A 2year multidomain intervention of diet, exercise, cognitive training, and vascular risk monitoring versus control to prevent cognitive decline in at-risk elderly people (FINGER):a randomized controlled trial. Lancet 2015;385:2255-2263.

 

 

水氣道は運動療法であるとともに認知トレーニングであるほか、水氣道本部事務局を兼ねる高円寺南診療所では、頚動脈エコー検査など血管リスクのモニタリングを行い、複合的な介入をしていることの意味も理解していただけるものと考えます。

 

 

 

まとめ

 

運動療法による認知機能向上のメカニズムは、生物学的レベルや行動学的レベルにとどまらず、社会心理学的レベルも含めて統合的に作用していると考えられています。

 

これらのすべてのレベルでの作用効果を期待できるシステムとしての基盤として、水氣道は集団的エクササイズとしての体系を備えています。

 

そして認知症の予防効果を期待できる運動療法の条件は、早期の運動開始、運動の継続(運動習慣の形成)、有酸素運動と筋力トレーニングの複合運動プログラム、運動ばかりでなく認知課題を実施するコグニサイズ、多面的介入、介護者支援などが実証データとともに挙げられています。

 

水氣道は、これらの諸条件をすべて包含したエクササイズです。

 

このように水氣道は認知症予防のためのエクササイズとしては、現代の国際水準においても最先端をリードすることができる可能性に満ちています。

 

しかし、認知症に対する運動療法の実証研究は緒についたばかりです。

 

水氣道®でのデータ収集と解析により、水氣道の改良を継続しつつ、積極的に実践し、普及活動を推進していく必要があります。

 

皆様の積極的な参加による健康管理のための自助、参加者相互の互助、さらには地域社会をはじめ国際社会におけるさまざまな外部の協力支援組織との協働をはかっていくことが切望されます。