総合医療・プライマリケア

 

<実録プライマリケア:KH君と歩んだ23年>

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KH君の報告によると、彼とのお付き合いが23年にも及ぶことに、改めて驚きを感じています。

 

プライマリケアの要素の一つが継続性であることを感慨深く噛み締めています。

 

高円寺南診療所の開設者・管理者となったのが28年前の平成元年(1989年)7月、水氣道の発足が平成11年(2000年)ですから、その間の大部分の期間を、彼は高円寺南診療所や水氣道と共に歩んできたことになります。

 

 

重症のアトピー性皮膚炎、慢性アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、コミュニケーション障害、学習障害、不登校、引きこもりなど、KH君はこうした多くの困難を一つ一つ乗り越えてくることができました。

 

その間に、彼はホームヘルパー1級の資格を取得したり、交通機関に就職したりするなど、弛まず学習し、社会経験を重ねてきました。

 

少しずつですが次第に身体的・心理的・そして社会的な健康を獲得してきました。

 

 

文字を書くことは得手ではないようですが、苦にすることもなく、率直な自分の考えや気持ちを紙上にも記すことができるようになりました。

 

自身の欠如や苦手意識はまだ払拭されていません。しかし、たとえ苦手な課題であっても、必要とあれば、逃げることなく、避けることなく、誤魔化すことなく、真正面からその課題に取り組んでいく姿勢はしっかり身につけることができました。

 

意味のあることであれば、たとえ辛いことであっても、いずれ快感に転じることがあるということを繰り返し体験してきました。ですから、今後の彼の更なる成長や発展が期待されるところです。

 

 

またケアを受けたり、支えられたり、といった受け身の生き方が、自分のできる範囲で他者のお世話をするまでになりました。

 

KH君は、むしろ、人のお世話をできること、奉仕できることを誇りに感じています。

 

いざとなったら覚悟を決めて、恐れずに勇気をもち、たとえ半歩でも前進してみよう、たとえ結果がすぐに出せなくても、焦らずに、あわてずに、落ち着いて、何度でも繰り返してトライし続けようというチャレンジ精神が旺盛になってきました。

 

それが更なる自信となり、さらに、他者に対する信頼に繋がり、人生に希望をもつことで、大きな目標が定まりました。

 

 

また彼は、通院と水氣道によって、身体の呼吸法にとどまらず、魂の呼吸法をも身に着けつつあります。

 

それは、祈りと感謝です。祈りとは魂の呼気です。そして感謝とは魂の吸気です。

 

正しい呼吸法は、しっかりと息を吐くことによって、その反作用によって吐いた分だけの空気を自然に受け入れることです。

 

つまり希望をもって懸命に求めつつ、焦らずに待つことかげきれば、真に必要なものはおのずから与えられる、ということです。

 

 

彼は、自分自身が祈りの人であることには気づいていないかもしれませんが、心から感謝することができる人は、自分のために祈り続けている何者かの存在に気づいている人だといえるのではないでしょうか。

 

 

まさに継続は力なり、です。良い習慣を持てるということは第二の天性であると思います。

 

プライマリケアの意義や本質は、現場を知らない立派な学者が記した書物の理論からではなく、KH君たちと分かち合ってきた実践の歴史から学ぶことができたと言うことができると思います。

メタボリックシンドローム、番外編

 

<ウェスト:ヒップ比>

 

ウェスト(腹囲周囲径)÷ヒップの値です。

 

何の指針になるかと調べてみると…

 

肥満のタイプには内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の2種類に判別できます。内臓脂肪は比較的落としやすく、皮下脂肪は落としにくいです。

 

従って自分がどちらの肥満のタイプかを知ることが効果的なダイエットを行う上で重要です。ウエスト・ヒップ比は、内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満の判定を行うための指標です。

 

ウエスト・ヒップ比は、内蔵脂肪型肥満はお腹まわりに脂肪が蓄積し、皮下脂肪型肥満はお尻、太ももを中心とする下半身に脂肪が蓄積することから、ウエストサイズをヒップサイズで割った値で、内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満を判定します。

 

とありました。

 

厚生労働省で、メタボと絡めてどのように扱っているかも見てみると。

 

肥満者の体型を表す「洋なし型肥満」と「リンゴ型肥満」のどちらのタイプの肥満かの目安。

 

ウェスト・ヒップ比の値が大きいと、上半身(腹部)に脂肪が蓄積しているリンゴ型肥満(腹部肥満)であり、種々の合併症をきたしやすい肥満体型と言えます。欧米では、男性は1.0以上、女性は0.9以上が目安とされています。

 

肥満者に限っては国際的な肥満判定指標であるBMIよりも肥満体型を表すためのある程度有効な指標であると思われますが、皮下脂肪の少ない非肥満者ではウェストヒップ比が相対比であるため体型を表す指標としては適切でないことからあまり使われておらず、ウエスト周囲径の実測値が用いられています。

 

 

つまり欧米で、リンゴ型肥満の目安には使われている。

 

ただし日本では、ウェスト周囲経を実際に計測した値を使う。

 

ということですね。

 

※洋梨型は皮下脂肪、リンゴ型は内臓脂肪が多いのです。

 

 

高円寺南診療所では、ウェスト周囲径の実測値とウェスト・ヒップ比を計測しています。

統合医学(東西医学、代替・補完医療)

 

<心身医学から統合医学へ:聖楽院での実体験例>

 

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水氣道と聖楽院とは、高円寺南診療所が生んだ独創的な心身医学療法です。

その独創性とは、

①参加者が治療であることを殊更に意識せず楽しむことができること、

②集団での力動を独自の手法によって引き出していること、

③教え込むのではなく、自ら感じ取る、気づきを促す方針であること、

などに顕著に顕れていると自負するところです。

 

 

さて、M.Uさんは、水氣道の会員でもありますが、聖楽院の活動にも参加を始めて数か月で、第1回の聖楽院内部コンサートに出演し、4曲の課題曲を見事に歌いきりました。

 

人前に立つだけで極度に緊張してしまうM.Uさんは、短期間のうちに人前で堂々と歌えるようになっているとは、にわかには信じられなかったようです。

 

一時は、直前に参加を取り消してしまおうかと随分悩んだようですが、M.Uさんにはささやかな自信と勇気が育まれていたようです。

 

ただし、本番を前にして極度の持続的な不安や緊張によって、その変化に気づけないでいたようです。

 

 

果たして、M.Uさんの躊躇は、結果的に無駄にはなりませんでした。

 

彼女が参加できた意味はとても大きく、他の9名の参加者の励みにもなりました。

 

何よりも<参加できて良かったです>という彼女の素直な感想がすべてを物語っています。

 

 

仲間の存在によって、彼女は価値ある気付きを得ることができました。それは、聖楽院が何を目標にしているかということの本質にも通じる内容でした。

 

それは、紛れもなく<皆さんと時間を共有して、空間をつくりあげる事>です。

 

 

彼女は、今、ここで、を意識するにとどまっていません。

 

そこからさらに、仲間と何を共有して、何を創りあげるのか、という予め提示されていない、見えない課題を洞察して、本当に大切な価値あることに自ら気づいて認識できたこと、は、とても意義深い体験です。

 

 

このような体験を通して開眼することができると、

<大きな声が出るか、音を外さないかなどが問題ではなく>と思えるようになります。

 

すると、どうでしょう。ご本人にとっては、緊張のためか、本来の実力を発揮できなかったように感じているとのことを伺いましたが、実際には、彼女は、いつもより明瞭な声で、音程ばかりかリズムも外すことなく、のびのびと明るく歌うことができたのです。

 

 

内部発表会とはいっても、レッスン生10名の他に、お客様が10名、指導者4名(ソプラノ歌手、テノール歌手、フルート奏者、クラリネット奏者、各1名)が臨席する中での演奏会でしたので、それなりの不安や緊張があっても当然なのですが、M.Uさんにうかがってみると、予測していたほどの緊張には襲われずに済み、それよりも充実感で満たされたという感想を貰いました。

 

 

4名の指導者の演奏会を楽しみ、感動した後に、その4名からの講評を受け取ったM.Uさんは、新たな課題を胸にして、益々輝いているように見えます。

 

 

聖楽院の、この内部発表会を通して改めて感得できたことは、水氣道と聖楽院の繋がりの意義であり、また、これらの繋がりは心身医学を超えて統合医学へと発展していける兆しを感じさせるには十分な経験であったということです。

 

もう少しツボの世界を見ていきましょう。

 

 

今回は「中衝(ちゅうしょう)」です。

 

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場所は、手の中指の爪の根元の親指側付近になります。

 

 

「高血圧」「脳溢血」「狭心症」「てんかん」「熱中症」「麦粒腫」等に効果があります。

 

 

<参考文献>

 

このツボが効く 先人に学ぶ75名穴       谷田伸治 

 

 

経穴マップ イラストで学ぶ十四経穴・奇穴・耳穴・頭鍼      監修  森 和

                                      著者  王 暁明・金原正幸・中澤寛元 

 

 

高円寺南診療所 統合医療部 漢方鍼灸医学科 鍼灸師 坂本光昭

12月23日土曜日

 

東洋医学

<線維筋痛症の著効例:漢方専門医の立場から>

漢方と鍼灸は共に東洋医学の一分野を構成しており、中国医学の聖典である『素問』 では随所に、「内から薬物で、外から鍼灸で治す」と述べられています。湯液 (漢方) と鍼灸は昔から 「車の両輪」 ともたとえられています。ともに、人間本来の治癒力を引き出すことを主眼とし、病態を 「心身の歪み」として捉え、その歪みを是正していく方向で治療を行います。 自覚症状を尊重し、 愁訴をとることに重点を置いている点、個別医療が基本である点など、多くの共通点があります。そうした両者の共通点を活かした併用療法は、 各々単独で治療を行った時よりも愁訴の軽減やQOL(生活の質)の向上に寄与することが可能です。しかも 漢方と鍼灸は互いの治療効果を高め合うので、相乗効果が期待できます。

しかし、現代は、鍼灸師と薬剤師、医師の免許が分かれ、鍼灸師は鍼灸で、医師・薬剤師は漢方でという趨勢の時代です。日本の医師免許は、西洋医学も東洋医学もオールマイティな大型免許です。ですから、きちんとした医療を提供できるのであれば、一人の医師が西洋医学の治療の他に、漢方薬を処方したり、自ら鍼治療を施したりすることも可能なのですが、実践している医師はごく少数派です。高円寺南診療所でも鍼灸師不在の時代は、医師が自ら鍼灸治療を行っていた時代があります。現在では、鍼灸治療は専任の坂本光昭鍼灸師に全面的に委ねていますが、毎週土曜日の午前7時からは東洋医学カンファレンスを行い、

東洋医学における漢方・鍼灸統合医療を症例ごとに検討することを続け、より良い診療に向けて工夫を重ねています。

  線維筋痛症は、漢方・鍼灸併用療法が奏功する代表的な疾患です。S.Hさんも鍼灸治療はまだ2回のみですが、約3か月で著効を示しました。まずは、結果からご紹介します。

S.Hさんの諸症状の変化

顕著な変化は、2年半ぶりの月経再開です。S.Hさんは閉経であると思い込んでいたようですが、無月経が続く疑似閉経であったことが判明しました。その他、

慢性疼痛の強さ10⇒2、全身倦怠感10⇒4、冷えの程度10⇒4、

呼吸困難感の程度10⇒2、寒冷蕁麻疹の発生頻度10⇒4、

不眠の程度10⇒3、気分のイライラ10⇒2

いずれもまだ完全ではありませんが、やはり明らかな改善がみられ、S.Hさんの生活の質は改善されました。

なお線維筋痛症の重症度や治療による改善の程度を知るための尺度にJ-FIQスコアがあります。

S.Hさんの初診時の疾患活動性94.2点で高度つまり重症(高度≧70)でした。これが1ヶ月後には⇒69.5(中等度≧50)

さらに1ヶ月後には⇒31.3(軽度≦50)

また改善度を評価してみますと、

94.2-31.3=62.9点でこれは確実な改善を表します(著明改善>50)。

 

  このあたりで、今度は東洋医医学での診察所見の一端をお示しします。

以下は代表的な脈診(脈の診察所見)である脈証・舌診(舌の診察所見)である舌診の脈証と⇒それに基づく弁証(見立て)およびそれの<解説>を併記します。

脈証:沈・虚⇒裏虚・陽虚

<脈は沈んでいて無力⇒心身の内部のエネルギー不足と、それに伴う冷え>

舌証:舌体青紫舌・歯痕・舌下血絡、舌苔薄

⇒気虚(水飲内盛)・気滞(痰飲停滞)血瘀・気血壅滞(熱)

<舌は青紫色がかっていて、歯の当たる部分の舌に歯型が残り、舌の裏面の静脈が怒張していて、舌表面の苔は薄い⇒エネルギー不足、エネルギーや血液や体液の巡りが共に滞っている>

問診:慢性疼痛⇐血瘀と寒(冷え)、全身倦怠感⇐肝気虚、

冷え⇐陽虚、血瘀、水滞の併存、

呼吸困難感⇐陽虚肺寒、寒冷蕁麻疹⇐風寒証、不眠⇐陰陽両虚、

気分のイライラ⇐肝鬱化火、気血両虚

<女性は閉経が近くなると、体内の活動や体熱産生エネルギー(陽気)が次第に衰えて、気力、体力も衰えてくる。臓腑ではまず内分泌をつかさどる腎(副腎や卵巣に相当)が衰える。更年期における精神的鬱屈や心理的ストレスは、ストレス反応(肝気鬱結)を生じ肝の疏泄(気を流通させる作用)を失調させる。こうして肝・腎の失調は次第に脾・肺・心にも波及する。心が衰えると種々の精神症状が出現する。こうして全身の陰陽気血の調和が乱され、更年期障害に特有の多彩不定の臨床症状が出現してくる。>

 

線維筋痛症は40~50代の更年期の女性に好発しますが、S.Hさんのプロフィールも典型的なタイプに属します。逆に典型的タイプの線維筋痛症の女性患者には更年期障害との関連を念頭に置いています。S.Hさんは閉経後であると判断していましたが、実際には疑似閉経であり、無月経が持続していたことがわかりました。実際にクッパーマン女性健康調査票によってS.Hさんの更年期障害指数を算定すると指数39で、重症度評価段階Ⅳでした。これは中等症を越えより重症に近い更年期障害に相当するものでした。

なお、こうした肝鬱化火(精神的ストレスによる身体症状)、気血両虚(エネルギー不足と血流不足)に対処できる和解剤である加味逍遥散をベースに処方しました。

漢方薬の中には、この加味逍遥散のように身体症状のみならず精神症状も同時に緩和してくれるものが多数あります。それは、東洋医学では、身体病と精神病とを別々のものとは考えず、一体的にとらえていることと無関係ではないと思います。

H.Sさんの漢方処方については、簡単にまとめておきます。

第Ⅰ期の処方/ 気滞⇒和解剤(とくに肝脾調和剤):加味逍遥散

<極度のストレスにより生命エネルギーが活用できず滞り、っている状態であったため、ストレス性の全身的心身症状を緩和する処方:加味逍遥散>

第Ⅱ期の処方/ 血虚⇒補血利水剤:当帰芍薬散

<加味逍遥散を処方しても極度の慢性的ストレスによる消化器系の不調によって生じた水分代謝異常である浮腫みは解決できず残存したため、女性特有のストレスによる疲労を回復させ、浮腫みを解消する処方を選択:当帰芍薬散>

第Ⅲ期の処方/ 温裏補陽・利水剤:当帰芍薬散加附子

<当帰芍薬散を用いて浮腫みは改善したが、冷えの問題は解決できず残存したため、ストレスによる消化器の不調に起因する身体内部の冷えを解消する生薬である附子を当帰芍薬散に加えた処方に修正:当帰芍薬散加附子>

第Ⅳ期の処方/ 再び、当帰芍薬散

<痛み、浮腫み、冷えのすべてが軽快し、寒冷蕁麻疹も改善してきたため、日常の活動性が向上してきたため、維持療法目的で基本の処方に戻して確実な回復を図る:当帰芍薬散>

東洋医学

 

<線維筋痛症の著効例:漢方専門医の立場から>

 

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漢方と鍼灸は共に東洋医学の一分野を構成しており、中国医学の聖典である『素問』 では随所に、「内から薬物で、外から鍼灸で治す」と述べられています。

 

湯液 (漢方) と鍼灸は昔から 「車の両輪」 ともたとえられています。

 

ともに、人間本来の治癒力を引き出すことを主眼とし、病態を 「心身の歪み」として捉え、その歪みを是正していく方向で治療を行います。

 

自覚症状を尊重し、 愁訴をとることに重点を置いている点、個別医療が基本である点など、多くの共通点があります。

 

そうした両者の共通点を活かした併用療法は、 各々単独で治療を行った時よりも愁訴の軽減やQOL(生活の質)の向上に寄与することが可能です。

 

しかも 漢方と鍼灸は互いの治療効果を高め合うので、相乗効果が期待できます。

 

 

しかし、現代は、鍼灸師と薬剤師、医師の免許が分かれ、鍼灸師は鍼灸で、医師・薬剤師は漢方でという趨勢の時代です。

 

日本の医師免許は、西洋医学も東洋医学もオールマイティな大型免許です。ですから、きちんとした医療を提供できるのであれば、一人の医師が西洋医学の治療の他に、漢方薬を処方したり、自ら鍼治療を施したりすることも可能なのですが、実践している医師はごく少数派です。

 

高円寺南診療所でも鍼灸師不在の時代は、医師が自ら鍼灸治療を行っていた時代があります。

 

現在では、鍼灸治療は専任の坂本光昭鍼灸師に全面的に委ねていますが、毎週土曜日の午前7時からは東洋医学カンファレンスを行い、東洋医学における漢方・鍼灸統合医療を症例ごとに検討することを続け、より良い診療に向けて工夫を重ねています。

 

 

線維筋痛症は、漢方・鍼灸併用療法が奏功する代表的な疾患です。S.Hさんも鍼灸治療はまだ2回のみですが、約3か月で著効を示しました。まずは、結果からご紹介します。

 

 

S.Hさんの諸症状の変化

 

顕著な変化は、2年半ぶりの月経再開です。

 

S.Hさんは閉経であると思い込んでいたようですが、無月経が続く疑似閉経であったことが判明しました。

 

その他、

慢性疼痛の強さ10⇒2、全身倦怠感10⇒4、冷えの程度10⇒4、

 

呼吸困難感の程度10⇒2、寒冷蕁麻疹の発生頻度10⇒4、

 

不眠の程度10⇒3、気分のイライラ10⇒2

 

いずれもまだ完全ではありませんが、やはり明らかな改善がみられ、S.Hさんの生活の質は改善されました。

 

 

なお線維筋痛症の重症度や治療による改善の程度を知るための尺度にJ-FIQスコアがあります。

 

S.Hさんの初診時の疾患活動性94.2点で高度つまり重症(高度≧70)でした。

 

これが1ヶ月後には⇒69.5(中等度≧50)

 

さらに1ヶ月後には⇒31.3(軽度≦50)

 

 

また改善度を評価してみますと、

 

94.2-31.3=62.9点でこれは確実な改善を表します(著明改善>50)。

 

 

 

このあたりで、今度は東洋医医学での診察所見の一端をお示しします。

 

以下は代表的な脈診(脈の診察所見)である脈証・舌診(舌の診察所見)である舌診の脈証と⇒それに基づく弁証(見立て)およびそれの<解説>を併記します。

 

脈証:沈・虚⇒裏虚・陽虚

 

<脈は沈んでいて無力⇒心身の内部のエネルギー不足と、それに伴う冷え>

 

舌証:舌体青紫舌・歯痕・舌下血絡、舌苔薄

⇒気虚(水飲内盛)・気滞(痰飲停滞)血瘀・気血壅滞(熱)

 

<舌は青紫色がかっていて、歯の当たる部分の舌に歯型が残り、舌の裏面の静脈が怒張していて、舌表面の苔は薄い⇒エネルギー不足、エネルギーや血液や体液の巡りが共に滞っている>

 

 

問診:慢性疼痛⇐血瘀と寒(冷え)、全身倦怠感⇐肝気虚、

 

冷え⇐陽虚、血瘀、水滞の併存、

 

呼吸困難感⇐陽虚肺寒、寒冷蕁麻疹⇐風寒証、不眠⇐陰陽両虚、

 

気分のイライラ⇐肝鬱化火、気血両虚

 

 

<女性は閉経が近くなると、体内の活動や体熱産生エネルギー(陽気)が次第に衰えて、気力、体力も衰えてくる。

 

臓腑ではまず内分泌をつかさどる腎(副腎や卵巣に相当)が衰える。更年期における精神的鬱屈や心理的ストレスは、ストレス反応(肝気鬱結)を生じ肝の疏泄(気を流通させる作用)を失調させる。

 

こうして肝・腎の失調は次第に脾・肺・心にも波及する。心が衰えると種々の精神症状が出現する。

 

こうして全身の陰陽気血の調和が乱され、更年期障害に特有の多彩不定の臨床症状が出現してくる。>

 

 

線維筋痛症は40~50代の更年期の女性に好発しますが、S.Hさんのプロフィールも典型的なタイプに属します。

 

逆に典型的タイプの線維筋痛症の女性患者には更年期障害との関連を念頭に置いています。

 

S.Hさんは閉経後であると判断していましたが、実際には疑似閉経であり、無月経が持続していたことがわかりました。

 

実際にクッパーマン女性健康調査票によってS.Hさんの更年期障害指数を算定すると指数39で、重症度評価段階Ⅳでした。

 

これは中等症を越えより重症に近い更年期障害に相当するものでした。

 

 

なお、こうした肝鬱化火(精神的ストレスによる身体症状)、気血両虚(エネルギー不足と血流不足)に対処できる和解剤である加味逍遥散をベースに処方しました。

 

 

漢方薬の中には、この加味逍遥散のように身体症状のみならず精神症状も同時に緩和してくれるものが多数あります。

 

それは、東洋医学では、身体病と精神病とを別々のものとは考えず、一体的にとらえていることと無関係ではないと思います。

 

 

H.Sさんの漢方処方については、簡単にまとめておきます。

 

第Ⅰ期の処方/ 気滞⇒和解剤(とくに肝脾調和剤):加味逍遥散

 

<極度のストレスにより生命エネルギーが活用できず滞り、っている状態であったため、ストレス性の全身的心身症状を緩和する処方:加味逍遥散>

 

 

第Ⅱ期の処方/ 血虚⇒補血利水剤:当帰芍薬散

 

<加味逍遥散を処方しても極度の慢性的ストレスによる消化器系の不調によって生じた水分代謝異常である浮腫みは解決できず残存したため、女性特有のストレスによる疲労を回復させ、浮腫みを解消する処方を選択:当帰芍薬散>

 

 

第Ⅲ期の処方/ 温裏補陽・利水剤:当帰芍薬散加附子

 

<当帰芍薬散を用いて浮腫みは改善したが、冷えの問題は解決できず残存したため、ストレスによる消化器の不調に起因する身体内部の冷えを解消する生薬である附子を当帰芍薬散に加えた処方に修正:当帰芍薬散加附子>

 

 

第Ⅳ期の処方/ 再び、当帰芍薬散

 

<痛み、浮腫み、冷えのすべてが軽快し、寒冷蕁麻疹も改善してきたため、日常の活動性が向上してきたため、維持療法目的で基本の処方に戻して確実な回復を図る:当帰芍薬散>

心身医学科(心療内科、脳神経内科、神経科を含む)

 

<線維筋痛症の著効例:心療内科専門医の立場から>

 

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線維筋痛症(fibromyalgia : FM)は、新しい疾患ではなく、以前は心因性リウマチ、非関節性リウマチ、結合織炎などと呼ばれていました。

 

FMの病因は、正確には不明ですが、中枢である脊髄を介した脳の機能異常であることが強く示唆されています。

 

 

FMでは痛みのブレーキ経路である下降性疼痛抑制経路(セロトニン系、ノルアドレナリン系)が破綻していると考えられています。

 

また、FMでは中枢の興奮経路が賦活されており、いわゆる痛みアクセル系が制御できない状況になっています。

 

痛みのブレーキ経路の破綻とアクセル経路の制御不能が相まって痛みをさらに悪化させている状態を中枢の感作と呼んでいます。

 

この病態が進行して知覚過敏の極期の病態をアロディニアと呼び、「風が吹くだけでも痛い」、「電車の振動で痛みが増す」と表現されます。

 

 

他の慢性疼痛性疾患である顎関節症歯痛症舌痛症などでも共通の病態と考えられていて、実際に、しばしばこれらの病気を併発します。

 

 

FMでは、多彩な身体症状があらわれるだけでなく、多彩な神経、精神症状が出現します。

 

我が国ではFMの約半数の症例で乾燥症状(ドライアイ、ドライマウス)が認められますが、これは交感神経の緊張によると考えられています。

 

 

機能的MRIの解析で、FMには特異的な脳の機能異常、特に認知機能の異常が報告されています。

 

つまり、FMは運動器系に症状があらわれる身体疾患ではあるけれども原因は中枢が関与しているため、運動器系心身症ととらえることができます。

 

したがって、心身症に対する一般的なアプローチと同様に、薬物療法と非薬物療法が相補的な役割を果たすため、両者を適宜併用することが望まれます。

 

 

FMは人口比で1.7%(200万人)を占め、決して稀な疾患ではなく、むしろ比較的多い疾患です。

 

それにも拘わらずS.Hさんの報告にもあるように<認知度が低く、理解されない病>であることが問題になっています。

 

一般の方ばかりではなく近年までは医師でさえFMの存在を認知されない状況でした。

 

そのために<不安で精神肉体共に疲れ限界寸前!>というのは決して大げさではない表現です。

 

 

FMは、脳の機能異常であるため、薬物療法のみに頼っていては治療効果が上がりにくいです。

 

運動療法(ストレッチ、温水プール治療、太極拳)認知行動療法などが推奨されています。

 

水氣道は、これらすべての要素を統合した治療法であるため積極的な参加を呼び掛けています。

 

とりわけ認知行動療法はエビデンスレベルが高いです。

 

これは慢性痛があっても、達成可能な目標を設定して対処していくスキルを獲得する心身医学療法です。

 

S.Hさんは、今年の10月初旬に高円寺南診療所の初診を受けていますが、それまで毎日10本の煙草を30年間続けていました。

 

喫煙はFM治療にとって有害であることをお伝えすると、きっぱりと禁煙を決意され、直ちに実行してその後も禁煙を継続されています。

 

 

<現在は適切な治療を受けて、痛みも落ち着き物事も前向きに考えられるまでに回復!>

と書かれていますが、禁煙の実行を治療開始早々に成功されたことでもたらされた成果であると考えられます。

 

FMを治すためには、過去のマイナスな感情を切り離して、自らが治療に前向きになることが欠かせません。

 

禁煙の即時決断と実行は、S.Hさんの治療に対する前向きで積極的な意欲の現れであると評価することができます。

 

 

12月12日の受診の際に、痛みは10⇒2、冷えは10⇒4、呼吸困難感は10⇒2、気分のイライラは10⇒2、寒冷蕁麻疹は出現しなくなりました。

 

また、長引いていた睡眠障害による夜間の中途覚醒もほぼ克服しつつあります。

 

そして何よりS.Hを驚かせたのは、2年半ぶりで月経が再開したことです。

 

すでに閉経に達したと考えていたS.Hさんは、閉経ではなくFMによる無月経であったことにようやく気付くことができたようです。

 

今回は40代、男性、MNさんです。

 

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<「水気道」に行くから水着を買いに行こう>と友人から誘われたM.Nさんは、12年前の当時は、突然なので驚きとまどっていらしたのではないでしょうか。

 

それにもかかわらず、御自分でも決断して水着を購入したM.Nさんは、思い切りが良く、柔軟な協調行動がとれたことが報告示されています。

 

 

一方<(友人からの勧めが)12年前、その後、ちゃんと始めてから10年たちました。>

 

という辺りには、M.Nさんらしさの本音(興味はあるが仕事が忙しいのできちんと続けるつもりはない)を垣間見ることができます。

 

2年間のためらいの理由は明らかではありませんが、決断と実行の後でもためらいが生じることはよくあります。

 

 

<体や気持ちがしんどい時もあります。>そのような時はだれにでもありがちなことですね。

 

そして、ややともすれば、定期的で周期的な健康行動のペースさえも崩してしまいがちになります。

 

本来であれば、いつもの通りに実行できることさえもためらってしまう傾向は水氣道の初心者である体験生や、少し慣れてきて気が緩みがちになる訓練生にしばしば見られる傾向です。

 

多くの場合は、ためらって過ごした稽古時間ばかりでなく、その後の時間までもがかえって非生産的になり、体や気持ちがますますしんどくなるのを経験した皆さんも少なくないことでしょう。

 

 

M.Nさんが立派なのは、そんな時の適切な対処法に気づいていて、しっかりと実践してできていることです。

 

<そんな時「えいや!」と気合を入れていきます。>私の場合もそんな時期があったように記憶しています。

 

因みにM.Nさんもかつては低体温で平熱が35.5℃程度だったのが現在では標準的な平熱である36.5℃になっているとのことです。

 

私の場合自己判断ですが体温が37℃以下(かつての平熱が36.1℃、現在は36.5℃なので、それより0.5℃上昇までの範囲)で、悪寒(寒け)が無ければ、多少不具合でも出向きます。

 

すると、M. Nさんが体験したように心身が軽やかになり、体が温かくなります。

 

程よい疲れは熟睡の効果を生むことになります。

 

すると、M. Nさんが体験したように、

<(水氣道の稽古が)終った後は体も気持ちもかろやかになります。> 

私の場合も心身が軽やかになり、体が温かくなります。

 

<疲れも感じますが、むしろそれは心地良く、その日の夜はぐっすり眠れます>

との報告ですが、程よい疲れは熟睡の効果を生み、心身の疲労をバランスよく自然な回復を促進させてくれます。

 

 

M.Nさんは<何をやっても三日坊主の私が>と述懐されておりますが、たとえ体調が悪くなくとも、納得して始めなければ、またやっていることの意味が腑に落ちなければ継続が不可能なのは当然だと思います。

 

水氣道は、少なくとも一年間の春夏秋冬の四季の稽古を継続すれば、必ず納得できる変化が現れ、頭でではなく体感や行動変容を通して腑に落ちる経験ができるはずです。それが水氣道の魅力でもあると思います。

 

 

また、こうした行動パターンがとれるならば、たとえば早起きも容易になります。

 

寒い日はつい布団が恋しくなり、休日ともなればなおさら朝寝坊して生活リズムを崩しがちになりますが、そうした不摂生とも無縁になっていくことができます。

 

 

M.Nさんの行動変容は立派ですね。彼を水氣道に導いてくれた友人の方にも感謝したいと思います。

 

たとえ紆余曲折しながらであっても<10年も続けてこられた>ということはM.Nさんにとって生涯の財産になっていると思います。正に継続は力です。

 

 

ドクターが常日頃話されているように「母親の羊水」に浮かんでいる胎児のような感覚の遺伝子やDNAを備えているのでしよう。

 

恵みあふれる水の偉大さに感謝して水気道の稽古に皆様と共に精進したいと思います。

 

 

日本水氣道協会 上席支援員 水氣道従弐段下

 

水氣道 活水航法 直伝 林 亮博(はやし あきひろ)

総合リウマチ科(膠原病、腎臓、運動器の病気を含む)

 

<線維筋痛症の著効例:リウマチ専門医の立場から>

 

線維筋痛症(FM : fibromyalgia)とは、体軸を含み身体の広範囲で生じる腱付着部の慢性的な痛みを伴う機能的なリウマチ性疾患です。慢性痛は3か月以上継続する痛み、機能的な疾患であって一般的な血液検査や画像診断では炎症所見その他の特異的な所見は得られません。また、ほとんどの例で強疲労感を伴います。

 

 

sh

 

 

FMはS.Hさんのように中年以降の女性に好発します。

 

<全身の痛みで日常生活に、支障がでました>とありますが、日常生活動作や生活の質が極めて低いことが患者さんを大いに苦しめることが問題になります。

 

そのような痛みが5年も続いたらとても大変です。

 

しかも、FMの全身痛は関節痛や頭痛などを伴いやすく、また疲労感ばかりでなく、しびれやこわばり、乾燥症状(ドライアイ、ドライマウス)、睡眠障害など多彩な症状を呈します。

 

 

一般的にリウマチ性疾患の診察において痛みの評価のためには、まず圧痛と運動痛を触診します。

 

FMでは診断基準にしたがい、特有の圧痛点をチェックします。筋肉痛を主訴とするいくつかの疾患の鑑別が重要で、手掌全体で押さえたり、軽く押さえたりして丁寧に圧痛の有無を確認します。

 

このとき筋肉全体に痛みがあれば、むしろリウマチ性多発筋痛症多発筋炎を疑います。

 

 

つぎに筋力の評価をします。リウマチ性疾患では、①筋原性疾患による一時的筋力低下と、②神経、関節病変などによる二次的筋力低下があります。

 

筋肉痛を伴うが筋力低下がなければFMやリウマチ性多発筋痛症を疑います。

 

筋肉痛に筋力低下が伴えば多発筋炎/皮膚筋炎などの筋原疾患を疑います。

 

 

診断のためには圧痛点と除外診断が欠かせません。

 

とくに脊椎関節炎シェーグレン症候群に伴う腱付着部炎掌蹠膿疱症性骨関節炎は二次性のFMとなることが多いです。

 

他にも、甲状腺機能低下症脳脊髄液減少症慢性疲労症候群大うつ病双極性障害なども鑑別が必要です。

総合アレルギ‐科(呼吸器・感染症、皮膚科・眼科を含む)

 

<総合アレルギー診療から統合医療へ、No2>

 

MI

 

M.Iさんと多数の専門医の先生方が、長期に亘って格闘してこなければならなかった理由は?

 

 

私は、第一の問題は診断そのものにあると考えました。

 

 

「リンパ腫様丘疹症」と診断される。(とりあえず診断名をつけるとすれば、という感じ)とありますが、大学病院の指導医を含め皮膚科の教授が誠意をもって診断した病名は、私の見立てにおいても決して誤ってはいないと判断しました。

 

医療というのは診断名がつかない限り、特に保険医療ができません。

 

ですから、典型例でない場合であっても(とりあえずの診断名(暫定診断)をしなければ、手当をはじめることができない仕組みになっているのが現状です。

 

このあたりにも、日本の患者さんの不幸、医師の第1の悩みがあるのです。

 

 

つまり、とりあえずであろうとなかろうと、「リンパ腫様丘疹症」と診断した限り「リンパ腫様丘疹症」の治療法として保険で認められた治療法しか選択できないことが第2の悩みです。

 

 

これに加えて、第3の悩みがあります。それは、日本に限らず、現代の先進国の医学・医療の細分化です。

 

M.Iさんを担当した専門医は、単に皮膚科専門医ばかりでなく、それ以上に、リンパ腫様丘疹症に詳しいスーパー専門医かつ指導医です。

 

ですから、「内科系も診てもらう」必要があったのだし、それは誤りでも無駄でもなかったと思います。

 

なるほど皮膚に現れた病気(湿疹など)は、紛れもなく皮膚病であり、皮膚科専門医が診療を担当するのは当然ですが、そこに一種の思い込みによる見落としが働きやすいからです。

 

それは、ときには大きな、そして決定的な見落としの温床となります。

 

病気の結果が皮膚に現れていれば、素人である患者さんのみならず専門家である皮膚科のエキスパートドクターも皮膚病と考えます。

 

しかし、病気の原因までも皮膚にあると思いこんだり決め込んだりしてしまうのは甚だ危険です。

 

 

それでは、M.Iさんは、どのようなアプローチが役に立つのでしょうか?