医学の専門領域には、実際上明確な壁はありません。
専門領域を区分するのは研究者の都合上のことであって、患者さんのためには必ずしもなっていないようです。
私は、まず
①症状の現れる場所に、かならずしも病気の原因が同時に存在するとは考えてはいません。
②体に症状が現れたからといって、かならずしも身体疾患であるとは考えていません。
③心の相談を受けていても、背景に体の病気が潜んでいる可能性を常に意識しています。
④病気の原因は必ずしも一つであるとは限りません。
⑤患者さんの訴えの原因となる病気は必ずしも一つだけではないと考えています。
つまり、患者さんが気付いていない合併症の可能性にも注意を払っています。
以上の様な視点が無いと、的確に診断できない病気がたくさんあります。
それが、アレルギー科、リウマチ科が関与する病気です。
内科医であっても、目や鼻、皮膚、関節、筋肉を見なければ膠原病(≒全身性自己免疫疾患)の診療は不可能だからです。
患者さんから未だに、「先生は眼科も耳鼻科も皮膚科も整形外科も精神科も、いっぺんに見るのですか」と驚かれることがあります。
それはまだ良い方であって、必要な診察であっても「それは、大学の専門医の先生に診ていただいているので結構です。」と言い放たれてしまうと、とても消耗します。
しかし、それにもかかわらず数か月後、その大学の先生から逆紹介されることなど、けっして珍しくはありません。
多発性筋炎(PM)および皮膚筋炎(DM)は骨格筋を障害する原因不明の炎症性疾患です。
原因不明とされてはいますが、高頻度に特異的自己抗体を認めることから、全身性自己免疫疾患とされます。
筋症状以外にも多彩な全身の臓器病変を合併することが多い疾患です。わが国における患者数は約2万人と推定されています。
筋症状:
躯幹近位筋に有意の筋力低下が特徴で、咽頭筋・喉頭筋が障害されると嚥下障害を来たし、嚥下性肺炎の原因となります。
全身臓器病変:
間質性肺炎(IP)はPM/DMの約半数に認められ、予後を左右する重要な合併症の一つです。また悪性腫瘍の合併が5~10%に認められます。
PM/DMの診断・治療ガイドラインに関しては、厚生労働省自己免疫疾患研究班の筋炎分科会により、膠原病内科、皮膚科、神経内科の各分野の専門家が合同で検討を重ねています。
PM/DMの約3分の1は初回治療で寛解します。
しかし、残りは再燃と寛解を繰り返します。
とくに、悪性腫瘍合併例、抗SRP抗体陽性例、IBMは治療反応性が不良です。
また、筋委縮が強いと、血清CK値が高値でなくとも筋症状の回復は遅いとされます。
生命予後も病型によって異なります。
悪性腫瘍合併例、IP合併例、嚥下障害例は予後不良です。またDMはPMよりも予後が悪いとされます。
その理由の一つが合併するIPの治療反応性の違いによると考えられています。
筋炎全体の5年生存率は70%とされてきましたが、近年では予後の改善が認められています。
行き過ぎた細分化臓器別医療に歯止めが掛かるようになれば、もっと成績が良くなるのではないかと期待しています。