最新の臨床医学:5月1日<輸入感染症としての麻疹(はしか)>

はしかの流行が国民的脅威になっています。高円寺南診療所でも麻疹はしか)ワクチン接種の問い合わせがあり、麻疹(はしか)抗体検査麻疹ワクチン接種の対応を始めました。

 

小児科で麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を小学校入学時までに2回定期接種しておくことが望ましいのですが、接種しないまま成人期を迎えた方も少なくありません。

 

そのため、麻疹はしか)ワクチン接種は、主として小児科医の業務ですが、時代が変わり、内科医が積極的に対応しなくてはならないケースが増えてきました。

 

高円寺南診療所の受診者の背景として、海外出張の多いビジネスマンや、国際的に活躍しているアスリートやアーティストの他に、頻繁に外国旅行を楽しむシニア層が多く、それに加えて帰国子女や外国人留学生・労働者が多いため、必要にせまられて、ちょうど今年の4月に日本旅行医学会に入会【会員番号00003799】したところでした。

 

 

ここで紹介するのは、沖縄旅行歴のある10歳代患者が、麻疹と疑われる前に受診した医療機関での事例です。

 

名古屋市内の医療機関で、医療事務に従事する職員が麻疹を発症したとの報告がありました。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター第三室室長で小児科医の多屋馨子先生は、今一度、職員だけでなく出入りの業者やボランティアの人も含めて、麻疹ワクチン接種歴の記録を確認すべきと指摘しています。

 

高円寺南診療所でもさっそく記録書作成の準備に取り掛かります。

 

また「ゴールデンウイークを機に、輸入麻疹の流行リスクが高まることを考えるとなおさら」と強調しています。

 

「医療機関で麻疹が拡散するのは何としても防ぎたい」と繰り返し訴えてきた

 

 

多屋先生の講演の要旨

 

(国立感染症研究所のHPより)を添付します。

 

なお、重要なポイントには下線を施しました

 

2007~2008年のはしかの全国流行のことを覚えている方は多いと思います。

 

多くの大学がはしかで休校になり、社会的な問題にもなりました。

 

当時日本は、海外の国から、はしか輸出国と非難されていました。 その後対策は進んで国内の患者数は激減していますが、今年は海外の多くの国ではしかが流行しています。

 

そのため、海外で感染して帰国してから発病した人がたくさんいます

 

はしかは肺炎や脳炎を併発して、命に関わる重症の感染症です

 

発病すると効果的な治療法がありません。そのため、罹る前に予防することが最も大切です

 

はしかから身を守るには、麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)を1歳以上で2回接種します。

 

2回接種しておけば、99%以上の方が免疫を獲得します

 

どのくらいの人がワクチンを受けているのでしょう?是非自分の予防接種歴を確認してみましょう。

 

 

より詳しい説明(重複する部分もあります)

 

麻疹は麻疹ウイルス(ParamyxovirusMorbillivirus属)によって引き起こされる感染症であり、空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を示し、その感染力は極めて強いです。

 

麻疹に対して免疫を持たない者が感染した場合、典型的な臨床経過としては10~12日間の潜伏期を経て発症し、カタル期(2~4日間)、発疹期(3~5日間)、回復期へと至ります。

 

ヒトの体内に入った麻疹ウイルスは、免疫を担う全身のリンパ組織を中心に増殖し、一過性に強い免疫機能抑制状態を生じるため、麻疹ウイルスそのものによるものだけでなく、合併した別の細菌やウイルス等による感染症が重症化する可能性もあります。

 

麻疹肺炎は比較的多い合併症で麻疹脳炎とともに二大死亡原因といわれています。

 

さらに罹患後平均7年の期間を経て発症する亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis: SSPE)などの重篤な合併症もあります。

 

先進国であっても麻疹患者約1,000人に1人の割合で死亡する可能性があります。

 

わが国においても2000年前後の流行では年間約20~30人が死亡していました。

 

世界での2015年の5歳以下の小児の死亡数推計によれば、麻疹による死亡は全体の1.2%を占めています。

 

唯一の有効な予防法はワクチンの接種によって麻疹に対する免疫を獲得することであり、2回のワクチン接種により、麻疹の発症のリスクを最小限に抑えることが期待できます。

 

高円寺南診療所での麻疹対応(とくに予防接種について)

 

原則として、麻疹の予防接種は弱毒生ワクチン(乾燥弱毒生麻しんワクチン)を使用します。

目的は麻疹の予防であり、治療用薬剤ではありません。

使用上の注意点として、禁忌事項があります。

発熱、重篤な急性疾患、本剤成分によるアナフィラキシー既往歴、免疫機能異常、妊婦

とくにステロイド・免疫抑制剤使用時には併用禁忌です。麻疹用症状のおそれがあるためです。

ただし、麻疹弱毒生ワクチンは製造量が限られているため、乾燥弱毒麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)を選択せざるを得ないケースもあります。

最も良い適応は、麻疹ウイルスの抗体価および風疹ウイルスの抗体価がともに低い場合ですが、麻疹ウイルスの抗体価のみが低い場合は、乾燥弱毒生麻しんワクチンが第一選択であり、そのワクチンが入手困難の場合は、MRワクチンを用います。

 そこで、ワクチン接種に先だち、麻疹および風疹ウイルス等のウイルス抗体価検査を行うようにしています。