実践!臨床栄養学

高円寺南診療所院長のDr.飯嶋は昭和学院短期大学ヘルスケア栄養学科の臨床栄養学概論の初代担当教員として、非常勤講師→客員教授として2001年(平成13年)4月から2016(平成28年)3月まで15年間、毎週金曜日午前中の授業を担当していました。

 

 

この間に、「臨床栄養学」の教科書を2冊「解剖・生理・病理学」の教科書を1冊出版し、栄養士となった卒業生の管理栄養士国家試験合格を支援してきました。

 

 

その間、高円寺南診療所では、一貫して、管理栄養士による<外来栄養食事指導>を行ってきましたが、現在、管理栄養士は空席です。

 

 

高円寺南診療所は、建築物の老朽化および周辺環境悪化のため2019年末までに、移転・拡張による設備・環境改善をはかり、

 

杉並国際クリニック(Suginami International Clinic)<仮称>として、再スタートする予定です。その際には、充実した栄養指導室を整備し、担当者として有能な管理栄養士を招聘する計画です。

 

 

高円寺南診療所では、受診者全員を対象として毎回、血圧測定を励行しております。とりわけ肥満者、高血圧者を対象として自宅血圧自己測定を積極的に推進しております。

 

 

以下の最新の研究から、本年4月より、肥満者、高血圧者を対象として尿中ナトリウム/カリウム比(Na/K比)を定期的に測定し、より適切な健康管理に役立てることを計画しております。

 

予定では、24時間畜尿法ではなく、外来受診時の随時尿(スポット尿)3~4ml程度で尿中クレアチニンとともに検査しますので簡便です。

 

 

食塩による昇圧は他の栄養素で相殺されず

 

栄養と血圧に関する国際共同研究INTERMAP

 

米・Northwestern UniversityのJeremiah Stamler氏らは、1996~99年に4カ国17集団の成人4,680例を対象に実施された栄養と血圧に関する国際共同研究INTERMAPのデータを解析しました。

 

その結果、食事によるナトリウム(Na)摂取が血圧に及ぼす悪影響は、血圧にとって好ましい他の栄養素を摂取しても相殺されない可能性があると発表しました。<Hypertension2018; 71: 631-637)>

 

 

24時間蓄尿に加え80種類の栄養素摂取を調査

 

INTERMAP研究では日本(4集団)、中国(3集団)、英国(2集団)、米国(8集団)の4カ国17集団において、40~59歳の男女4,680例をランダムに抽出しました。

 

24時間蓄尿によるNaおよびカリウム(K)排泄量測定、血圧測定に加え、80種類の栄養素(蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラル、アミノ酸など)の摂取状況を調査しました。

 

年齢、性、集団を調整した多変量解析の結果、24時間尿中Na排泄量の最高四分位群は最低四分位群に比べて収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)が一貫して高値でした。

 

この結果は13種類の主要栄養素、12種類のビタミン、7種類のミネラル、18種類のアミノ酸と栄養素以外の交絡因子を調整後も同様でした。

 

また、24時間尿中Na排泄量の最低四分位群ではK摂取量の増加に伴いNaと血圧の関連が弱まったが、24時間尿中Na排泄量の高値群ではK摂取量による差が小さいものでした。

 

 

Na排泄量134.0mEq増加でSBP/DBP3.5/1.7mmHg上昇

 

栄養素以外の交絡因子、アルコール摂取、24時間尿中K排泄量を調整した多重線形回帰分析では、24時間尿中Na排泄量の2標準偏差〔SD:134.0mEq(3.1g)〕増加によりSBP/DBPが3.5/1.7mmHg上昇しました(P<0.001)。

 

この傾向はNaと血圧の有意な関連は80種類の栄養素を個別に調整したモデルでも維持され、Naと血圧の関連が他の主要栄養素または微量栄養素の任意の組み合わせによって大きく変化しないことが示唆されました。

 

また、栄養素以外の交絡因子を調整した線形回帰モデルで血圧とNa/K比の関連を分析した結果、24時間尿中Na/K比の2SD(3.3)上昇によりSBP/DBPが3.5/1.7mmHg上昇し(P<0.0001)、このNa/K比と血圧の有意な関連は80種類の栄養素を個別に調整したモデルでも維持されました。

 

BMIを調整した分析ではNaと血圧の関連が統計学的に有意ではなくなりました。しかし、Na/K比と血圧の関連はBMIを調整後も変化しませんでした。

 

正常体重(BMI 25未満、1,666例)、過体重(肥満度Ⅰ:BMI 25以上30未満、1,861例)、肥満(肥満度Ⅱ以上:BMI 30以上、1,073例)の3群に分類した分析では、Na摂取量の2SD増加によりSBPが正常体重群で1.7mmHg上昇(P=0.08)、肥満群で2.1mmHg上昇(P=0.04)と有意な関連が認められました。しかし、過体重群ではSBP上昇幅が0.5mmHgと小さかった(P=0.54)。

 

 

食品業界による加工食品の減塩努力が不可欠

 

このようなNa摂取およびNa/K比と血圧との直接的な関連は性、年齢、人種、社会経済的地位を問わず認められました。

 

Stamler氏らは「横断研究であるため因果関係を評価することはできない」と研究の限界を指摘した上で、「Na摂取およびNa/K比が血圧に及ぼす悪影響は確認されました。その他の主要栄養素および微量栄養素(血圧に影響するものを含む)はこの悪影響を相殺する効果が非常に小さいことが示された」と結論づけました。

 

「米国をはじめ多くの国におけるNa摂取源の大部分は市販の加工食品なので、高血圧の予防と管理のためには食品業界が商品の大幅な減塩に取り組むことが不可欠である」と付言しています。

 

 

International Study on Macro/Micronutrients and Blood Pressure