中欧研修レポート:第11日目

日本日時3月24日11:00pm

(現地Dresden 日時:3月24日3:00pm)

 

 

ベルリンを早めに出発することにして、ホテルを出たところでタクシーを呼びました。

 

ドイツでは運転手が左側なので、つい実車と見間違えてしまうことがありましたが、さすがになれました。

 

ベルリンのタクシーの運転手さんは、概ね英語が話せますが、うっかり、英語で話し始めてしまうと、Englisch nein, nur Deutsch (英語はダメ、ドイツ語だけ!) 少しでも英語が混じろうものなら、激しくかぶりを振って拒否する人や、日本人と見て、はじめから英語で話しかけて来る運転手さんなど、まちまちです。

 

ある程度、ドイツ語が解らないと一人旅はお勧めできません。

 

 

もっとも語学ができるかどうかより、地頭が良い人は、あの手この手の道具を駆使して用を足しているようですが、残念ながら私はそこまで器用ではないので、語学を磨くしかなさそうです。

 

ドイツ心身医学会が無事終了した翌日のこの日は、国籍を間違えられることの連続でした。

 

 

最初のエピソード

 

その日のタクシーの運転手さんに、行き先を伝えたら、いきなりAus Türkei?(トルコから来たの?)と尋ねられました。

 

トルコ人に対する偏見はありませんが、少し動揺して、Nein!Nein! Ich bin nicht Türke. Ich bin Japaner aus Tokyo.(いえ、いえ、トルコ人ではありません。東京から来た日本人です。)と答えました。

 

少し癪に障るので、Nun kennst du Tokyo? (ところであんた、東京を知ってるの?)と聞き返すと、Natürlich!(もちろんさ!)と答えました。

 

すると運転手席に備え付けの携帯電話のコールがあり、幼い女の子の声が聞こえてきて(パパ、ワタシ今朝ご飯なの、パパと一緒に食べたいの。)するとその運転手さんは、(パパはお前たちといつも話がしたいから、タクシーの運転手になったんだよ。いつでも話ができるということは、いつも一緒にいることなんだよ。)と答えていました。

 

この運転手さん自身がトルコ系の移民のようでした。

 

さっきの問いかけは悪気はなかったのだと思います。

 

私も二人の娘をもつ父親ですが、この運転手さんのような優しい言葉を自分の娘たちにかけた経験がなかったので、身につまされるような、切ない想いと罪悪感にかられました。

 

(自分は、ベルリン市内で移民の多い地区に住んでいる。環境は良くないけれど、家賃が安い。それでも自分は幸せだと感じている。何たって、自分には家族という宝があるから。家族に勝る宝はないからね。)

 

このような、彼の会話の中に、私たち日本の父親が忘れがちな大切なこと、家族の絆の大切さを教えてもらったような気がしました。

 

 

そういえば、ベルリンでは忙しいのでよくタクシーを利用しますが、トルコ系の運転手さんに当たることが多いような気がします。

 

そして、おいしいケバブの店の話をしてくれたりもします。

 

しかし、トルコ出身の方にトルコ人に見えた、と真顔で言われると、なおさら不思議な気がします。

 

そこで、<トルコ人も日本人も、アジア人でしたね。>と言って互いに納得したような、しないような・・・。ただし、ドイツでドイツ語を話すアジア人は、ドイツ国内で職を漁ろうとしている移民ではないか、という目で見られがちな気がします。

 

 

ドイツ人同士のドイツ語は、学会などでは機関銃のように早いです。

 

一般人であっても、ドイツ語で、こちらが少しでも動揺したり、言葉に詰まって返答がスムーズでなかったりすると、英語ができるドイツ人の場合、これまた早口の英語で話しかけてきたりします。

 

私は英語であれば、相手が早口であろうがなかろうが、動揺しません。

 

逆にわざと倍速で返答することもあるくらいです。

 

英語ができないドイツ人に限って、聞き取りにくいドイツ語を話す傾向があります。

 

英語が通じないドイツ人は、表情がこわばっていて愛想が悪い傾向なので、神経質な人、気が弱い人の単独旅行はトラブルの元になるので要注意です。

 

最近では、ドイツ語の訛も少しは判るようになってきました。

 

言葉は悪いですが、たいていは地方出身で低学歴のドイツ人です。

 

自信が無い人は国籍を問わず、外国人に対して余裕が無いので、相手に優しく親切に接することが難しくなりがちです。

 

 

私は、こうした人を相手にしなければならないときには、声を一オクターブ下げて、相手の目をにらみつけて、腹から少々ドスをきかせた声にして、わざとゆっくり、くっきり話して意思疎通を図ることにしています。

 

こちらが動揺すると、相手を余計にイラつかせかねないからです。むしろ、こうした発声法の方が自然にこなれているように聞こえることがあるようです。

 

やはり、いろいろな相手に優しく丁寧に接することができるようになるためには、基礎的教養と複数言語の知識と忍耐力とが必要になってくるように思われます。

 

私は、まだまだだと実感して反省を繰り返しつつ、工夫を重ねながら精進しているつもりです。

 

 

 

第二のエピソード

 

ベルリン中央駅でタクシーを降りるとすぐに、身なりの良い顔立ちも整った長身の男性が私に話しかけてきました。彼はホームレスだという。お金が欲しいという。

 

釈然としません。マフラーなども高級そうで、しっかりと身だしなみができていて、一片の汚れも、疲労感も、特有の臭気も伴っていない。むしろ、高級なアロマを漂わせている。こんな物乞いは初めてです。

 

そこで私は、<貴方はホームレスには見えないが、屋内で過ごすことが嫌になったのか、それとも元来、屋外で過ごすことが好きなのか>と尋ねたところ、<ホームレスなので>と答える有様。

 

 

先を急いでいたので、2ユーロ硬貨を手渡したら、<裕福で親切なアメリカの方ありがとう>、という言葉が返ってきた。

 

日本人以上にアメリカの旅行客は気前が良いのだろうか。

 

アメリカ人といえば合衆国というくらいで、人種のるつぼだから、私の様な日系アメリカ人で、しかもドイツ語を話すような人種がいても不思議ではありません。

 

重いトランクを引きずり、パソコンの入ったバッグを肩にかけ、タクシーで駅に駆け付けるのは、旅行客などではなく、ビジネスマンの姿にみえるのも不思議ではない、そんなことをあれこれ思いめぐらせながら駅構内に向かうエスカレーターに乗りました。

 

 

 

第三のエピソード

 

ベルリン中央駅を予定より2時間早く出て、はじめてのドレスデン中央駅に着くと、駅前にフィットネスクラブがあり、そこに室内プールがあることを発見しました。

 

ドレスデンでの水氣道紹介の会場にはもってこいの立地と環境でした。

 

ドレスデン中央駅から、エルベ河畔に向かって旧市街の石畳の上をトランクを引きずっていると、とてもきれいな、澄んだ声の合唱が聞こえてきました。しばらく立ち止まって聞き込んでいると、教会の布教活動に付随するキリスト教信者の声でした。

 

若者が中心で、子供たちも混じっていました。

 

幼い女の子が、道行く観光客などに福音書の抜粋や教会コンサートイベントなどが書かれていそうな小冊子を配布していました。

 

女の子は私を見るなり少し困惑気味でしたが、年長の隊員が私に小冊子を手渡してくれました、それは中国語版でした。

 

Nein Danke! Ich bin Japaner aus Tokyo, leider nicht Chinesisch! (折角ですが、私は東京から来た日本人で、あいにく中国人ではありません)と答えました。

 

私自身も旅先で、日中韓の区別がつかないことが多いので無理ならぬことだとはおもいますが、中国語はあっても日本語のパンフレットが準備されていないのは、少し寂しい気がしました。

 

 

ホテルに向かう途中で、市内観光バスを見つけました。

約2時間ほどをかけて市内の要所を巡り、乗り降り自由の一日チケットです。早目にチェックアウトしてきたので、チェックインまでの時間をどう過ごすかですが、丁度良いものを見つけました。

私はこれに乗って、市内を巡りました。旧市内から、ほどなくエルベ河の橋をわたって新市内の中を巡り、再びエルベ河の別の橋をわたって旧市街地に戻ってきたところの最初の停留所で降車しました。

そこからだとホテルがほど近いところにあります。

 

Hyperionというホテルは、私のドイツ語顧問のHansがお勧めのホテルです。

 

このドレスデンのホテルは、ドイツのこれまでのホテルの中で一番気に入りました。

受付の対応も良く、外観が現代的であるのに対して、回廊のような廊下は伝統的なお屋敷脳ようでもあり、また地下にはスパがあり、そこは宮殿の地下室をおもわせるつくりでした。ドイツの建築物の多くは、外観を伝統的なデザインにして、内部を現代的にしているのですが、それとは真逆の趣向であることに興味を覚えました。

もっとも、インターネット接続は問題なく、すぐに、こんかいの学会出席での成果の結果報告書の作成をはじめることができました。

 

 

三位一体大聖堂、ゼンパーオーパー(ザクセン国立歌劇場)、ジデンツ宮殿などのエルベ河沿いの歴史的風致地区の中にあるホテルにいるにもかかわらず、そうした世界に身を委ねているだけで、たとえようもない安らぎを感じました。

 

この3日間の学会活動は、心身共に多大なエネルギーを消費したはずなのですが、満足感、充実感に満たされているためか、実感できませんでした。

 

学会出席後のまとめの作業に没頭していると、隣接の古い大聖堂の鐘が鳴り渡り、そろそろ一息入れなさい、と赦しと恵みの響きが私の魂に響いてきました。

 

 

そういえば、このホテルの地下にはスパがあるので、さっそく地下のスパに降りていきました。

 

スパとはいっても、プールがあるわけではないので、残念ながら水氣道はできません。

 

簡単なエクササイズマシーン、サウナなどがあり、最も心惹かれたのは、休憩室です。

 

全体が薄暗く、相手の顔は良く見えません。せいぜい体型や性別ぐらいしかわかりません。

しかも、特に大柄でよく肥えた女性は、男性と区別がつかないくらいです。

 

ヒーリングミュージックが静かにゆっくりとしたテンポで流れ、休息用ベッドは絶妙な構造をしていて、丁度私の体型(身長170㎝+α)にうまく合っていたように感じました。

 

休息用ベッド間の感覚も十分あって、間に水分補給用のコップを置け台が一つあり、隣を気にしないで休めるのは良いことです。

 

 

 

第四のエピソード

 

私は一番奥で、中世の城壁の中の監獄のような荒々しい壁肌に囲まれ、室内はハーブの芳香に包まれていました。今回の、中欧研修は、毎日がハードスケジュールだったためか、ここでは、至福の贅沢な時間をゆっくりと過ごすことができました。

 

サウナから戻ってきたカップルのうちの若い男性が、小声でDer Mann ist schon da!Kommen hier später wieder.(あの男、まだあそこにいるよ。後でまた来ようよ。)と囁いているのが聴こえてきました。

 

彼らとの間は5メートルは離れていて、私の右側には、一つおきで他の宿泊客が休息していました。

 

そのあと、女性がその男性に向かって、(何言っているのよ。せっかくサウナで温まって、体もほぐれてこれからだというのに、あなたも愚図ね、意気地なし)などと言っていました。

 

男性が(普段から緩んでいるんだから、十分だよ)などと囁いています。

 

しかし、私も急にぐったり疲れが襲ってきていたので、そのまま聞き流していました。

 

すると、彼氏とのやりとりでいささかヒステリックになったその女性が、スタスタと歩み寄ってきて、私の足元に立ちはだかりました。180㎝はあろうかという体格の影が襲ってくるとちょっぴりホラーです。

 

そこでドスの効いたアルトの声で、(気の利かない野暮な男ね。いつもアンタ、そうして私たちの邪魔をするんだから。少しは気を使いなさいよ・・・)当然、すべてドイツ語で、ささやき声よりは少し大き目の声でしたが、聞き流して反応しませんでした。

 

すると、諦めたのか、人違いに気づいたのかは判りませんが、あきらめたように男と一緒に出ていきました。

 

誤解も甚だしいですが、当然ながら私には非はないはずです。そこで私は、せっかくなので、30分ほど改めてリラックスを楽しんだ後、自室に戻りました。

 

自室に戻って、不愉快な気分が湧き上がってくるかとの懸念がありましたが、もしドイツ語が解らなかったら、相当なショックだったに違いありません。

 

何が起こったかわからないことによるショックはしばしがトラウマとなります。相当気分を害されて、それを長く引きずってしまっても不思議はありません。

 

自室のベッドを眺めながら、しみじみと振り返ってみました。私には十分すぎるくらいの大きさですが、彼女にとって、客室のダブルベットは小さすぎるのが良くわかります。

 

先ほどの顛末を思い返していると、件の大柄な女性がいじらしく感じられてくるのですから、不思議なものです。

 

体格が特別良い女性は、それなりに性生活でも苦労するのでしょう。

 

それにしても、彼らの恋路を邪魔する男とは、やはり地元のドイツ人なのでしょうか?馬に蹴られて死んでしまうのが私でなくて良かったです。クワバラクワバラ。

 

今頃、あの二人は、機嫌を取り戻していれば宜しいのですが・・・水分補給をし、学会関連のまとめの作業をしたあと、観光はせずに休むことにしました。

 

 

そのとき、近くの三位一体大聖堂の方から鐘が鳴りはじめました。

 

「そうしなさい。今日は休みなさい。そして次はゆっくりいらっしゃい。」

 

との慰めの声のように感じました。神の声に従うことにしました。

 

 

<本日のまとめ>

 

第一のエピソード:トルコ系移民ではないかとみられる(トルコ系タクシー運転手)

 

第二のエピソード:アメリカのエグゼプティブ・ビジネスマンとみられる

(ドイツ人?ホームレス)

 

第三のエピソード:中国人旅行客だと思われる(ドレスデンのドイツ人クリスチャン)

 

第四のエピソード:地元のドイツ人?だと思い込まれる。(地元ドイツ人女性?)

 

 

たった24時間のうちに、いろいろ不思議な経験をしました。

 

私はこれからも懲りずにチャレンジします。

 

毎年3月の研修旅行は、私自身の人格、判断、行動、反省などの総合的な訓練になっていることを実感します。来年に、国際クリニックを立ち上げる上で、慣れている英語圏以外の言語圏で単独行動をすることは、貴重な情報収集の機会になっています。

 

ただし、一般的な日本女性の一人旅は決してお勧めできません!なるべく団体か、せめて二人以上で行動するのが安全だと思います。