一般に、狭心症の心臓発作発現のメカニズムは、心筋が必要とする酸素量と供給のバランスの破綻が原因になります。
冠攣縮性狭心症は安静時狭心症と呼ばれることもあります。
このタイプの狭心症は、冠動脈スパズム(攣縮)による血流量の低下が主たる要因です。
つまり、冠動脈が攣縮により閉塞するとその灌流領域に虚血を生じ、これによって狭心症をきたすということです。
異形狭心症とも呼ばれますが、我が国にはこのタイプの狭心症が多いです。
日本循環器学会からの冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドラインによれば、参考項目として、自然発作の特徴は、硝酸薬により速やかに消失する狭心症様発作であるとされます。
そして、以下の4項目が記載されています。
1)特に夜間から早朝にかけて、安静時に出現する
2)運動耐容能に著明な日内変動が認められる(特に早朝の運動能低下)
3)過換気(呼吸)により誘発される
4)カルシウム拮抗薬により発作が抑制されるが、β遮断薬では抑制されない
さらに、冠攣縮性狭心症確定診断の基準としては、
1)発作時の心電図で明らかな虚血性変化が認められた場合
2)その心電図変化が境界域の場合は、病歴、発作時の症状に加え、明らかな心筋虚血所見もしくはアセチルコリンあるいはエルゴノビンを用いた冠攣縮薬物誘発試験で、狭心痛および虚血性心電図変化を伴う冠動脈の一過性の完全または不完全閉塞(>90%狭窄)が誘発される場合
3)発作時の心電図変化が陰性もしくは心電図検査非施行の場合でも参考項目を1つ以上満たし、明らかな心筋虚血所見もすくは冠攣縮所見が諸検査により認められる場合であると明記されています。
冠攣縮性狭心症の治療の目的は、胸痛発作の抑制だけでは不十分であり、急性心筋梗塞の発症を阻止し、また治療に対する患者のアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)を長期間に保てるものでなくてはなりません。
発作時は労作性狭心症と同様に対処します。
危険因子の治療も大切であり、禁煙、脂質異常症、糖尿、肥満、高血圧のコントロールは不可欠です。
また攣縮性狭心症に対する薬物治療として最も重要な第一選択薬はカルシウム拮抗薬です。
ただし、複数のカルシウム拮抗薬のなかで、どのような種類のカルシウム拮抗薬が最も有効であるのか、いつまで内服を続行するかについては、客観的なエビデンスもなく、そのためガイドラインにも述べられていないので、患者さんに説明して担当医の臨床経験に基づいて選択することになります。
なお非発作時はカルシウム拮抗薬硝酸薬と硝酸イソソルビド(ISDN)とが中心となります。
カルシウム拮抗薬は、強い血管拡張作用をもっています。
冠攣縮性狭心症では、狭心発作時間に注意し、その発作時間帯に有効な血中濃度が得られるように投与時間に注意します。
もし症状が消失しなければ、やはり冠血管拡張作用のあるニコランジルを併用することが有用であることはガイドラインで述べられています。
ニコランジルは硝酸薬とアデノシン三リン酸(ATP)感受性Kチャンネル開口薬の性質を持ちます。
また冠動脈拡張作用と虚血心筋保護作用が示されています。
さらに再灌流障害防止薬として推奨されています。
その際、硝酸薬〔ニトログリセリン〕との併用は注意します。
冠攣縮性狭心症リスクスコアの高値例は、特に厳重な薬剤の服薬管理が必要です。
なお、冠攣縮性狭心症(異形狭心症、安静時狭心症)は、安定狭心症の一つです。
安定狭心症というのは、経過が安定し、発作はあまり出現しないか、または出現しても一定の条件で出現し、予測がある程度可能です。
このような場合は、予後が比較的良好で、発作のコントロールのための薬剤も1~2製剤で可能な例が多いです。
以下に、慢性化した安定狭心症の治療の要点を示しますが、冠攣縮性狭心症には重要な例外があるので、指摘しておきます。
慢性安定狭心症治療の要点(ABCDE)
A:アスピリンと抗狭心症療法(Aspirin and Antianginal therapy)
B:β遮断薬と血圧(β-blocker and Blood pressure)
C:喫煙とコレステロール(Cigarette smoking and Cholesterol)
D:食事と糖尿病(Diet and Diabetes)
E:教育と運動(Education and Exercise)
ただし、冠攣縮性狭心症に関しては、アスピリン投与の有用性についてのエビデンスはなく、またβ遮断薬は、冠攣縮が誘発されることがあるため原則として用いません。
冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)
(日本循環器病学会ほか)
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