最新の臨床医学:神経病学<多発性硬化症(MS)>

しびれ感をはじめ感覚の異常があり、筋力が低下し、腕や脚が痙攣して動かしにくい、視力が低下したかと思ったら1~2週間で回復するなど、いろいろな症状が現れるため、眼科や整形外科を何件も受診したが原因不明といわれ、ようやく高円寺南診療所に辿り着いた新潟県出身の30歳位の女性が来院されました。

 

 

こうした患者さんを診断する上では、まず脳神経系の病気を考えます。

 

そして、患者さんに現れている神経症状が中枢性のものか末梢性のものかを見極めることで手がかりがつかめます。

 

この病気は中枢神経の髄鞘のみが侵され、通常、末梢神経は障害されません。

 

そのためには、MRI検査が最も重要なので、紹介先にその旨をお願いして多発性硬化症かどうかを検査で確認していただいたところ、予測通り多発性硬化症でした。

 

 

この病気は欧米では多いですが、日本では比較的少ないとされていましたが、最近の全国疫学調査によると約30年間で約4倍と増加傾向にあり、生活習慣変化などの環境要因が背景にあると考えられています。

 

治療戦略は、①急性増悪期の治療、②再発予防・進行防止、③後遺症への対症療法の3つに分けて検討します。

 

多発性硬化症の再発予防および身体的障害の進行抑制にはスフィンゴシン1⁻リン酸受容体1(S1P₁受容体)機能的アンタゴニストであるフィンゴリモド(イムセラ®、ジレニア®)、ヒト化抗ヒトα4インテグリンモノクローナル抗体であるタナリズマブ(タイサブリ®)、ミエリン塩基性蛋白質で見いだされる4つのアミノ酸から構成されるランダムポリマーであるグラチラマー(コパキソン®)があります。

 

 

多発性硬化症の治療薬の選択には専門的で高度な判断力を要します。

 

もとより硬化症の再発予防、進行抑制にはインターフェロン(IFN)β-1b(ベタフェロン®)、IFNβ⁻1a (アボネックス®)があります。

 

これらのIFN製剤は国内での使用経験も蓄積されており、比較的安全に使用可能なので第一選択薬として最初に投与されます。

 

ただし、初回投与の時点で病勢が強い場合は、フマル酸ジメチル(テクフィデラ®)を選択するのが望ましく、また第二選択薬のフィンゴリモド(ジレニア®、イムセラ®)も選択肢になります。

 

 

また、高円寺南診療所では、若い女性や妊娠可能性の高い女性が比較的多いため、妊娠中も継続可能という点でグラチラマー(コパキソ®)が推奨されていることをお伝えするようにしようと心がけております。

 

 

参照:

2017年に多発性硬化症に対する6番目の再発予防薬フマル酸ジメチル(テクフィデラ®)が承認されました。

 

比較的有効性が高く、副作用が少ないので第一選択経口薬として期待されています。